ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年7号
現場改善
商物一体型拠点の仕組み作り

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 取締役 石橋岳人 JULY 2003 70 商物一体型のデメリット 大手資材卸のH社は、営業所と在庫拠点が一 体となった商物一体型の拠点を全国五〇カ所以 上に配置している。
各拠点の配送エリアを小さ くすることで、当日午前中のオーダーを当日中 に納品する、前日までのオーダーは時間帯指定 納品ができる、という小回りの利いた物流サー ビスを売り物にしている。
しかし、そうした商物一体型のメリットを享 受しながらも、各拠点の現場では出荷ルールの 不徹底や在庫融通の問題など、商物一体ゆえの 問題点も顕在化していた。
同社の物流部門は営 業支援部隊として拠点ごとに組織されている。
こ の体制では物流部門が営業部門に対し、「物流部 は銀行と同じです。
物流部は営業部の在庫をお 預かりし、出荷指示に従ってオペレーションす るのが役割です。
正規ルートではない(口頭・ 仮伝)出荷指示では作業できません」と伝えて も、なかなか浸透しないのが実情である。
営業サイドにしてみれば、自分の得意先が急 いでいて、商品がそこにあるのに出荷できない などということは、どうにも納得できない。
これ が銀行なら例え自分の口座であっても口頭で伝 えるだけでは出金できない、正式な手続きを踏 まなければダメだと言われて納得する営業マン でも、物流となると話が違う。
物流部門に対し て憤慨し、「君達の対応力不足が利益の出ない原 因だ」と時には逆ギレされることも珍しくない。
H社では、一〇年前から配送サービスとして ?時間帯指定〞を採用してきた。
しかも、ほぼ 全国を網羅する拠点ネットワークを保有してい たことから、全国均一サービスを謳っていた。
こ うした?商物一体による拠点展開〞や?時間帯 指定サービス〞は本社の強い意向で始められた ものだ。
そのため当初は物流に関わる社内ルー ルも徹底されていた。
しかし、その後、時間を経るとともに本社の 通達は、全くといっていいほど風化してしまっ た。
その結果、本来はH社にとって競争優位として機能するはずの物流サービスが、現実には 物流の非効率と顧客不満足の悪循環をもたらす 元凶となってしまっていた。
改善が急務だった。
そこでH社は本社に物流 部を設置し、物流改善の一環として配送サービ スの見直しと配送効率向上のための対策に乗り 出した。
我々、日本ロジファクトリーも物流コ ンサルタントとして、その一翼を担うことになっ た。
形骸化した社内ルール H社における時間帯指定は基本条件として以 下のような四便体制が全社で統一されていた。
1便:前日までに受注―翌朝一〇時までに納品 第7回 かつては手厚い物流サービスが売り物だった大手資材卸。
営業部門の圧力によって、物流のルールがなし崩しになっ ていった。
緊急輸送の頻発でコストは増加し、現場のオペ レーションも混乱。
指定納品時間の遅れが常態化していた。
新しい仕組み作りが必要だった。
商物一体型拠点の仕組み作り ――大手資材卸H社 いしばし・たけと 一九七〇年生まれ 神奈川大学経済 学部経済学科卒。
大学卒業後、大手経営コンサルティン グ会社へ入社。
その後日本ロジファクトリーの創業メン バーとして『マーケティングから見た物流』をテーマに、 物流コンペティション企画運営、物流企業の品質管理・ 改善および現場改善指導を行っている。
また、物流のみ ならず、経営計画の立案や販売促進指導、提案営業指導 など幅広い業務に対応している。
九九年六月、取締役に 就任。
ishibashi@nlf.co.jp 71 JULY 2003 もらうこと〞と?言葉の定義を再度全社で共有 化すること〞に取り組んだ。
顧客満足「悪魔のサイクル」 時間帯指定のコンセプトや導入時の体制に大 きな不備があったわけではなかった。
それにも関 わらず、現場ではサービスの提供を変化させる か止めてしまっていたのはなぜなのか? それは 本来なら顧客満足を高めるはずの時間帯指定サ ービスが、顧客からの信頼失墜につながってし まっていたため、営業部門と顧客の板挟みとな った現場では、その都度、対応を変えざるを得 なかったからなのである。
