ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年2号
ケース
メガネトップ――一括物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2003 52 ユニクロ型モデルで低価格化 デフレの波に晒されてきたのはファースト フードやアパレル商品だけではない。
眼鏡も またここ数年で価格下落が一気に進んだ商品 の一つだ。
かつて一セット数万円は下らなか った代物が、今では一万円もあれば、お釣り がくるまでに値下がりしている。
レンズとフ レームを合わせて七〇〇〇円、五〇〇〇円と いった価格は当たり前。
店頭では三〇〇〇円 という驚くべき値札にお目に掛かることもあ る。
いずれも洒落たデザインで、品質も決し て悪くはない。
人件費の安い中国の委託工場でフレームや レンズを生産。
それを輸入してPB(プライ ベートブランド)商品として販売する。
いわ ゆる「ユニクロ」型のビジネスモデルを導入 することで製品原価を抑制し、低価格化を実 現している。
もともと眼鏡は高価なものだった。
そのた め、個人の所有は一セット、もしくは二セッ トというのが一般的だった。
ところが、最近 では賢く見える金縁のビジネス用、色付きレ ンズを使ったカジュアル用、眼に優しい加工 が施されたパソコン作業用などTPO(時・ 場所・目的)に合わせて四〜五セットを使い 分けるユーザーが増えている。
高価な医療器 具だった眼鏡はリーズナブルなファッション 品として認識されるようになってきた。
長らくコンタクトレンズにパイを奪われ続 メーカー任せの物流体制にメス 店舗拡大にらみ一括物流を導入 業界第4位の眼鏡小売りチェーン。
低価格競 争に勝ち抜くために業務プロセスの見直しを 進めている。
その一環として昨年末には、そ れまでのメーカー主導型の物流体制を改め、 一括物流をスタートさせた。
一連の改革によ って売上高の1%分に相当するコストの削減を 見込んでいる。
メガネトップ ――一括物流 てしまった。
「これまで眼鏡は単価の高い商品だったた め、黙っていてもある程度の数が売れれば確 実に儲けの出る商売だった。
それだけに他の 業界に比べてコストに対する意識が希薄だっ た。
価格破壊が進んだ結果、コスト競争力の ない中小零細企業は淘汰されていった」と静 岡市に本社を置く業界第四位の眼鏡小売りチ ェーン、メガネトップの山本康之取締役グル ープ経営戦略室長は昨今の業界動向を解説す る。
メガネトップは八〇年五月に設立された。
創業以来、一流ブランド品を他社よりも安く 提供するディスカウント戦略で市場を開拓し てきた。
現在、全国約三五〇カ所に店舗を構 えており、従業員は約一六〇〇人。
直近(二 〇〇二年八月期)の売上高は二五〇億円だ った。
昨年八月には念願の東証一部上場を果 たすなど急成長を遂げている。
しかし、そんな同社にも課題が残されてい る。
チェーンでありながら、チェーンとして の強みを活かし切れていないのだ。
例えば、 けてきただけに、眼鏡の人気復活は業界にと って追い風だと言える。
しかし、手放しで喜 べるというわけではなかった。
過度なダンピ ング競争の影響で、収益悪化を強いられた昔 ながらの中小零細パパママストアの多くは市 場からの撤退を余儀なくされている。
それに 代わって、薄利多売型のビジネスに耐えうる 体力のある大型チェーン小売りが販売シェア を伸ばすなど、業界の勢力図は大きく変わっ 53 FEBRUARY 2003 物流はすべてベンダー任せ。
さらに商品の発 注は各店舗がバラバラに行っている。
「M& A(企業の買収・合併)などを通じて店舗数 を急激に増やしてきたため、チェーンオペレ ーション体制の整備にまで手が回っていなか った」(山本取締役)というのが実情だ。
メーカーから流通の主導権奪う 価格競争は今後も続くと見られている。
