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MARCH 2003 24
なりふり構わぬ民業圧迫が招く消耗戦
4月1日の郵政公社発足を目前に控え、郵政がヤマト叩きに本
腰を入れ始めた。 しかし、国営を維持しながらのなりふり構わぬ
民業圧迫は、その公正さに問題があるだけでなく、先の見えない
消耗戦から郵便事業の赤字増大を招く。 舵取りを誤れば郵便事業
は「第二の国鉄」と化す。
本誌編集部
ヤマト危うし
今年一月にコンビニエンスストアとして初めて店舗
に郵便ポストを設置したローソンは、その経緯を次の
ように説明する。 「九六年にほぼ全店で郵便切手、は
がきの販売を開始した。 その頃から郵便ポストも設置
してほしいという要望がお客様から寄せられていた。
その都度、個別に郵便局に対して(ポストの)設置を
依頼してきたが、昨年、店内設置の要望を出したとこ
ろ、許可が下りて全店への設置が実現した」
これを文字通りとれば、郵便ポストの設置を要請し
たのはローソン側ということになる。 長年、コンビニ
店舗内へのポスト設置を渋ってきた郵政がようやく重
い腰を上げたという格好だ。 しかし関係者の話を聞く
かぎり、これは事実に反する。 ポストの設置を強く働
き掛けたのはローソン側ではなく、他でもない郵政自
身だ。 あくまでもコンビニからの要請でポスト設置を
認めたというスタンスをとっているのは、「民業圧迫」
という郵政批判を避けるためだ。
もちろんローソン、郵政ともにそのことを公には認
めようとしない。 しかし証拠は揃っている。 郵政がポ
スト設置でコンビニ各社への行脚を続けていた足跡が
残っているからだ。 事実、本誌の取材に対しても複数
のコンビニが「(ポスト設置に関して)郵政側から打
診があった」とあっさり認めている。
コンビニにポストが設置されれば、封書やハガキの
利便性は高まる。 しかし郵政の真の狙いは、むしろ小
包にある。 ポスト設置を足掛かりに、コンビニを「ゆ
うパック」の取次店とすることが最終的な落としどこ
ろだ。 コンビニが掲げている「クロネコ」の旗を引き
ずり下ろして、郵便マークに変える。 これによって長
年の天敵にダメージを与えようというわけだ。
コンビニから出される個人発貨物はタリフ通りの運
賃が収受できる。 大口割引の対象となる企業発貨物
に比べ、宅配便一個当たりの運賃単価は格段に高い。
ヤマトは七六年に「宅急便」サービスを開始して以来、
コンビニなどの取次店を通じてそうした個人発貨物を
薄く広く掻き集めることで、他の宅配業者よりも高い
単価を維持してきた。 郵政はそこに一矢を報いた。
既に郵政は一部コンビニの取次店化に成功している。
昨年一月に大手コンビニのファミリーマートと提携し、
同社の店舗で「Yahoo!
ゆうパック」の取り扱いを開始
している。 「Yahoo!
ゆうパック」とは、ヤフーのオーク
ションサイトで売買が成立した商品をファミリーマー
トの店舗から郵便小包を使って発送すれば、運賃が最
大で一〇%割引になるサービスだ。 一部地域を除く全
国の店舗が対象となっている。
オークションの売る側は送りたい荷物を最寄りのフ
ァミリーマートに持ち込む。 続いて店舗に設置されて
いる情報端末に売買成立時にサイトで提示された受
付番号を入力。 発行された申込券とレシートをレジの
店員に手渡せば手続きが完了する。 あとは郵便小包の
ネットワークで買い手に荷物が配送されるという仕組
みだ。
もともとファミリーマートはヤマトの「宅急便」の
取次店として機能してきた。 現在もその役割を担って
いる。 宅急便の運賃収入は全店で年間に一〇〇億円
弱。 このうちの数%を手数料収入として得ている。 伸
び率こそ鈍化しているものの、依然として「宅急便」
による収入は右肩上がりを続けており、ファミリーマ
ートにとって重要な収益源の一つとなっている。
にもかかわらず、ファミリーマートはヤマトの最大
のライバルである郵政の「Yahoo!
