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APRIL 2003 68
調査の概要
米リッチモンド・イベンツ社は毎年、ロジス
ティクスの専門家を対象に「ロジスティクス&
e
―サプライチェーンフォーラム」を開催してい
る。 同社の協賛の下、ARCアドバイザリーグ
ループは過去二年間のフォーラムでアンケートと
検討会による調査・研究を行ってきた。
二〇〇二年度の研究テーマは「シックスシグ
マ・ロジスティクス」。 シックスシグマとは、顧
客の視点から経営改善をするための品質管理手
法である。 ゼネラル・エレクトリック(GE)や
モトローラといった米国の著名企業が採用し、劇
的な効果をあげたことで有名になった。 今年度
の調査・研究は、シックスシグマがサプライチェ
ーンとロジスティクスの分野で、いかに効力を発
揮するか見極めることを目的としている。
今回、我々は約二〇〇人のロジスティクスの
専門家を対象にアンケート調査を依頼した。 そ
のほぼすべてがアンケートに回答し、検討会にも
参加してくれた。 さらに製造業、小売業、物流
業に従事する二〇人が参加して行われたワーク
ショップでは、顧客志向のサプライチェーンを構
築することが現在の最優先課題だということが
明らかになった。
もっとも今年度の調査に参加してくれたグル
ープが?平均的〞な企業を代表しているわけで
はない。 先進的な企業が中心であり、その多く
はサプライチェーン部門が社内で重要な位置を
占めている。 このため調査企業の九・九%は、す
でに何らかのかたちでシックスシグマのプログラ
ムを導入済みだった(図1)。
仮に調査対象を全米の企業に広げれば、その
割合ははるかに小さくなるはずだ。 だからこそ、
いま「シックスシグマ・ロジスティクス」の導入
に取り組むことは、企業の優位性獲得につなが
る可能性が大きい。 厳密な体系からなる「シックスシグマ・ロジスティクス」のプログラムは、
平均的なレベルの企業には難しい。 これを導入
することは、先進企業がさらに強みを増すこと
を意味しているのである。
シックスシグマの導入手法
今回の検討会で興味深かったのは、シックス
シグマを導入した経験を持つ企業の多くが、そ
の草分けともいえる特定企業の出身者とともに
導入にあたってきたという点だ。 特定企業とは
モトローラやGE、アライド・シグナル(現ハネ
ウエル)などを指す。 シックスシグマの「プロセ
ス」と「キーツール」は、実務経験の豊富な、こ
うしたエキスパートたちによって明確に定義され
スティーブ・バンカー
ARCアドバイザリーグループ
SCM担当ディレクター
八〇年代に日本企業の後塵を拝した米国企業は、日本企業の強さの秘訣
を徹底的に研究した。 そのとき日本のTQC活動をヒントに生み出された
米国流の改善手法がシックスシグマだ。 すでに製造業には浸透している品
質管理の手法だが、本稿ではロジスティクスやサプライチェーンにおける
シックスシグマの可能性を幅広く探っている。
69 APRIL 2003
ている。
なお、以下の報告書では、参加者の名前や企
業名を挙げないことを基本的な原則とした。
■統計データと高いハードル
シックスシグマの導入は、まずプロセスごとに
統計上のバラツキを測ることから始まる。 ある専
門家はシックスシグマについて、「プラスマイナ
ス六の標準偏差のことで、一〇〇万回あたりの
エラー発生率を表している」と説明する。 より
分かりやすくいうと、シックスシグマとは「一〇
〇万回につき三・四回のエラー」しかしないこ
とを意味している(図2)。 そして経営管理手法としてのシックスシグマ
は、ツールを使ってデータのバラツキを把握し、
これをコントロールすることによってエラーを減
らす改善手法だ。 一〇〇万回あたりの欠陥率を
問題にすることによって従来の?基準〞を超え、
より高いクオリティの実現につながるのである。
こうして同じ事柄を異なる基準で提示すること
は、場合によって大きな効力を持つ。
本調査の回答企業のなかのある企業は、原則
として注文を受けると、その日のうちに製品を
出荷している。 全受注の九九・五%以上が即日
出荷で、バラツキはとても小さく顧客の評価も
高かった。 しかし、この会社はこれに満足せず、