そ れだけに先進的な企業をモデルとしたローコ ストなチェーンオペレーション体制を確立し なければ生き残っていけない――。
そう判断 した同社は昨年から業務プロセスの見直しに 取り組んでいる。
最初にメスを入れたのは物流だった。
まず 本社〜店舗間を行き来する書類や販促物など 社内物流の効率化に着手。
続いて昨年十一月 には一括物流をスタートさせた。
もともと同社は各ベンダーが店舗に直接商 品を納品するという物流体制を敷いていた。
取引ベンダー数はレンズで五〜六社、フレー ムで二〇〜三〇社に上る。
そのため、店舗の 販売員たちは納品のたびに煩雑な荷受け、検 品作業を強いられてきた。
これを改め、同じ静岡を本拠地とする物流 企業ハマキョウレックスが磐田郡浅羽町に保 有する物流センターの一部スペースを利用し て新たに物流センターを開設。
そこにベンダ ーからの納品を集約し、全国の店舗に一括で 商品を供給する体制に切り替えた。
店舗側の メガネトップの山本康之取締役 グループ経営戦略室長 99.8 1,268 1,950 1,919 1,836 2,200 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 00.8 01.8 02.8 03.8 (予想) 14 12 10 8 6 4 2 0 (百万円) (%) 売上高・経常利益 経常利益率 売上高 経常利益 経常利益率 メガネトップの業績推移(連結) も長くなっている。
「本来、ユーザーは一刻も早く眼鏡を手に入れたいはず。
しかし、レ ンズの加工をメーカーに委託している以上、 リードタイムを縮めることは不可能だった」 (山本取締役)。
メーカーから物流の主導権を奪うためには どうすればいいのか。
その答えは簡単だ。
レ ンズの加工を内製化すればいい。
実際、メガ ネトップは店舗へのレンズ加工機械の設置を 積極的に進めてきた。
それによって四〇分加 工や一時間加工といった即日加工、即日渡し を実現。
他社とのサービス差別化で顧客を囲 い込むことに成功している。
同時に一括物流 の導入も可能にした。
二次元バーコードを導入 メガネトップが用意した静岡市の一括物流 センターはTC(通過型センター)だ。
セン ター内の作業フローは以下の通り。
まず各ベ ンダーから店舗別に仕分けされた状態で納品 された商品を、店舗別にロケーションされた ラックに種蒔き式で仕分けして一時格納する。
納品すべき商品がすべて揃った段階で店舗ご とに段ボールに箱詰めする。
その後、路線便 を使って各店舗に供給する、という極めてシ ンプルな仕組みだ(次ページ写真参照)。
物流センターの運営費は各ベンダーから徴 収するセンターフィーで賄っている。
フィー のパーセンテージは未公表だが、その金額は 「常識的な範囲」だという。
フレームに関し ては納品価格に対して一律のパーセンテージ を課す一方、レンズでは商品特性や配送地域 などに応じてベンダーごとに弾力的なフィー を設定している。
「もともとレンズメーカーの物流は加工から 納品までのリードタイムが長いことだけが問 題であって、サービスレベルは高いし、コス トも納得できる範囲だった。
今回はメーカー には当社の都合で一括物流に参加してもらっ ている。
それだけにメーカー側が損をするよ うなセンターフィーを設定するわけにはいか なかった」と山本取締役は説明する。
センター運営で特筆すべきはロケーション ラベルや納品ラベルに二次元バーコードを採 用している点だ。
この二次元バーコードは従 来のバーコードに比べデータの記憶容量がは るかに大きく、一つのシンボルに多種多様な 情報を盛り込むことができるという利点があ る。
ところが、これまでは検品用のハンディ スキャナーやラベル発行端末、情報システム などハードとソフトが高価なため、物流業界 での普及が遅れていた。
FEBRUARY 2003 54 荷受け業務を簡素化し、販売員たちを本業で ある販売業務に専念させるのが主な目的だっ た。