ゆうパック」導入に
踏み切った。 その理由をファミリーマートの成田祐一
特集2 郵政のヤマト包囲網
25 MARCH 2003
特集2
営業企画本部E-Retail
企画・金融部長は「郵政関連サ
ービスの最大の魅力はこれまでコンビニに馴染みの薄
かった年齢層が足を運んでくれるようになることだ」
と説明する。
現在、ファミリーマートにおける「Yahoo!
ゆうパッ
ク」の取扱個数は月間約三万個。 一〇万人を突破し
たヤフーオークションの会員数の拡大に歩調を合わせ
るように、取扱個数は日を追うごとに増え続けている。
これを受けて、ファミリーマートでは今年四月から全
国の店舗での取り扱いを開始する計画だ。 他にも郵政
とはポストの設置、通常の郵便小包の取り扱い、郵貯
や保険の取り扱いなど、あらゆる面で提携について意
見交換を進めているという。
成田部長は「小包に関しては『宅急便』サービスと
バッティングしないように、『Yahoo!
ゆうパック』のよ
うな何らかの付加価値を持たせたサービスとして売り
出していくべきだと考えている」と、ヤマトへの配慮
も口にする。 しかし、郵政シフトの影響は全くゼロと
いうわけにはいかないだろう。
対抗策を懸念する機関投資家
郵政のヤマト包囲網は、コンビニを中心とした取次
店の奪取にとどまらない。 商品化でもヤマトに追い打
ちを掛ける。 その第一弾として郵政公社が発足する今
年四月に郵便小包の新サービス「エックスパック50
0」を投入する計画を打ち出している。 全国一律五
〇〇円という料金で小包を配達する。
ユーザーは五〇〇円でA4判の専用封筒を購入。 そ
の中に書類などを入れてそのまま郵便ポストに投函で
きる。 民間の宅配便に対抗するため、配達は原則翌
日。 いわゆる?投げ込み〞ではなく、荷受け人から受
領印をもらう?判取り〞型のサービスだ。
新サービスは「四月一日の公社発足と同時に大々
的に発表する」(郵政事業庁郵務部営業課)方針のた
め、現段階ではその詳細は明らかになっていない。 し
かし、関係者の話をまとめると、ヤマトを始めとする
民間宅配便業者が現在提供している専用封筒(厚紙)
を使ったビジネス文書の配送サービスと真っ向から競
合することになりそうだ。
民間が宅配便の基本料金に準じてサービスを提供
しているのに対して、郵政はそれをはるかに下回る料
金体系を打ち出す。 これまで民間が宅配便の枠内で
手掛けてきた文書類の配送の一部が郵政サイドに流れ
るのは必至だ。 ヤマトが「スモールB」と呼び自らの
中心顧客に据えてきた小規模事業所や個人客などが
メーンのターゲットになる。 定価ベースの料金を払っ
てきたユーザーが多いため、これもヤマトにとっては
単価の下落要因だ。
しかし、コンビニとの関係強化、さらに小包の新サ
ービス投入という郵政の攻勢に対して、これまでヤマトはこれといった対抗措置を打ち出していない。 信書
便市場の開放がビジネス領域の拡大、そして業績の引
き上げに寄与すると期待感を強めていた機関投資家た
ちは、郵政公社発足を目前に控えた今も静観の姿勢
を貫くヤマトに失望感さえ抱き始めている。
実際、昨年の春時点で二三〇〇円台後半の値をつ
けていた同社の株価は、業績好調であるにもかかわら
ず、信書便市場への不参入を表明した後からじりじり
と下降。 現在では一五〇〇円台に低迷している。
ところが、当の本人たちは焦るどころか、むしろ余
裕の表情さえ浮かべている。 「一連の郵政の施策はま
ったく怖くない。 肝心なところには一切メスが入って
いない。 一時的に当社の荷物が郵政に流れることはあ
っても必ず戻してみせる。 郵政は公社化後も黒字転換
ローソンは今年1月、店舗
内に郵便ポストを設置した
ファミリーマートの「Yahoo!