現場の物流フローを調べたところ、一五%の 受注が?緊急〞と称して『すぐに(三〇分以内 に)持ってきてほしい』という注文であった。
ま た受注オーダーの七五%が前日の夜から当日の 午前中に集中するため、正規ルートでの受注・ 出荷処理でさえも時間に追われる状況であった。
その上に、このルールを守らない?緊急〞オ ーダーが入り、?緊急〞と言われているがため に、担当者間の調整で優先出荷対応をとってい た。
その結果、残りの八五%のオーダーに影響 を与え、ルールを守ってくれているオーダーのほ うが遅れるという本末転倒な状態が毎日のよう に続いていた。
商物一体型の拠点であったため、便が出発し ていなければ受注締め時間を多少過ぎても「こ のオーダーだけ積んでくれ」と営業に声を掛け られれば、配送担当は待たざるを得ない。
この ?ほんのちょっとの積み重ね〞によって一時間 以上の出発の遅れが発生し、指定時間への遅配 を引き起こしていた。
それが度々ともなれば当 然、顧客からの信頼は失われる。
しかも時間通りには届かないことが当たり前 になると、営業マンによる納品指定時間の前倒 しが発生する。
営業マンに「とにかく1便で指 示しておけば問題ないだろう」という意識が働 き、結果として1便に配送依頼が集中した。
そ の結果、物流側では?本当に1便で届けなけれ ばならないオーダー〞が見えなくなってしまって いたのである。
ある営業マンの配送指示を見ると、配送車両 が一台しか配置されていないエリアにおいて、全 く方面違いの二カ所への配送指示が二カ所とも 一便に指示されていた。
どちらかは指定時間帯 には絶対に届けることができない指示だ。
その ことを担当営業マンへ確認すると、『それなら〇 〇方面のオーダーはもともと本日中納品で良い ので、△△方面を優先してください』との返答 があった。
また、私が同乗していた配送担当者の持って いた伝票には1便指定とあったため、無理をし て得意先に届けたにもかかわらず、得意先から は「なんだ、今日はずいぶん早いね。
別に今日 中でよかったのに」と言われたこともあった。
物流側では?顧客の本当の要望時間〞を提示 された伝票からは読み取ることができない。
あ くまでも伝票に表記された指示を守るように努 力するだけである。
しかし物理的作業であるこ とから、当然、1便で配送できるオーダーには 限りがある。
そこから遅配が発生する。
すると営業サイドは「物流は当てにならない から、自分で運ぶよ」や「俺の得意先のオーダ 2便:当日一〇時まで受注―午前中納品 3便:当日午前中まで受注―一五時まで納品 4便:当日一五時まで受注―当日中納品 しかし、実際の現場運営では、こうしたルー ルが全く無視されていた。
得意先からの無理な 注文や依頼が相次ぎ、受注締め時間は守られな い。
当然、ピッキングの開始時間、センターの 出発時間も遅れる。
結果として時間帯指定の納 品がほとんど機能しない状況に陥っていた。
私が現場確認・ヒアリングを行った中には「ウ チでは(間に合わないので)1便は出していま せん」という拠点や、全社統一のサービスを自 店の運営方法・配送体制に合わせて変更してい る拠点、ひどいところでは?時間帯指定〞サー ビスの存在をほとんど忘れている、しかも得意 先へ説明もしていないという拠点さえあった。
また『1便はちゃんと出していますよ』とい う拠点でも、よく調べてみると納品時間ではな く、トラックのセンター出発時間が一〇時にな っていて、ただ単に一回目の出発便であるから 1便と呼んでいるところもあった。
しかも本社物流部の担当者と同行して各セン ターを訪問した我々に対して、各センターの責 任者は悪びれることもなく「今の体制であんな サービスレベルを維持できるはずはないだろう」 と口を揃えて言うのだった。
現場の調査から、少なくとも?物流オペレー ションに関する取り決め事項は拠点ごとに違い がある〞?言葉の表現は同じでも、使い方・意 味が違う〞ということは明らかだった。
そこで 本社物流担当者と我々は一番初めに ?本来の物 流サービスの在り方を改めて説明し、納得して JULY 2003 72 ーは、絶対に遅れるな。
先に届けろ」という行 動に出始める。