「眼鏡は商品回転率が低い商品のため、一 回当たりに納品される物量はごく僅かだ。
そ れでも一日に何度も納品があれば、それだけ で店舗側の負担は大きくなる。
納品の回数が 多ければ、検品ミスの発生率も高まる」と山 本取締役は説明する。
九〇年代以降、一括物流は食品スーパーや コンビニエンスストアなどの分野で広く浸透 してきたが、同じ流通であっても眼鏡業界で の事例はまだ数えられる程度に過ぎない。
業 界最大手の三城(パリミキ)や第二位のメガ ネスーパーなど一部チェーンが採用している くらいだ。
依然として業界内ではベンダー主 導型の物流が主流となっている。
レンズには度数調整など加工作業が必要と される。
この加工作業を行うための機械は一 台当たり六〇〇万〜一〇〇〇万円と高額だ。
投資負担が重く、各店舗に一台ずつ揃えるこ とができない。
そこで多くの小売りはレンズ の加工作業をメーカーに委託している。
メー カーが物流の主導権を握り続けているのはそ のためだ。
こうしたメーカー物流の問題点は、店舗側 がメーカーに加工の注文を出してからレンズ が届くまでのリードタイムが一週間から一〇 日と長いことだ。
それだけ眼鏡を購入したユ ーザーに完成品を手渡すまでのリードタイム ハマキョウレックスの山下基弘 営業二部物流管理課システム管 理マネージャー と説明する。
センターのDC化を機に自動補充へ 前述した通り、現在メガネトップの一括物 流センターはTCとして機能している。
しか し、最終的に同社はこのセンターをDC(在 庫型センター)に切り替える計画だという。
ここ数年ファッション化の影響で、とりわけ フレームの取扱アイテム数が急 増。
それに伴い、 店舗側のフレー ム在庫が膨れ上 がってしまった。
こうした在庫を センター側に引 き上げて一元管 理することで、 店舗側ではでき るだけ在庫を抱 えないようにす る。
それによっ て全社的なフレ ームの在庫水準 を引き下げるの が狙いだ。
DC化を機に レンズの在庫管 理方法も見直す。
もともとレンズ しかし、ハマキョウレックスの山下基弘営 業二部物流管理課システム管理マネージャー は「昨年あたりからシステム全体の価格がよ うやく落ち着いて購入しやすくなった。
メガ ネトップさんの取扱商品アイテム数はここ数 年で急激に増えている。
将来、バーコードに 記憶させる情報が現在よりも増えることを想 定して二次元バーコードの導入に踏み切った」 は店舗に置かれていても売り上げが計上され るまではメーカー側の在庫として扱う「委託 在庫方式」で管理されていた。
つまり、同社 はこれまで在庫リスクを負っていなかったの だ。
「一括物流体制に移行したにもかかわら ず、委託在庫方式を続けていたのではメーカ ーも納得しないだろう。
自社でレンズを加工 できる体制が整ってきたので、今後はレンズ の在庫も自社の責任で持つようにしていく」 と山本取締役。
さらに、DC化と並行してベンダーへの商 品発注のルールも改める計画だ。
もともと同 社では店舗側に発注権を持たせていた。
これ を本社が一括でベンダーに商品を発注する体 制に切り替える。
フレームとは異なり、レン ズは流行に左右されにくい。
そこで店舗ごと に予め安全在庫水準を決めておき、それを下 回ったら物流センターから自動的に在庫を補 充する仕組みを検討している。
一方、フレームについては店舗からすべて の仕入れ権限を奪うつもりはない。
店舗ごと に客層はまったく違う。
当然、顧客から求め られる品揃えもまったく異なってくる。
管轄 エリアではどのような商品が売れ筋なのか。
現場の判断に基づいた商品発注というのも売 り上げを伸ばしていくためには欠かせない要 素であるからだ。
「フレームはアパレル商品と同じように流行 に左右されやすく、需要の振れ幅が大きい。