ゆうパック」の取扱個数は月に
3万個に達している
MARCH 2003 26
はできないだろう。 負ける気はしない」と山崎篤常務
は言い切る。
検証・郵便再生ビジョン
四月一日、郵政公社の発足と同時に、これまで国
が独占してきた手紙や葉書などの「信書」の配達を民
間企業に解禁する信書便法が施行される。 もっとも、
これを機に信書便市場に新規参入しようという民間
企業は、地域・サービスを限定した特定信書便業者
として軽貨物運送のバイク急便が名乗りをあげたほか
は皆無。
郵政公社の最大のライバルになると目されていたヤ
マトを始めとする民間宅配業者は、いずれも信書便法
の制約の下での参入はメリットがないと判断して、参
入を見送っている。 法律上は規制緩和しながらも、実
施的には信書便市場の郵政による独占が維持された
格好だ。
それでも、郵政公社の前途は洋々と言うにはほど
遠い。 民営化論をはね除け、市場の独占を維持した
ところまでの政治的駆け引きは、確かに郵政そして郵
政を監督する立場にある総務省の圧勝だった。 とこ
ろが皮肉にも、この勝利が郵政公社に決定的な足か
せとなる。
郵政三事業のなかでも、とりわけ郵便事業は慢性
的な赤字体質に加え、財務状況は債務超過に陥って
いる。 郵貯や簡保で得た利益を郵便事業に回すことは
認められていないため、郵便事業はあくまでも自力で
黒字化を果たさなければならない。 しかし、民間企業
では当たり前の人員削減や給与削減が、国家公務員
によって運営される公社では許されない。
昨年末、郵政事業庁にトヨタ自動車から「カイゼ
ン」のスペシャリストたちが派遣された。 狙いはもち
ろんオペレーションの効率化だ。 望みうる最良の?教
師〞を迎え、大幅な生産性の向上が期待されている。
しかし、この取り組みが成功を収めたとしても、改善
によって浮いたマンパワーは、他の仕事に振り向ける
ことができるだけに過ぎない。 公社という枠組みを維
持する以上、収入の八割を占める人件費を大幅に削
減することは困難だ。
つまりコスト削減による縮小均衡という選択肢が公
社には与えられていない。 黒字化には事業規模の拡大
が絶対条件だ。 ただし、eメールやファクスの普及に
よって信書便市場の規模は今後、減少する傾向にあ
る。 郵政が強みとする私人から出される貨物も全体に
占めるシェアを落としている。 残された道は法人需要
の獲得だけだ。
そこで郵政は今年二月、三井倉庫と小包配送の事
業提携に踏み切った。 この提携に先立ち二〇〇一年
四月に郵政は山九とも提携を結んでいる。 しかし、山
九は重厚長大産業向けの倉庫事業を得意とし、郵政
の事業展開とは結果的に馴染まなかった。 これに対し
て今回の三井倉庫との提携では、法人発・個人着の
いわゆる「B to
C」の荷物を狙う。
具体的には通販会社がターゲットだ。 通販会社の
受注から代金回収までを三井倉庫が担い、配送に郵
政を利用する。 DMやカタログの送付、注文ハガキの
返信、「ゆうパック」による商品の配達、返品などが
郵政の売り上げになる。 三井倉庫との交渉は一年前
から始まっていた。 サービス開始は公社の発足する四
月からとなるが、既に通販系荷主の受注も確定してい
るという。
法人営業には郵政公社の職員が前面に出て活動す
る。 従来から郵政事業庁には法人営業の専門部隊が
ある。 郵政は営業マンをそのスキルに応じて三段階に
24,800
24,750
24,700
24,650
24,600
24,550
24,500
24,450
18,950
18,900
18,850
18,800
18,750
18,700
18,650
18,600
18,550
18,500
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 (年度)
(局)
特定郵便局数(右)
郵便局総数(左)
●郵便局・特定郵便局数
ヤマト運輸の山崎篤常務
27 MARCH 2003
階級付けしている。 一般の営業マンがBランク。 その