今度はパーセンテージに代えて、実際のミスの件
数を顧客に報告するようにした。 例えば、今日
のサービス上のミスは五八件あったと報告する
わけだ。 その結果、ミスの発生をさらに減らすこ
とができた。 現在では一日二万個を出荷しても、
四件しかミスを犯さないレベルにまで到達してい
るのだという。
■顧客本位の評価基準
シックスシグマでは、顧客の価値を反映して
いる指標とは何かが基本になる。 前述の例では、
顧客にとって重要な意味を持つミスの実数を問
題にすることで改善を進めた。 これに対して各
業務プロセスにおけるミスの発生率だけを問題
にしていると、思わぬ落とし穴に陥ってしまう危
険がある。
ある企業は、シックスシグマを導入するか否
かを巡って何度もミーティングを繰り返した。 ま
ず現状を把握するため、オーダープロセスの遵守
率を担当者に聞くと九九・五%ということが分
かった。 次いで出庫プロセスの作業精度を尋ね
ると九八・七%だった。 それぞれ、かなりのレベ
ルの数値といえる。
◆ 顧客の声にもとづくCTQ(Critical To Quality:
経営に決定的な影響を与える重要な要因)の特定
◆ ディフェクト(欠陥、不良)の定義
◆ 基本となる4ステップ=MAIC
・ M(Measure=測定):プロセスの質は?
・ A(Analyze=分析):欠陥の原因は?
・ I(Improve=改善):主要変数
・ C(Control=コントロール)改善結果定着のた
めの管理
シックスシグマとは
顧客の立場からの品質改善手法
シックスシグマの手法
プロセスの質 百万あたりの
エラー回数
図2
σ(シグマ) PPM(百万分率)
2 308,537
3 66,807
4 6,210
5 233
6 3.4
0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0
9.9%
8.3%
5.8%
5.0%
4.1%
12.0
(%)
図1 シックスシグマ・プログラムを当該プロセスに導入している企業の割合
Manufacturing
(製造)
Fulfillment
(注文充足)
Sourcing
(購買)
Product Development
(製品開発)
Customer Service
(顧客サービス)
※シックスシグマもしくは継続的な改善プログラムを実施している企業は10%に満たない
APRIL 2003 70
この企業の担当者の多くはこうした数字に満
足してしまい、現状のまま放置することを決め
た。 その結果、顧客にとってのサービス遵守率
が八〇%台に落ちこみ、信用を損ねるという事
態を招いてしまった。 個々のプロセスの達成率
は満足できる数字だったのだが、全体として見
ると決して満足のいく数字にはなっていなかった
ためだ(図3)。
?パーフェクトオーダー・ピラミッド〞の考え
方は、顧客本位の評価基準の代表例と言える。 個
別の評価基準を積み上げていくことで、最終的
に顧客にとってパーフェクトな業務を評価する
ことができる。 パーフェクトオーダーにはさまざ
まな解釈があるが、実際にプロセスを測定した人々の間では、個別のプロセスのバラツキは複
数のプロセスを重ねるごとに雪だるま式に増えて
いくという点で一致している。
パーフェクトオーダーの評価基準の定義は、本
当に顧客のニーズを反映したものでなければ意
味がない。 しかも、そのニーズは業界や業種によ
って多様だ。
外科手術に使う医療機器を供給する会社の事
例を考えると分かりやすい。 この会社にとっては、
当初のスケジュール通りに病院へ製品を届ける
だけでは不十分だ。 実際に担当者の手に渡るま
でに時間がかかってしまい、手術に間に合わな
くなるケースがしばしばあるためだ。 この企業に
とってのパーフェクトオーダーとは、製品を手術
室まで彼ら自身の手で届けることなのだ。
■シックスシグマは目的ではない
シックスシグマの未経験者にとっては、こうし
て高いハードルを掲げることへの心配や懸念も
ある。 いったんパーフェクトオーダーの測定基準
を作ってしまうと、なぜそれを達成できなかった
のか、あるいは要求そのものがそもそも不条理だ
ったのではないかということについて、ことある
ごとに言い訳をしなければならなくなってしまう。
そう心配する人たちが少なくない。
