*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
APRIL 2003 26
本誌編集部
配車管理の新モデルを探る
2000年から2001年にかけて、日本で求貨求車システムの一大
ブームが巻き起こった。 数十ものITベンチャーが担い手として名
乗りを上げた。 しかしITバブルの崩壊とともに、その多くは姿を
消した。 嵐の去った市場では今、求貨求車の新しい試みが静かに
進められている。
トランコム
脱・水屋目指し新サービス投入
「当社の物流情報サービス事業は大きな転換期を迎
えている。 主要都市への配車センター設置は二〇〇三
年度でほぼ落ち着く。 売り上げも順調に伸びてきた。
しかし、これからの求貨求車システムに求められるの
はサービスの質だ。 我々は輸送品質に重点を置いた新
たなサービスを投入していくつもりだ」
名古屋を本拠地とする中堅物流企業トランコム。 物
流情報サービスグループの大澤隆統括マネージャーは
そう力説する。
一般に求貨求車ではトラックを確保したい側と荷物
を求める側との取引が一回ごとに完結する。 取引に参
加するのは主に荷物を持つ運送会社と実運送を担当
する運送会社。 運賃はその時の相場によって変動する
という仕組みになっている。
これに対してすでにトランコムが一部拠点でスター
トさせている求貨求車の新サービス「専属契約傭車」
はトラック運送会社からあらかじめ車両を預かる。 そ
して輸送区間や最低運賃を決めたうえで、配車の一
〇〇%達成を保証するというサービスだ。 スポット取
引ではない。 業界では?常用〞とも呼ばれている(特
集第4部記事参照)。
トランコムがこのサービスを開始したのはもちろん、
求貨求車の取引に参加する運送会社に安定的に仕事
を供給するためだ。 しかし実はもう一つ目的がある。
この「専属契約傭車」を武器にして直荷主、すなわち
メーカーなど実際に荷物を持っている荷主企業を開拓
することを狙っている。 荷主企業に特定路線の配車業
務をすべて丸投げしてもらい、トランコムは優先的に
「専属契約傭車」を配車する。
荷主企業にとってのメリットは大きい。 まず、突発
的な輸送需要が発生した際に運び手となる運送会社
を探す手間が省ける。 常に同じ運送会社のトラックと
ドライバーが業務を担当するようになるため、届け先
の住所や電話番号を知らせるといった細かな配車指示
をしなくてもいい。 運賃が相場の動向に左右されず、
しかも低水準に固定されたかたちで配車が組まれるた
め、輸送コストを低く抑えることも可能だ。
一方、トランコム側にも利点がある。 直荷主の開拓
が進み、安定的に荷物を確保できるようになれば、輸
送需要の低迷で荷物が枯渇しているトラック運送会
社を物流情報サービスの利用に引き込むための呼び水
となる。 また元請け運送会社と実運送会社をマッチン
グするのに比べ、荷主と実運送会社を直接結びつけら
れる分、高いマージン率の手数料収入が得られる。
新サービスに対するトラック運送会社と荷主企業の
評価は上々だ。 「我々はトラック運送会社に安定的に
仕事を供給できる。 当然、トラックの稼働率は上がる。
一方、荷主企業に対しても『ドライバーの態度はきち
んとしているか』、『輸送事故の経験はないか』といっ
た厳しい基準をパスしたトラックを送り込むため、常
に高品質な輸送サービスを保証できる。 現在、トラッ
ク六〇台が専属契約傭車として活躍しているが、これ
を三月末までには九〇台に拡大する計画だ」と大澤マ
ネージャーは意気込んでいる。
トランコムがこれまで提供してきた物流情報サービ
ス(求貨求車サービス)は「単に水屋親方を寄せ集め
ただけ」(大澤マネージャー)というきらいがあった。
東京、大阪、名古屋など主要都市を中心に配車セン
ターを設置。 そこにアジャスターと呼ばれるマッチン
グ担当者を配置し、電話を使って帰り荷が見つからな