上の提案営業ができる営業マンがAランク。 さらに高
いレベルの提案ができるSランクという分類だ。 Aラ
ンク以上の営業マンは現在、全国に約五〇人。 主に
大都市圏や政令都市に配置している。
提案営業専任スタッフを倍増
郵政事業庁郵務部営業課の山田伸治課長補佐は「今
後はAランク以上の営業マンを現在の倍に当たる一〇
〇人に増やす。 同時に山九や三井倉庫以外の物流会
社とも同様の提携を拡大していきたい」という。 郵便
事業から物流事業に業務領域を拡大することで、固
定費負担に見合った経営規模を確保しようという戦
略だ。 公社にとって当然の施策と言える。
しかし、ここでも政治闘争で勝ち取った国営という
立場が制約になる。 公社による物流市場への参入は
民業圧迫という非難を免れない。 加えて公社には国民
への平等なサービスの提供という「ユニバーサル・サ
ービス」が義務付けられている。 特定の荷主と相対で
価格やサービスを設定することが許されない状態で、
民間企業との市場競争を勝ち抜くのは容易ではない。
さらに本誌連載陣の一人、野村証券金融研究所の
北見聡シニアアナリストは「このところの郵政の動き
は、自分たちのウイークポイントをきちんと把握した
上で、的を射た対策を打っていると評価できる。 生田
総裁というカリスマを得たことで郵政職員の意識が変
わりつつあることは間違いないようだ。 ただし過小資
本でスタートする郵便事業には投資余力がない。 提携
だけで果たして効果が上がるのかどうか」と財務体質
の脆弱さを懸念する。
コンビニの活用や新商品発売などの?クロネコ退
治〞を目的とした戦術も、ヤマトを牽制する効果はあ
っても、業績に対する貢献という意味では疑問が残る。
公社は二〇〇六年度までの今後四年間の中期経営計
画のなかで、郵便事業で五〇〇億円の累積利益を計
上する目標を掲げている。 しかし当初、一〇億円の黒
字を見込んでいた二〇〇二年度は郵便物の減少で数
百億円規模の赤字に転落した模様だ。 さらに公社の
初年度となる二〇〇三年度も二六億円の赤字が見込
まれている。
それでも特定郵便局の数は依然として増え続けてい
る。 高給をはむ特定郵便局長の人数もそれだけ増加し
ている。 人件費の削減にも手をつけ始めたが、その中
身を見ると現場の人件費を削っているばかりで、管理
職や中央の役人の人件費はほとんど減っていない。 「い
ずれサービスの品質面でしっぺ返しがくるかも知れな
い」と、郵政の内部関係者は警告する。
足元ではこれまで収益源だった信書便の通常郵便
を、逆にヤマトを始めとした民間宅配業者に浸食され
るのは必至だ。 ヤマトは公社発足の四月前には公社に対抗する新サービスをぶつけてくるはずだ。 同様に佐
川急便も郵政の書留郵便に相当する新商品を三月末
に発売すると発表している。
ヤマトが郵政と同じ個人間(C
to
C)の消費者物
流をターゲットに宅急便のインフラを構築したのは事
実だが、その売り上げの内訳を見ると既に法人発の荷
物が全体の八割を占めるまで拡大している。 今後、コ
ンビニを利用する個人貨物が郵政に流れたとしても、
ヤマトの業績に与える影響は限定的だと考えられる。
むしろ郵政が無理な商品化やインフラの裏付けを欠
いた個数拡大に走れば、結果として赤字を膨らませる
危険がある。 ?ヤマト憎し〞が勝ち過ぎて、経営のバ
ランスを見失えば、先のない消耗戦に陥る。 中期経営
目標の達成どころか黒字転換さえ覚束ない。 さらに
特集2
メール便運賃設定事業者
ヤマト運輸
日本通運
佐川急便
中越運送
福山通運
トナミ運輸
西濃運輸
カトーレック
姫路合同貨物自動車
新潟運輸
クロネコメール便
NITTSUメール便
飛脚メール便
中越メール便
フクツーメール便
パンサーメール便
カンガルーメール便
カトーメール便
ヒメゴーメール便
シルバーメール便
2000年5月2日
2000年7月25日
2000年9月21日
2000年9月5日
2000年11月24日
2001年3月12日