例えば、3PL業者は、実務を任せている実
運送業者のサービス品質を自ら管理することが
できない。 こうした理由から、シックスシグマの
手法はサプライチェーン全体には適用できない
と考えている人が少なくない。 実際、今回のア
ンケート調査でも四二・一%の人たちが、シッ
クスシグマをサプライチェーン全体に適用するのは難しいと答えている。
こうした懸念に対して、シックスシグマの導入
経験者は、この手法は「目的地ではなく改善へ
向かう終わりのない旅のようなものだ」という。
シックスシグマ・プロジェクトは、ミス率を突然、
三・五シグマから五・八シグマにできるもので
は決してない。 このような非現実的な目標を掲
げても失敗に終るだけだ。 そうではなく、二・八
シグマから三・二シグマに改善できたことを大
きな進歩と考えるべきものだ。
たいていのシックスシグマ・プロジェクトは数
カ月間で終わる。 これを繰り返すことによって最
終目標へと一歩ずつ近づいていく必要がある。 そ
のためには二つのツールが有効だ。 パレート図
・25.6%‥‥オンタイム・デリバリーの調査を
行っていない
・52.9%‥‥納入時の数量に関する検査を行っ
ていない
・52.9%‥‥品物のダメージ検査を行っていな
い
・59.5%‥‥請求書が正しいかどうかをチェッ
クしていない
・81.0%‥‥付加価値サービスに関する調査を
行っていない
パーフェクトオーダー測定基準
(主要顧客本位の評価基準)
「顧客にとっては、予定どおりの出荷な
どどうでもいい。 注文したものを、約
束どおりの時間に受けとりたいだけだ」
99% 99% 99% 99%
デリバリー
確約
納品
スケジュール
ピッキング
付加価値
サービス
パッキング
(梱包)
事前出荷情報
の送信
積み込み
顧客への配送
請求書発行
図3
注文書受領
仮置き
在庫引き当て
99% 99% 99% 99%
99% 99% 99% 99%
個別のプロセスの精度は高いが、トータルのパフォーマンスは88%でしかない
シックスシグマ・ロジスティクス
71 APRIL 2003
(複数の原因を重要度に応じてランクづけする手
法)と特性要因図(=フィッシュボーン・チャ
ート:問題原因を分析する手法)である。
具体的には以下のような作業プロセスを経る
ことになる。 例えば、オンタイム・デリバリーに
ついて評価するとしよう。 ここでは確かに、実運
送業者のサービス品質をコントロールできないと
いう事実を無視するわけにはいかない。 それでも、
まずはバラツキを生じさせる問題点を原因別に
分類する必要がある。 次にこの原因群を、発生
割合の大きなものから小さなものへとパレート図
にして順番に表示してみる。 こうすることで、例えば一〇〇のエラーのうち
三五は住所の間違いだとか、二五は郵便番号の
誤り、あるいは二〇は委託している実運送業者
のミス、といった具合に原因を一覧することが
可能になる。 ここまでくれば、まずは自分たちで
コントロールできる原因のなかで頻度の多いもの
から、改善に着手すればいいことが分かる。
ここでは住所の間違いによるミスの改善を進
めてみる。 まず第一に住所情報をどのように収
集しているかのプロセスマップを作る(プロセス
の定義)。 そして、次は住所を間違える原因を一
つひとつ特定していき、このうち重要な要因を
通常の業務手順にしたがって魚の骨(フィッシ
ュボーン)のような形に図示する(特性要因図)。
こうした作業を行うことによってプロセスの改善
とその評価が可能になるのである。
■チームプロセスの重視
シックスシグマの導入には組織横断的なチー
ムで取り組むべきだ。 関連業務に従事している
メンバーを管理部門から実務部門まで幅広く集
めてプロジェクトを結成し、さらにそこに?ブラ
ックベルト〞と呼ばれるシックスシグマ・プロセ
スにおける中核メンバーを入れる必要がある。
一例を挙げると、ある物流会社が、自社保有
の配送車両を使っているデリバリー・プロセス
について検討をした。 シックスシグマ・プロジェ
クトのチームには、配送実務の担当者が数人、倉
庫で働いている担当者が数人、そして倉庫管理
の責任者と?ブラックベルト〞が参加した。 結
果として、この会社はデリバリー・プロセスに関
するエラーを六割以上も減らすことができた。