いトラックと、反対に運び手が見つからない荷物の情
第5部
27 APRIL 2003
特 集
報を探し出す。 そして条件が合致するものを結びつけ、
手数料収入を得るというシンプルな仕組みだった。
それでも業績は飛ぶ鳥を落とす勢いで伸び続けてき
た。 物流情報サービス事業の売り上げは二〇〇〇年
三月期が三九億円。 これが翌〇一年三月期には五七
億円に。 〇二年三月期は七二億円に伸長した。 さら
に先月末で締めた〇三年三月期は約一〇〇億円に到
達した模様だ。 今期は前年比四〇%増の一四〇億円。
二年後(二〇〇六年三月期)には現在のちょうど二
倍に相当する二〇〇億円を見込んでいる。
しかし社内では「市場でのシェア拡大を優先して、
売上規模を追求する戦略で事業を展開してきたが、現
状のサービスのままではいずれ業績は頭打ちになるだ
ろうという危機感が拡がっていた」(大澤マネージャ
ー)という。 実際、物流情報サービス事業には不安定
な要素も少なくなかった。 昨年末以降、会社全体とし
てのマッチング件数が落ち込んでいる。 荷主企業とト
ラック運送会社から寄せられる荷物情報、空車情報
も減ってきた。 運賃は底を這う状態が続き、マージン
率の圧縮は進む一方だ。 競合する求貨求車システムの
追い上げも厳しくなってきている。
さらに「アジャスターの生産性低下が目立つように
なった。 現在、アジャスター一人当たりの月間マッチ
ング件数は一六〇〜一七〇。 これをおよそ二倍の三〇
〇件にまで引き上げないと、求貨求車事業はビジネス
として成り立たない」と大澤マネージャーは説明する。
トランコムは今回の新サービス投入を、閉塞感の漂
い始めた求貨求車ビジネスを再び活発化させる突破口
としたい考えだ。 専属契約傭車サービスではあらかじ
め荷物情報が確定している状態のため、スピーディー
なマッチングが可能になり、生産性の大幅な改善につ
ながる。 しかも直荷主を掴まえることで、市場の需給
の動きに左右されることなく、安定的に収益を確保で
きる体制が整えられる。 そう算盤を弾いている。
富士ロジテック
配車コンサルタントが活躍
これまで荷主企業にとって求貨求車システムを利用
する一番の魅力は、帰り便を活用することによる運賃
の「安さ」だった。 しかし、ITブームで雨後の竹の
子のように求貨求車システムが乱立した今、荷主企業
は「安さ」だけでは食指を動かそうとはしない。 求め
ているのは「安さ」プラス「品質」だ。 教育の行き届
いたドライバー、丁寧な荷扱いなど高い輸送品質――。
自社で仕立てるトラックに匹敵するハイレベルなトラ
ックが配車されることを望んでいる。
実際、こうした顧客ニーズの変化に合わせて、求貨
求車システムの運営企業はサービスの拡充に余念がな
い。 八二年に求貨求車システム「ACTION」を
立ち上げた富士ロジテックもそのうちの一社だ。 同社の岡元正敏運輸部長は「トランコムさんは当社とまっ
たく同じ道を歩んでいる。 しかし、既にわれわれはも
う一歩先に進んでいる」と優位性を強調する。
同社で目下売り出し中の新サービスは「配車業務
のコンサルティング」だ。 専門の営業部隊が荷主企業
を訪問。 過去の「ACTION」利用履歴データを
基に、最適な配車方法をアドバイスするというものだ。
例えば「毎月コンスタントにトラック一五台分の利用
がある。 しかし出荷を一日前倒しするようにすれば、
もう少し利用台数を減らすことができるのではないか」
といった具合に、単なるマッチングではなく踏み込ん
だ提案を行う。
そもそも、求貨求車システムは突発的な輸送需要の
発生などで配車がうまく組めない場合に主に利用され
トランコムの「専属契約傭
車」サービスはアジャスタ
ーの生産性向上につながる
APRIL 2003 28
る。 求貨求車システムを運営する企業にとっての?上
客〞は配車を苦手とする企業だ。 これに対して、富士