2001年3月31日
2002年6月14日
2002年6月27日
2002年11月5日
2000年7月1日
2000年8月1日
2000年10月1日
2000年10月6日
2000年11月27日
2001年3月19日
2001年4月1日
2002年7月1日
2002年7月1日
2002年12月1日
出所:国土交通省自動車交通局貨物課
事業者名 便名
届出年月日
実施年月日
(1)
信書に該当する文書の例
●会議招集通知の類について
・近年、FAXや電子メールなど電気通信の利用が大幅に増えているが、信書
との関わりについての考え方を明確にすべき。 《全日本運輸産業労働組合連
合会》
・公となっている会議の招集文書や書籍に会議招集通知が同封された場合の扱
いが不明確。 《日本通運株式会社》
●
許可証の類について
・認定書や表彰状は、私的(企業内等)なものも含まれるのか明らかにすべき。 《全日本運輸産業労働組合連合会》
●ダイレクトメールについて
・ダイレクトメールについては、誤解を生みやすいので、類例を表示するなど
より明快な指針とすべき。 《日本ダイレクトメール協会》
・ダイレクトメールの解釈はカタログや新聞折り込みとどんな違いがあるのか
不明確。 《東京路線トラック協議会》
・ダイレクトメールとチラシ、カタログの区別が不明確。 これらについて通信
の内容からの定義には無理がある。 《郵政産業労働組合中央本部》
・ダイレクトメールとチラシの区別が不明確。 《日本通運株式会社》
・ダイレクトメールは一般的に「公然あるいは公開たりうる事実のみ」がほと
んどであり、現実に信書には該当しない。 《全日本運輸産業労働組合連合
会》
・ダイレクトメールは信書からはずすべき。 また、百貨店にとってダイレクト
メールは荷物そのものであり信書と考えていない。 《東京路線トラック協議
会》
・信書の秘密の保護は、差出人がその保護を求めるか否かによるものであって、
あくまでも選択権は送達する差出人に委ねられるべきであり、ダイレクトメ
ールは信書に該当しない文書とすべき。 《社団法人東京都トラック協会》
・ダイレクトメールは、全国あまねく、均一にサービスを保証しなければなら
ない必要不可欠の通信文書とは思えないので、信書に該当しない文書とすべ
き。 《社団法人日本経済団体連合会》
・ダイレクトメールは本来、利用者がその営業目的に沿って利用する、商品な
どの広告・宣伝手段のひとつに過ぎず、文書の内容そのものは、不特定多数
MARCH 2003 28
?クロネコ退治〞が最終的に失敗に終われば、後に残
るのは巨額の赤字だけ。 結果として郵政が「第二の国
鉄」化する可能性さえ否定できない。
静観するライバルたちの算盤
こうした郵政とヤマトのつばぜり合いを他のライバ
ルたちはどう見ているのか。 その筆頭とも言える佐川
急便は当面、官民競争の正面に立つことを避け、静
観を決め込んでいる。 佐川急便の若佐照夫取締役経
営企画本部長は「郵政公社と当社ではマーケットが
違う。 公社の発足で当社が直接、大きな影響を受け
るとは考えられない。 それよりも従来から課題として
掲げてきた品質改善と財務体質の健全化のほうが今
の当社にとっては大きい」と説明する。
メール便の事業の拡大は計画しているが、課題とな
っている末端配送については、全国の新聞販売店との
提携を活用するという従来の方針のまま。 郵政との本
格的な競争に向けた大規模投資などは念頭にない。 郵
政・ヤマトの戦いの行方を見極めてから動いても遅く
はないという判断のようだ。
同様に日本通運も信書便市場への参入は見送る。 昨
年四月、信書便法を含む郵政関連法案が閣議決定さ
れたのを受け、ヤマト・佐川が即座に不参入を表明し
たのとは対照的に、日通はこれまで信書便市場への参
入意志を留保していた。 しかし年が明けて最近になっ
て同社の経営陣は信書便市場には当面参入しない意
向を口にするようになった。
もっとも、同社で信書便の事業化調査を担当した