この事例で重要なことは、こうしたメンバー全
員が問題の特定と、その評価に従事した点だ。 管
理者から実務者まで含む幅広い立場の人たちが、
現実に起こっていることを指摘し合ったことで
大きな成果につながった。
こうして実務部門の社員が参加することで、シ
ックスシグマの取り組みは組織構造の平準化と、
従業員への権限委譲という意味も持つようにな
る。 すでにシックスシグマの導入を経験した人た
ちは、少なからず同様の経験をしている。
ある企業は、このような事情を踏まえてシックスシグマの導入に取り組むことでプロジェクト
を成功に導いた。 この会社では、まず管理職が
現場に行き、実務担当者たちに状況を詳しく説
明した。 しかし、あくまでも問題点を指摘した
だけで、決して経営陣から動こうとはしなかった。
現場で働く人たちが自ら、直面している問題と
解決策を口にし、その実行を経営陣に求めてく
るのを辛抱強く待った。
ほどなく問題解決に意欲的な一部の人たちか
らそうした動きが出ると、皆が先を争うようにプ
ロジェクトの実施を訴え始めた。 彼ら自身のな
かに、自分たちの仕事を、より価値のあるもの
にしたいという気持ちが生まれたのである。 現場
・プロセスマップを利用した相互依存性の確認
自らのプロセスはパートナーたちにどんな影響を与えているかを検討する
・結果責任の明確化
主要キャリアの実績を注視し、これを見ながら委託物量を加減する。 さらにパート
ナーに対して現在の評価とこれに起因する契約・仕事上の変化を通知されなければ
ならない
・パートナーに対するシックスシグマ教育
ロジスティクスであれ原材料であれ主要なサプライヤーには、プロセスコントロー
ルとシックスシグマ教育のため各施設に“ブラックベルト”を派遣している。 荷主
側の費用負担でこれをやることでサプライヤーは言葉と目標を共有できるようにな
る。 その上でサプライヤーのプロセスを改善しコストメリットを分かち合う
・プロセス改善における新技術の適用
ある企業はSCEM(サプライチェーン・イベント・マネジメント)の異状警告シス
テムを利用しオンタイム・デリバリー率を96.0%から99.6%へと改善した
サプライチェーン全体の質をシックスシグマ・
ツールを使っていかに改善するか?
APRIL 2003 72
が一丸となったその後のプロジェクトで、この会
社は大きな成果を得たという。
シックスシグマの導入を成功に導く決め手の
ひとつは、経営陣がチームプロセスを尊重するこ
とにある。 そしてチームに対しては、次のように
言っておかなければならない。
「我々は性急な意志決定を排除しなければならな
い。 個人の意見や提案される解決策に対し、や
たらと異議をはさむ輩はどこにでもいる。 こうい
う人物が組織を台なしにしてしまう。 まずは皆
がしかるべき手順通りに仕事を進めているかど
うかを、確認することから始めよう」
シックスシグマのためのトレーニングを、すべ
ての参加者が受けることによる高い効果を自覚
するのも重要だ。 問題にアプローチするとき、同
じ言葉を共有していることが大きな価値を持っ
てくる。 シックスシグマの導入で豊富な実績を
持つ会社に所属していたある人が、トレーニン
グの行き届いていない会社に転職したとき、そ
のことを実感したという。 二つの会社では、ミー
ティングの効率や問題への取り組み姿勢に愕然
とするほどの差があったと彼は指摘する。
■結果責任を明確にする
シックスシグマ導入の成功には、ここまでに述
べてきたように問題を分析・特定し、チームで
取り組むだけではまだ足りない。 導入に取り組
むメンバーたちが、それぞれプロジェクトの結果
に対して相応の責任を負うことが欠かせない。
単に評価基準を明確にするだけではなく、そ
の評価基準を基に、具体的にどのような評価が
下されるのかまでを定義しておく必要がある。 こ
れはシックスシグマ・カルチャーが根付いた企業
にとっては常識ともいえる取り組みだ。
あるプロセスとその改善について定義するとき
は、その取り組みによる責任も明確にしておか
なければならない。 責任を負うべき対象を明確
にしたら、次はチームの各メンバーに結果責任
を割り当てる。 そうすることで各自の役割を周
知徹底し、責任を果たさなかった場合にどうな
るかまで明らかにしておく。
そうやって参加者の実績を、しかるべき評価