ロジの新サービスは自らでビジネスチャンスの芽を摘
み取ることにもなりかねない。
それでも同社は「どこまで運賃を下げられるのか、
荷主側とマッチングする側が互いの腹の中を探り合う
ような従来のやり方では、いつまで経っても信頼関係
は構築できない。 求貨求車事業の本来の目的は荷主
のコストダウンに貢献することだ。 配車業務そのもの
に問題があるのであれば、それを改善できるようなサ
ービスを提供すべき」(岡元部長)という結論に達した。
富士ロジの配車コンサル部隊は実際に荷物が出荷
される場所まで出向く。 配車がうまくいかないのは何
故か。 現場に山積する問題点を徹底的に洗い出す。 そ
のうえで最適な配車方法をアドバイスする。 そして、
最終的には配車にとどまらず、センター運営を含めた
物流業務全体のコーディネートにまで踏み込もうとし
ている。 そうすることで、本業である3PL事業の受
注につなげることを同社は目論んでいる。
キユーソー流通システム
他社との連携で情報量を増やす
富士ロジが提供するようなサービスが広く浸透し、
荷主企業の配車管理レベルが高まれば、求貨求車マ
ーケットに出回る荷物の絶対量が減少していくのは確
実だ。 これにどうやって歯止めを掛け、取引件数を維
持していくか。 それが求貨求車システムを運営する企
業にとって大きなテーマとなりつつある。
求貨求車事業「QTIS」で年間に一三〇億円を
稼ぎ出すキユーソー流通システム。 同社はこれまで荷
物とトラックのマッチングに参加できるメンバーを限
定してきた。 現在、取引サイトに直接アクセスできる
のは一次会員約八〇社のみ。 実運送の委託先も二次
会員約四五〇社に絞っている。 広く参加者を募るオ
ープンな取引を指向せず、完全にクローズドなシステ
ムとして運営してきた。
その理由を同社の佐々木健二取締役は「貨物保険
を掛けているかどうかも分からない相手に対し、依頼
があったからといって即断して仕事を与えるというや
り方にはリスクがありすぎる」と説明する。
しかし、ここにきてキユーソーは従来の運営方法を
見直すことを検討し始めた。 他の有力求貨求車システ
ムや食品系物流子会社の配車システムとの連携を強
化しようとしている。 ただし、完全なオープン系シス
テムへの移行を模索しているわけではない。 あくまで
も目的は「QTIS」の参加者に提供する荷物情報
と空車情報の絶対量を増やすことにある。
現在、「QTIS」のマッチング率は一〇〇%に近
い。 それでも、運賃の下落が続いている影響で、協力
トラック運送会社の収益は悪化の一途を辿っていると
いう。 少しでも良い条件の荷物を傘下の運送会社たち
に提供したい――。 そのためには情報収集の間口を拡
げることが不可欠だとキユーソーは判断した。
「今はトラックが溢れ、荷物が圧倒的に少ないとい
う時代。 求貨求車システムで生き残っていけるかどう
かは、いかにたくさんの荷物情報を集められるかに掛
かっている。 荷物情報というのは安い運賃で高品質な
輸送サービスを提供してくれる場所に自然と集まって
くるはずだ」と佐々木取締役は分析する。
株式公開によるキャピタルゲインを狙ったITベン
チャーの多くはビジネスモデルが破綻し、求貨求車市
場から姿を消していった。 実力と実績のあるプレーヤ
ーだけが残った市場では今、利用者をつなぎ止めるた
めの新たなサービス競争が始まろうとしている。
「ACTION」を稼働
オンラインによる配車マッチングシステム「ACTION ?」を稼働
ACTIONセンターを富士市に設置し、大阪、福岡を加えた3センターで運用
全センターで統合配車システム「ACTION ?」を稼働
Web対応版の「Neo ACTION」を稼働、全センターに配置
ホームページを介したサービスの提供を開始
82年9月
85年9月
89年2月
90年6月
00年5月
00年11月
富士ロジテック「ACTION」の歴史
|