ペリカン・アロー部小口事業戦略室の勝島滋室長は
「信書便市場に参入しても利益を上げる方法が全くな
い、というわけではない。 策はある。 しかし、大きな
経営判断になるのは事実。 当社をとりまく現在の環境
信書便ガイドラインのパブリックコメント
(匿名の個人
44
件を除く団体
15
件の概要)
29 MARCH 2003
を考えると、今はその時期でないという判断だろう」
と今後の展開について含みを残す。
日通の宅配便は事業開始以来の赤字体質を改善で
きずにいる。 日通だけではない。 ヤマト・佐川を除き、
ほとんど全ての大手特別積み合わせ運送業者にとって、
宅配便事業は経営の足を引っ張る?お荷物〞と化し
ている。 しかしインフラビジネスである宅配便の事業
化に当たって、各社とも既にかなりの額の投資と人員
をつぎ込んでいる。 事業撤退は容易なことではない。
またB
to
C貨物を持つ荷主をつなぎとめておくため
にも、メニュー上は宅配便を残しておきたい。 メンツ
の問題もある。 そのため赤字を垂れ流しながらも、特
積み大手は宅配便事業を切らずに維持してきた。 しか
し、バブル崩壊以降十年続く不況によって赤字事業
を抱えておく余力も尽きた。 そんな特積み業者の目に、
郵政公社は突如として現れた救世主として映っている
はずだ。
特積み業者の宅配便が、ヤマト・佐川の専業二社
に敗れた最大の要因は末端の集荷・配送力にある。 一
方の郵政は民間企業とは桁違いの配送インフラを持つ
ものの、消費地を中心とした法人向けの集荷力に課
題がある。 郵政と特積みという組み合わせの提携はお
互いを補完する効果がある。 郵政公社化によって、そ
の道は大きく拡がっている。
ヤマトは世論を喚起できるか
結果として、信書便市場と、それに隣接する宅配
便市場は、郵政公社の発足を契機に事実上一つの市
場として統合される。 当面は郵政とヤマトの消耗戦。
それを静観する佐川。 さらには郵政との提携を模索す
る特積み業者という構図で市場競争は展開されるだろ
う。 ヤマト・佐川の「二強」に対し、郵政連合という
特集2
人を対象として作成された文書であるため、信書ではない。 《ヤマト運輸株
式会社》
・カタログが信書でないとする以上、ダイレクトメールも信書ではないとすべ
き。 また、ダイレクトメールは他人に開示されることによってプライバシー
が侵害されることは考えられないことからも信書には含まれない。 《佐川急
便株式会社》
●追加すべき具体例
・テープ、カード、フロッピー等を「文書」に類するものとして信書の範疇に
加えるべき。 《郵政産業労働組合中央本部》
・書状と役所から出る証明書以外は信書としない。 《東京路線トラック協議
会》
・信書とは、常識に照らして、はがき・手紙の類のみと判断している。 《ヤマ
ト運輸株式会社》
(2)
信書に該当しない文書の例
●書籍の類について
・会報・会誌を広く一般に対して発行されるものと解釈すると、DMの定義と
矛盾が生じる。 《日本通運株式会社》
●カタログについて
・カタログを「特定の受取人に対するものではない」とした例示には合理性が
ない。 《郵政産業労働組合中央本部》
(3)
参考(募集対象外の意見)
・従来の信書定義の幅が弾力的、現実的となり、まだ課題が残されているが、
一定の前進があった。 《日本通運株式会社》
・信書の範囲が最大限に拡大されている点と解釈が恣意的である点から指針(案)
には賛成できない。 《ヤマト運輸株式会社》
・指針(案)おいては、信書の範囲について行政による法的な根拠に基づかない解
釈が多分に入り込んでおり問題。 規制緩和の流れに逆行することのないよう
あくまでも利用者の視点に立った指針を作成すべき。 《佐川急便株式会社》
・新たな規制を加え、民間企業の市場からの事実上の撤退を求めてくることを
懸念させる。 公正な形での市場開放の推進を要望。 《社団法人日本物流団体
連合会》
特集2
MARCH 2003 30
●基本的な考え方について
