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コスト削減に走る医薬品メーカー
医薬品製造大手の山之内製薬の業績が好
調だ。 二〇〇三年三月期の連結売上高は五
〇六六億円と四期連続増加、連結ベースの当
期純利益は五九八億円と過去最高を記録し
た。 今期も業績を伸ばす見込みで、最高益を
更新する勢いだ。 順風満帆に見えるが、当の
山之内はそうは考えていない。 社内には危機
感が溢れている。 背景には製薬メーカーをと
りまく厳しい環境がある。
いま医薬品業界は、薬価切り下げという逆
風下にある。 その一方で新薬開発のための研
究開発費は一つの薬で数百億円という水準に
まで高騰している。 しかも巨額の開発費を投
じても、ヒット製品を生み出せるとは限らな
い。 昨今の製薬事業は、巨大な資金力を競い
合う?体力勝負〞の様相を呈している。
このため近年の山之内は、徹底したコスト
削減によって研究開発費の原資を確保しよう
と躍起になってきた。 「極端なことを言えば、
一円でも多くコスト削減を進めて、研究開発
に投じたいという空気が社内に出てきた」と
同社業務改革推進部の寒川龍児係長は語る。
当然、物流分野も聖域ではない。 山之内の
売上高物流費比率は一%弱と、食品メーカー
などと比べると圧倒的に低い水準にある。 薬
品という付加価値の高い製品を扱っているだ
けに物流コストの負担力は高い。 だが全社的
にコスト削減のネタ探しを続けるなかで、物
JULY 2003 32
自社物流改め三菱倉庫に全面委託
年間10億円のコスト削減見込む
全国に4カ所あった自社物流センターと物流
子会社を2005年をメドに全廃し、物流業務を
三菱倉庫にアウトソーシングする。 外注化に
よって見込むコスト削減効果は年間10億円。
医薬品業界の流通構造の変化が、大胆な物流
効率化を後押しした。
山之内製薬
――アウトソーシング
流がコスト削減余地の大きい分野であること
も明らかだった。
山之内に限らず、国内の医薬品メーカーの
多くはこれまで、コストよりも品質やサービ
スレベルを重視した物流管理を行ってきた。
そのため主だったメーカーのほとんどが傘下
に物流子会社を持ち、自動化の進んだ重装備
の物流センターを自前で保有している。
現在の山之内も全国四カ所(札幌、埼玉県
越谷、大阪、北九州)に自前の物流センター
を構えている。 そして、約九〇人の従業員を
抱える山之内物流という子会社をグループに
擁し、庫内作業を含めたセンターの管理・運
営を同社に任せている。 札幌以外の三カ所に
は自動倉庫も導入済みだ。
33 JULY 2003
もちろん山之内の物流部門としては、「自動化機器を導入した分は、省人化を図るなど
してコスト削減を進めてきた」(山之内製薬
の川辺正樹業務部長)。 だがバブル期のよう
に作業者の人件費が高騰した時期を除けば、
これが重装備であることは否めない。 物流の
品質とともに、コストが無視できなくなった
昨今の状況にはそぐわなくなってしまった。
自前主義からの脱却
医薬品メーカーをとりまく経営環境の変化
とともに近年、山之内を直撃した問題がもう
一つあった。 医薬品卸業者をはじめとする国
内流通の急速な再編である。
従来の医薬品卸業界では、都道府県ほどの
エリア単位で卸の棲み分けがなされていた。
地場の競争に勝ち残った医薬品卸は、地域医
療の核となる大学病院などにがっちりと食い
込んでいて、大手医薬品メーカーといえども、
そうした地場の有力卸抜きには販売活動に支
障が出るほどの実力を誇っていた。
ただし、一昔前の医薬品卸の物流管理レベ
ルは、お世辞にも高いとは言えなかった。 医
療機関への配送業務は?商物一体〞が基本
で、在庫管理もたいていは人手頼み。 このよ
うな管理状態で突発的に発生する医薬品の需
要に対応するため、卸は小規模の在庫拠点を
エリア内の各地に設置していた。
これに伴い医薬品メーカー側にも非効率と
も思えるほど細かい製品配送の仕組みが求め
られた。 山之内が自前の物流拠点を全国四カ
所に構え、約七六〇種類(二〇〇二年十二
月現在)の製品を各倉庫にフルラインで在庫
してきたのもそのためだった。 しかし、状況
はここ数年で激変した。
九〇年代末には、山之内が物流センターか
ら届ける配送先は全国に約七〇〇カ所あった。
それが現在では約三〇〇カ所まで減ってしま
った。 他業界の中間流通と同様、医薬品卸業
界でも猛烈な勢いで企業再編と淘汰が進み、
勝ち残った卸が一様に在庫拠点の集約による
物流効率化を図ったためだ。
医薬品卸の再編が、山之内にとっては配送
先が従来より六割近くも減るという変化とな
ってあらわれた。 しかも、こうした流通再編