基準やKPI(経営管理指標)に落とし込んで
いく。 この際の評価基準は、社内にとどまらず、
社外の主だった業務パートナーたちまで網羅し
ておく必要がある。
ここで最も重要なことはPDCAサイクル(計
画―実行―評価―対処)の実施だ。 個々のエラ
ーを発見したら、この部分だけを取り出してP
DCAサイクルに則って検討する。 そうやって
全体と切り離して検討していくと、ある程度の
レベルまで改善が進むと、個別のエラーがさらに
際立ってくるという循環が生まれる。 これが改
善の効率を一層、高めるという好循環につなが
っていく。
品質にはコストがかからない
シックスシグマの経験を持っていなくても、こ
の手法が業務改善や品質改善につながると評価
している人は多い。 その一方で、コスト削減を
最大の関心事とする人たちにとっては、シック
スシグマの導入がコストにどういう影響を与える
のかが重要なポイントになる。
これに対して経験者たちは、シックシグマによって業務のバラツキを抑制することは、コスト削
減の有効な処方箋でもあると口を揃える。 しか
もサービス全体を考えるとき、シックスシグマの
導入や改善によって不要なコストが発生するわ
けではない。 逆に製品の欠陥やプロセスの不備
を放置しておくことは、間違いなくコスト増につ
ながる。
実際、シックスシグマを導入した企業の多く
が、劇的なコスト削減を体験している。 ある企
業はグローバル・ロジスティクスにかかわる改善
を進めた結果、初期段階だけで数百万ドルの経
費を削減した。 その後、さらに改善を重ねるこ
とで、もっとはっきりとした形で数百万ドルのコ
スト削減を上積みできたという。
5.1% ‥‥評価基準やKPIがまったくない
・ 9.9% ‥‥KPIはあるが問題に対処しうるタイ
ミングで情報を得ていない
・11.6%‥‥KPIがあっても、その情報に基づい
て対処することをしていない
・18.2%‥‥サプライチェーンの主要パートナー
に対する適切な評価基準をもってい
ない
・19.8%‥‥従業員の業績評価を評価基準に反映
させていない
・61.2%‥‥すべての部門が共有する評価基準に
欠けている
・74.4%‥‥プロセスのどこにバラツキの原因が
あるかを決める基準がなく、体系的
な改善のための情報が得られていな
い
・81.0%‥‥企業同士に共通する評価基準がない
評価基準に関する調査結果
シックスシグマ・ロジスティクス
73 APRIL 2003
こうしたコスト削減は、その性質上、特定の
部門だけの成果にとどまらない。 ある企業はシ
ックスシグマを導入することで、エラー率を六割
以上も減らすことに成功した。 そのためにかかっ
たコストは、特定の部門ではなく会社全体の経
費として計上すべき種類のものだった。 一方、エ
ラー率を減らしたことによる見返りは、倉庫管
理部門、受発注部門、顧客サービス部門、管理
事務部門など多くの部門が享受した。 そして、こ
のプロジェクトにかかった実費は、ブラックベル
トとして従事した担当者一人の人件費、八万五
〇〇〇ドルに過ぎなかったという。
こうした事例を聞いても、まだ品質の向上に
コストがかからないことに納得できない人もいる
かもしれない。 とくに顧客サービスに関するコス
ト、例えばサービスレベルやフレキシビリティに
関する品質を改善しようとすれば、少なからず
コストアップにつながるのではないかと考える人
は多いはずだ。
もしあるメーカーが納品遵守率を九七%から九九%に高めようとすれば、大幅な在庫の積み
増しが必要になる。 サービスレベルを向上させる
ためには、在庫増によるコストアップが避けられ
ないのではないか――という懸念である。 こうし
た見方に対して、シックスシグマの導入実績を
持つ企業の担当者は、次のように反論する。
在庫を積み上げて対応すれば確かにコストは
増えてしまうが、納品率九七%というレベルで
あれば、シックスシグマによって従来の在庫量を
維持するために必要なコストを削減することが
可能なのではないか。 また安全在庫の算定がリ
ードタイムと深く関係していることに着目して、
シックスシグマによってこの分野のバラツキを減
らせば、安全在庫の量を維持したままサービス
レベルを高めることも可能なのではないか――。
つまりサービスレベルを高める手段は、在庫の積