・定義の解釈は、差出人が信書であると意思表示した文書に限定するなど狭義
の解釈にとどめるべき。 《東京路線トラック協議会》
・差出委託者の意思表示のあるものだけを信書とすべき。 具体的には、送達・
差出委託者の秘密保護依頼意志として、「親展」、「社外秘」、「担当者外秘」、
「書留」等の意志表示がされた文書類だけを「信書」と定義すべき。 《社団法
人航空貨物輸送協会国際宅配便部会》
・ユニバーサルサービスの対象とすべき「信書」の範囲は、「国民の基本的通信
手段」を確保する上での必要最小限にとどめるべきであり、基本的には、一
般国民の意思疎通に利用される種類の文書(例えば定型の封書、葉書等)に限定
すべき。 《社団法人日本経済団体連合会》
・「信書」の範囲の解釈に当たっては、今日的な社会通念を踏まえ利用者の視
点から見て必要最小限に留めるべき。 《社団法人日本物流団体連合会》
・もともと「信書」の概念は、刑法第133条の信書開封罪における「信書」
がその基本であり、これまでの判例・学説においては、「事実を通知する」文
書までもが含まれるものではなかった。 定義において「事実を通知する」文
書までも含めるのは概念の拡張。 《佐川急便株式会社》
・海外で受託する海外発日本向け文書等は、対象としない。 《社団法人航空貨
物輸送協会国際宅配便部会》
・文書ファイルがインストールされたフロッピーディスクやCD
―ROMまでが
信書と解釈されかねない。 《ヤマト運輸株式会社》
・これからも時代の趨勢や国民意識の変化に即して、随時、柔軟に信書定義が
見直されるべき。 《日本通運株式会社》
・信書・非信書の区別を判断する場合には、信頼性と公正性を保つべく、公正
取引委員会のような中立的な第三者機関が、郵政公社・民間企業・利用者の
意見を充分聴取した上で、利用者の便宜を最優先に考慮して決めるべき。
《ヤマト運輸株式会社》
・欧米を中心に民間参入範囲基準は、料金と重量が中心。 この基準を日本でも
適用すべき。 《社団法人航空貨物輸送協会国際宅配便部会》
・「条件付全面参入」を見直し、重量基準等による部分的段階的参入への見直
しが必要。 《郵政産業労働組合中央本部》
*総務省資料より本誌が作成
三つ目の柱が立ち上がる形だ。
その初戦となる郵政とヤマトの競争は、ヤマトが
その商品力によって、どれだけ世論を喚起できるか
にかかっている。 郵政による民業圧迫をいくら訴え
てもアピール力には欠ける。 ヤマトの業績がどうなろ
うとユーザーには直接、関係のない話だ。 過去にヤ
マトが郵政の小包に対抗する宅急便を育てていく課
程で、行政相手に有利なケンカを展開することがで
きたのは、便利なサービスを求める世論の後押しが
あったからだ。
発送に手間がかかり、しかもいつ到着するのか分か
らない郵便小包しか選択肢のなかった時代に、宅急便
の全国翌日配送というサービスは決定的な商品力を
持っていた。 これに対して現在、郵政が提供している
信書便の満足度は決して低くはない。 現在、ヤマトが
提供しているメール便と決定的な差はないと言ってい
いだろう。
それでもヤマトの山崎常務は強気を崩さない。 「今
のユーザーが郵便のサービスに満足しているとは思わ
ない。 他に選択肢がないだけだ。 日本の国民一人当た
りの郵便利用率は先進国の中では最低レベル。 封書
の八〇円という料金も諸外国と比べて格段に高い。 新
しい商品を開発することで、需要は創造することがで
きる」と断言する。
競争の結果、価格が下がり、サービスが向上するの
であればユーザーにとっては歓迎すべき話だ。 しかも
既存のパイを奪い合うだけでなく、そこに新しい需要
が生まれるのだとしたら、それは停滞する日本経済全
体という視点からも朗報と言えるだろう。 ただし、そ
のためには公正な競争が担保されなければならない。
それをウオッチしていくことは、本誌を含め、ユーザ
ーの義務であるはずだ。
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