が後戻りする可能性は極めて低い。 山之内に
とっては、もはや全国に四つの物流拠点を構
える必然性は薄れてしまった。 折からのコス
ト削減の要請とも相まって、山之内にとって
は物流の見直しが急務になった。
もっとも物流を見直すといっても、その具
体的な手法は多岐にわたる。 結果として山之
内は、三菱倉庫に物流業務を全面的にアウト
ソーシングする道を選ぶのだが、そこに至る
までには紆余曲折があった。 当初、山之内は
物流の外部委託など露ほども考えていなかっ
た。 それが三年ほど前、国内のある中堅製薬
メーカーが物流管理を専業者に全面委託した
という情報に接し、その物流業者のところに
話を聞きにいったことで認識を新たにした。
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
図1 山之内製薬の業績推移
《売上高》
《純利益》
800
700
600
500
400
300
200
100
0
’93 ’94 ’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03
(単位:億円)
売上高
純利益
長はその理由を明かす。
この物流コンペで山之内は、過去一年間の
実績を電子データで物流業者に渡した。 製品
名や価格こそ伏せたものの、工場から物流拠
点への入荷実績、物流拠点での在庫量の推移、
販売に関する出庫データなどをすべて開示し
た。 そのうえで全国に四カ所ある物流拠点を、
二拠点に減らして全国をカバーするという条
件で提案を求めた。
そして二カ月弱の検討期間を経て、二社か
らの提案を受領。 二〇〇二年五月に山之内の
社内の経営会議で承認を得て、三菱倉庫をパ
ートナーとする方針を最終的に決めた。
三菱倉庫をパートナーに選んだ理由はいく
つかあった。 まず第一に医薬品業界での実績
を評価した。 物流専業者でありながら三菱倉
庫は、医薬品メーカーの関連会社がしている
ように一棟丸ごと医薬品だけを扱う大規模倉
庫を運営していた。 施設への投資水準も一番
高い印象を受けた。 医薬品を扱ってきた歴史
は長く、実際の取扱物量も多かった。
情報システムへの対応力も評価のポイント
になった。 医薬品業界では独SAPのERP
が広く普及している。 グローバルに展開して
いる有力企業の大半がSAPを導入済みで、
山之内でもすでに会計系や人事、生産管理な
どの分野で採用している。 最後に残ったのが
販売系のシステムで、山之内はこの販売分野
のモジュールを物流アウトソーシングの実施
と同時に稼働しようとしている。
SAPの数あるモジュールのなかでも、オ
ペレーションと連動する販売システムの導入
は最も難易度が高いと言われる。 その点、医
薬品業界での活動が長い三菱倉庫は、SAP
を導入している荷主とインターフェースをと
ってきた経験を豊富に持っていた。 一方、物
流コンペに参加したもう一社は、こうした経
験を持ち合わせてはいなかった。
もちろんコストも重要なポイントだったが、
業者選定の決定的な要因ではなかった。 現に
コンペに参加した二社のコスト面での提案は、
いずれも山之内の期待通りの水準でほとんど
差はなかったという。 ちなみに三菱倉庫は、
従来より年間ベースで約一〇億円減らせると
していた。 山之内が保有している物流拠点を
閉鎖し、三菱倉庫のインフラを使うことで減
価償却費の負担がなくなるのが大きかった。
医薬品物流のスペシャリスト
山之内にパートナーとして指名された三菱
倉庫は、いわずと知れた日本最大の倉庫業者
だ。 一二〇年近い社歴を誇り、医薬品分野で
本格的に事業活動をスタートしてからだけで
も約二〇年の実績を持っている。 大手医薬品
メーカーとの取引歴は四十数年に及ぶ。
ただし初期には医薬品メーカーが物流管理
を主導しており、三菱倉庫は保管や配送など
の機能を提供していたに過ぎなかった。 それ
が「八〇年代に入る頃から『医薬品配送セン
ター業務』として当社が自ら主体的に手掛け
JULY 2003 34
このときはあくまでも物流の勉強が目的だ
ったため、具体的な話にはならなかった。 し
かし、日頃から自分たちも薄々と感じていた
医薬品業界の流通の前近代性を再確認できた。
さらに「コストを削減するうえで、物流のア
ウトソーシングという手法が非常に効果の大
きいものだということも分かった」と寒川係
長は振り返る。
年間物流コストを
10
億円削減
その後、川辺部長と寒川係長の二人は、医
薬品メーカーの物流管理を手掛ける事業者を
約半年かけて片っ端から回った。 折りしも当
時は、サードパーティ・ロジスティクス(3
PL)という概念が日本でも普及し始めた時
期。 ヒアリングを続けるうちに、物流業者の