それだけにある程度柔軟性を持った発注体制 55 FEBRUARY 2003 各ベンダーから納品されるレンズ、 フレームを店舗別にロケーション設 定されたラックに一時格納する ラベルの右下部分にある正方形が 2次元バーコード 作業員は納品された商品を店舗別に 種蒔き式で仕分けていく 昨年11月に稼働したメガネトップの一括物流センター (ハマキョウレックスの浅羽物流センター内) にしておくことが肝心だ。
コンピュータでは 読み切れない部分もある。
店長の長年の勘に 頼るしかない。
ただし、フレームも定番品に ついては本社側が一括でベンダーに発注して 店舗に自動補充する体制に移行させるつもり だ」と山本取締役は説明する。
同社では今年九月を目途に販売系から管理 系までを含めた社内の情報システムを刷新す る計画を打ち出している。
一括物流センター のDC化、そして発注体制の見直しはいずれ もそのタイミングに合わせて実行に移される 予定だ。
チェーンオペレーション体制が確立 されれば、全売上高の一%に相当する分のコ ストを一気に削減できると算盤を弾いている。
実はセンター経由での店舗供給に切り替え たことで、発注から納品までのリードタイム は一日伸びてしまった。
従来はベンダー側に 在庫がある場合、発注の翌日にはきちんと商 品が納品されていた。
これに対して、新体制 ではセンターで仕分け作業を行い、さらに路 線便を使っているため、納品は発注の二日後 となっている。
「緊急を要する場合は他店から在庫を横持 ち輸送することで対処している。
店舗側は一 括物流によってリードタイムが伸びたことに 不満を抱いているに違いない。
しかし、DC 化と本社による一括発注が軌道に乗れば、在 庫管理など店舗側の負担は大幅に軽減される。
徐々に一括物流のメリットを認識してくれる ようになるだろう」と山本取締役は期待して FEBRUARY 2003 56 いる。
リードタイムの問題を解消するために、例 えば静岡のようにドミナント(一定地域への 集中出店)が進んでいる地域では貸切トラッ クによるルート配送を展開する構想も温めて いる。
ベンダーから午前中に納品された商品 をすぐにセンターで仕分けして、午後には店 舗に届ける。
そうすることで、リードタイム を一日短縮するというものだ。
割高な路線便 の利用を減らせば、その分支払い物流費を削 減することもできる。
再度の拠点政策見直しも メガネトップは二〇〇七年までに業界最大 手の三城を抜き、業界トップに躍り出ること を経営目標に掲げている。
その時点での店舗 数は一三〇〇カ所を想定している。
それに向 けて今後四年間もM&A(企業の買収・合 併)や新規出店を積極的に進めていく構えだ。
まずは二〇〇四年までに五〇〇店舗を突破す ることを目指している。
店舗数が増えていくと、現在のセンター規 模では物流を処理しきれなくなる恐れがある。
そのため、五〇〇店舗を超えた段階で、再び 物流体制の見直しに乗り出すつもりだという。
具体的には東日本の店舗向けには横浜周辺に、 西日本の店舗向けには大阪周辺にそれぞれセ ンターを用意。
東西二拠点体制でオペレーシ ョンを展開していくという絵を描いている。
ただし、この二拠点構想も暫定措置となる 公算が大きい。
一〇〇〇店舗を超えれば、次 は東北、関東といった具合にブロックごとに 一括物流センターを用意しなければならなく なる可能性もあるからだ。
「物流センターの数が増えれば、その分全 社的な在庫が膨らむ。
当然、物流コストも上 昇してしまう。
だからこそ、物流センターの 数はなるべく増やさないようにしたい。
ただ し、一つの物流拠点でカバーできる店舗数に は限界がある。
どのくらいの規模の物流拠点 をどのタイミングで用意すべきか。
それを判 断するのが難しくなるだろう」と山本取締役 はいう。
業界トップへの躍進に向けて、メガネトッ プが物流戦略の策定に頭を悩ませる日々は今 後もしばらく続きそうだ。
(刈屋大輔) メガネトップのホームページ http://www.meganetop.co.jp/

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