拠点全体での配送ルートはとて も効率的とは言えず、無駄な走行距離と時間、そ れに伴う追加コストの発生、および遅配の続く 得意先からは慢性的なクレームが発生していた。
つまり、この拠点における物流部門は単なる ?運ぶ機能〞としてだけの位置づけになり、時 間帯指定サービスによって顧客満足を向上する ?営業支援〞部隊としてはほとんど機能しなく なっていた。
こうした悪循環に陥り、物流サー ビスが破綻していくのを、我々はよく?CS(顧 客満足)の悪魔のサイクル〞にはまったと表現 している(図1)。
交錯輸送を回避する 配送ルート分析を進めていくと、次のような 事例が頻繁に見受けられた。
互いの拠点間が直 線距離で一五キロメートル離れているA店とB 店があり、B店発のトラックの納品先はA店か らほんの二〇〇メートル程度の場所にある得意 先へ納入していたなどということが当たり前の ようになされていた。
調べてみるとA店からB店に移った営業マン が、自分の目の届かなくなったA店に頼むと配 送順位が遅くなるのを恐れて、目の届くB店の ドライバーへ指示をかけていたのである。
?全社 的な見地から効果的な方法を取ろう〞、?お互い にルールを守ろう〞という意識は全くなく、声 の大きさがそのまま優先順位となっていた。
全国ネットワークを誇るこのH社では、配送 に関する拠点間融通の仕組み(配送依頼)は保 持していた。
しかし、この仕組みもまた機能し ていなかったのである。
この状態が続いてきた 中で、H社の配送状況は偏った部分最適となっ てしまっていた。
改善にあたってまず物流部としてできること は、?配送エリア・ルートの改善による配送距 離の短縮〞と?出発時間の厳守による納入条件 厳守率の向上〞であった。
具体的には、一定の エリアに属する複数の拠点については、担当配 送エリアの線引きを明確にし、自分の得意先が 他拠点の配送エリア内にあった場合には、配送 依頼をかけるフローを確立し、その遵守率を数 値で管理することにした。
同時に出荷指示に関する通達を流し、とにか く出荷時間を守ることを運営の最優先事項とし て、出発時間も報告対象項目に加えた。
これに より物流運営側の対応状況を日次で把握するこ とが可能となり、毎日のように現場責任者は、ル ールを遵守できなかった原因の追及と対策・教 育を行った。
?緊急対応ルール〞も明確にした。
正規ルート に載らないオーダーは原則として営業が対応す ることにした。
ただし、こうしたルールの徹底は あくまで社内の営業マンのレベルにとどめ、顧 客に現場の運営方法が変わったことを伝えるこ とはしなかった。
また顧客サービスの低下や顧 客への改善要求も実施することは避けた。
こうして新しい取り決め事項を導入して、当 初の二週間はやはり出発時間の遅れや、担当配 送エリア外への配送実績が目立つなど、これま での流れをやや引きずっているところも見られた。
しかし現場運営責任者の強い監督・指導の下で、 少しずつ取り決めたルールどおりに回り始めて いった。
『なんだ、ちゃんと届くじゃないか』 取り決めたルールに基づいて運営を始めて一 カ月半が過ぎたころ、営業サイドの緊急対応業 務は限界に近づきつつあった。
これまでは物流 の運営力でカバーしてきた業務をすべて営業が 引き受けていたため、営業側から「自分たちの 営業ができない」、「今までどおりのやり方に戻 して欲しい」との声が出始めていた。
現場責任者もなかなか好転しない現況に、 ?緊急対応用の車両を一〜二台、投下した方が 良いのではないか?〞と考え始め、本社物流担 図1 悪魔のサイクル →得意先要望  差別化要因 センター出発の遅れ 指定時間帯の早期化 特定時間帯へ 配送依頼の集中 →不安に対する保険 →顧客クレーム  出発・納品遅れる 緊急注文の受容 →現場混乱 納品の遅れ →顧客信頼失墜 73 JULY 2003 当との協議に入っていた。
しかし本社物流担当 者の結論は?否〞であった。
理由としては、こ の地区における業績の悪化が挙げられていた。
利 益を出せていないのに、これ以上のコスト増は 許容できないとの本社決定であった。
本社の決定に営業サイドから大きな反発が起 こることはなかった。
一連の改善で物流に対す る社内の意識は大きく変わっていた。