側にも専門性の高い企業が育っていることが
分かった。
そこで山之内は、二〇〇一年三月期から三
カ年の中期経営計画に、物流のアウトソーシ
ングを盛り込んだ。 そして翌二〇〇二年の春
に、三菱倉庫と他一社を対象とする物流コン
ペを実施。 アウトソーシングの実現に向けて
具体的な一歩を踏み出した。
事前に多くの3PL業者にヒアリングを重
ねていながら、実際の物流コンペでは二社だ
けにしか声をかけなかった。 「当社の物流に
とって優先順位の第一位は品質。 物流業界を
見回したときに、品質面で当社の基準を満た
していたのはこの二社だけだった」と川辺部
るようになった」と三菱倉庫・倉庫事業部の
前川武弘業務課長は説明する。
きっかけは外資系医薬品メーカーの日本で
の本格的な事業展開だった。 それ以前の彼ら
は国内メーカーに販売業務を委託するなどし
ており、物流も相乗りしていた。 ところが外
資系メーカーが日本で独自の事業展開を図り
はじめたとき、自前の物流資産を持ちたがら
なかった。 このとき日本の医薬品業界に初め
て、本格的
な物流アウ
トソーシン
グのニーズ
が生まれた。
三菱倉庫
が、医薬品
の分野で当
初から特別
なノウハウ
を持ってい
たわけでは
ない。 物流
上のミスに
極めて敏感
な医薬品を
扱うための
ス
キ
ル
を
、
現場活動を
通じて蓄積
し
て
き
た
。
現在のようにバーコード管理のできなかった時代には、業務の徹底したマニュアル化や人
材教育などで品質を高めるしかなかった。 出
荷時に庫内に残された在庫を全品棚卸しして、
もし残数が合わなければ出荷しないというの
も、そうしたノウハウの一つだ。
三菱倉庫の倉庫事業部で医薬品事業を担
っている西川浩司課長代理は、「庫内作業に
ついては、どこをどう指摘されても大丈夫と
言えるだけの自信を持っている。 我々は現場
改善の積み重ねでミス率一〇〇万分の一のレ
ベルで物流を管理できるようになった。 最先
端のITを導入したからといって真似できる
ものではない」と言い切る。
輸配送ネットワークへのこだわりも強い。
三菱倉庫グループの配送子会社と、地場の有
力輸送業者を組織化することで全国をカバー
している。 全国に約一〇社あるパートナー企
業は、いずれも医薬品輸送の専業者か、独自
のノウハウを持つ企業ばかり。 医薬品メーカ
ーの輸送業務も広く手掛けており、輸送品質
で勝負している事業者なのだという。
こうした努力の結果、現在の三菱倉庫は医
薬品のセンター運営では第一人者とも言うべ
き地位を築いている。 すでに約二〇社の医薬
品メーカーの物流管理を請け負っており、全
国各地で二〇カ所を超す医薬品配送センター
を運営している。 そこでは入出庫業務はもと
より、受注代行や共同配送など多岐にわたる
業務を管理している。
山之内の業務を手掛けるために、いま三菱
倉庫は大阪と埼玉に施設を準備中だ。 西日本
の拠点は、三菱倉庫の桜島営業所(大阪市此
花区)内に建設中の倉庫だ。 延べ床面積一万
六二〇〇平米のうち一万平米を山之内専用
で使う。 今年十二月をメドに立ち上げて従来
の倉庫からの在庫移転を進め、来年一月には
本格稼働する。
東日本の拠点は、やはり三菱倉庫が埼玉県
新座市に四四億円を投じて新設中の「新座配
送センター」を使う。 延べ床面積二万八六〇
〇平米のうち一万五〇〇〇平米が山之内の専
用スペースで、二〇〇五年一月に本格稼働す
る方針だ。 これによって山之内が使っている
四カ所の物流拠点はすべて不要になり、三菱
倉庫への物流業務の移管が完了する。
もっとも山之内と三菱倉庫のアウトソーシ
ング契約は、まだ正式に締結されてはいない。
現在、契約項目の細部や、山之内物流から三
菱倉庫に移る人材に関する条件などを詰めて
いる。 年末の業務開始に向けて、この夏中に
は契約書に調印する方針だ。
物流のアウトソーシングに踏み切ったこと
で、山之内はオペレーションの面でも外資系
製薬メーカー並みの効率を目指し始めた。 こ
うした経営努力によって捻出した原資で、競
争力のある新薬を開発できるのかどうか。 そ
の結果が、3PLパートナーを努める三菱倉
庫にも大きな影響を与えることになる。
(岡山宏之)
35 JULY 2003
図2 アウトソーシングによる山之内製薬の物流フロー
岩手
茨城
静岡
札幌
工場 物流センター 担当エリア
※すべて山之内
物流が運営
福岡
大阪
越谷
(埼玉)
(一部台湾)
工場 物流センター 担当エリア
※すべて三菱
倉庫が運営
新座
(埼玉)
大阪
現状 2005年1月〜
岩手
茨城
静岡
(一部台湾)
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