み増しだけではないというわけだ。
シックスシグマは容易ではない
シックスシグマの導入経験者たちは、それが
安易な道ではないことを一様に認めている。 こ
れは紛れもなく会社全体で取り組まなければな
らない課題だ。
■経営トップの意志
企業がシックスシグマ・プロジェクトで成功
を収めるには、その前提として社内にシックスシ
グマ・カルチャーを浸透させる必要がある。 これ
は経営陣の明確な意志と、上意下達の企業風土
がなければ難しい。
実際、CEOがトップダウンで取り組んだか
らこそシックスシグマの導入に成功したという企
業は少なくない。 ある企業では、まずCEOが
高い目標を掲げてみせた。 そして、これに対して
無理だと反発する社員に対し、担当者を入れ換
えてでも実行する決意をCEOが示したことが
成功につながったという。
こうしたカルチャーが浸透していない企業では、
せっかくブラックベルトを持つ人材を配置しても
周囲からやたら浮き上がってしまいかねない。 シ
ックスシグマを理解していない人たちは、ブラッ
クベルトに対してこう言うだろう。 「九万ドルも
の年俸をもらっていながら、やることといえば手直しをして回るだけか。 いったい他の社員には、
何に対して給料を払っていると言うんだ?」。 こ
うした企業風土では、チームによる改善の実現
が極めて困難なことは言うまでもない。
■トレーニングの重要性
シックスシグマがトップダウンで遂行されるべ
きもう一つの理由は、全社規模のトレーニング
が欠かせない点にある。 グリーンベルトやブラッ
クベルトといったシックスシグマの指導者たちの
肩書は、マーシャルアーツという格闘技のそれに
似ている。 それぞれ異なったレベルの訓練を積ん
でおり、トレーニングによる経験の深さを各種の
フレキシビリティ関連のKPI
リードタイム
サプライチェーン・レスポンス・タイム
プロダクション・フレキシビリティ
顧客の許可する受注時点を基点として、確実に実
行できる通常のリードタイム
変則的で著しく突然の要請に対して、サプライチ
ェーン全体が対応するまでの時間
上方修正:任意のタイミングで発生した2割の継
続的増産体制を整えるための日数
下方修正:とくに在庫を持ったり、また割増料金
を請求することもなくデリバリー30
日前の時点で継続的な減産に対応す
る
シックスシグマ・ロジスティクス
APRIL 2003 74
ベルトで表している。
グリーンベルトやブラックベルトの内実は会社
ごとに違うが、肩書を得るのに要するトレーニン
グや、そこに費やされる時間はすべてのケースで
重要な意味を持っている。 ある企業を例にとる
と、グリーンベルトの取得に数週間のトレーニン
グと、成功したシックスシグマ・プロジェクト
(実際にコスト削減かサービス改善を実現したプ
ロジェクト)への参加を求めている。
グリーンベルトは通常の業務に従事し、シッ
クスシグマ・プロジェクトへは必要に応じて参加
するだけだ。 これ対してブラックベルトは、シッ
クスシグマ・プロジェクトの専従であり、この資
格を取得するには半年近いトレーニングと経験
が必要となっている。 そしてマスター・ブラック
ベルトの保有者は、そうしたブラックベルトを監
督する立場にある。
ある意味でシックスシグマの導入の鍵となる
のは、グリーンベルトのマネージャーの数という
見方もできる。 これが多いほどよい。 そのために
シックスシグマに熱心な企業には、この肩書き
を昇進の条件としている企業さえある。 こうし
た取り組みは、経営トップの強い意志なくして
あり得ないのである。
ARCアドバイザリーグループの設立は1986年。 世界のソフトウエア・ソ
リューション企業のみならず、大手製造業、公共施設、グローバル・ロジス
ティクス・サービスプロバイダーに対する戦略的プランニングや技術評価
サービスを手掛けている。 今日の技術主導型の経済のなかで成功する
ための戦略的ノウハウを、大手からベンチャー企業まで幅広く提供して
いる。 なおARC社は毎月、『ARCストラテジーズ』を発行している。
※このレポートは報告書の著作権を持つ米リッチモン
ド・イベンツ社の許可を得て本誌が翻訳しました
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