営業サイ ドの不満を封じ込め、現場責任者の愁眉を開き、 営業と物流に一体感をもたらしたのは、ひとつ の共通の言葉だった。
「なんだ、ちゃんと届くじゃないか」――配送 担当が、毎回のように小言を言われていた得意 先から初めて認めてもらえた証だった。
納品先から「こうやってちゃんと届くと作業 も進むし、またお願いするね」と言ってもらえる ようになった。
そんな配送日報の備考欄への記 入が出始めた。
同じ声は営業マンにも届いた。
「Hさんのところ、最近ちゃんと定時に資材が届 くから、作業が順調に進むよ。
これならまた次 の仕事も頼むよ」。
日々の配送日報の結果を見て、 得意先の言葉を聞いて、最後に物流運営部門の メンバーも「届けられる自信がついた」と実感 できるようになったのである。
この改善で得られた具体的な効果は、配送車 両の走行距離の減少と一台あたり配送金額の向 上である。
配送エリアを限定し、無駄なルート を走らせないようにしたことで、一台当たり八 〇キロメートル/月の距離減・一〇%の積載効 率の向上を実現した。
これにより、これまで営 業が緊急対応として走っていた業務は三分の一 以下になった。
それだけ営業本来の業務に特化 することができるようになった。
時間帯指定納品の遵守率が向上したことで顧 客満足度は確実に上がっている。
すぐには数値 に表れないものの、これも今後は利益率に寄与 していくことだろう。
同じ人員・同じオーダー 条件でも、意識と仕組みを変えることで、車両 を増やすことなく、逆にこれまではできなかった ことすら対応できるようになったのである。
成功の四つのポイント 様々な制約条件があったにもかかわらず、今 回の改善が成功したポイントは次の四点に整理 できる ?自社内だけで必ずできることを実践したこと ?物流だけではなく、営業など関連部門を巻き 込んだ改善施策を実行したこと ?到達イメージを明示し、一時的な負荷がかか ることを説明し、心の準備をしてもらったこ と ?現場責任者が(成功させるという)強い意思 を持って臨み、指示実行したこと 改善に当たり、「時間指定のサービスには多く の車両が必要であり、現在そのサービスを提供 できないのは投下車両が少ないからだ」という 意見が、どの現場からも出ていた。
事実、投下 車両が明らかに過少な拠点も存在していた。
投 下車両を増やせば確かにサービスレベルは向上 できただろう。
しかし、それが売上増・利益増には直結しな いために、これまでも車両数を増やすことが見 送られてきたのである。
ルールも仕組みもないと ころでは、どんなにインフラを整備したところで 利益を生むことはない。
今回の得意先も改善に 当たって人員、インフラの増加はしないという 要望だった。
そんな要望を守りながら仕組みを効率化する 場合、一時期負荷のかかる部門が発生する可能 性が高い。
実際、営業部門には新たに緊急輸送 の負担がかかった。
それでも?物流部門では何 ができるのか?〞?そのために関連部署にはどの ような影響があるのか?〞をしっかりと見据え、 現場責任者が到達イメージを明確に理解し、現 場に対して強力に指導を行っていったことが、成 功のポイントの一つとなった。
新しい仕組みでは緊急時には営業が対応する 決まりになっているといっても、そのために営業 部門の物流負担が全体として増したわけではな い。
改善前は営業が恒常的に配送を行っていた のである。
新しい配送体制の仕組みを構築した 結果、その比率は激減している。
全体を見渡しながら適切な処置をとるのは確 かに容易なことではない。
とくに一営業マンと しての立場であれば、それがたとえ売上規模の 小さな得意先であっても、自分の得意先を優先 したくなるのは心理として理解できる。
しかし、 個人商店ではなく、企業として対応する以上、企 業の強みを最大限に活用できる仕組みを確立し、 運営していく視点が絶対に必要である。
それを 日々管理するのが現場責任者の役割である。
営業と物流という通常では相対する要望を持 つ部署が一体となって、お互いのことを認め合 い、信じて素早く正確な情報を流す体制があれ ば、必要最小限のインフラで顧客満足を実現す ることは十分可能なのである。

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