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事例で学ぶ
現場改善
日本ロジファクトリー
取締役 黒澤明
AUGUST 2003 70
今回は中堅運送会社、江坂運輸の改善事例を
紹介する。 江坂運輸は阪急東宝グループの一員
として、納品代行業務を中心にしたアパレル製
品の商品保管・物流加工業務、食品の共同配送
などを展開している。 兵庫県西宮市に本社を置
き、大阪営業所・吹田営業所・東京営業所・横
浜営業所の五拠点を擁している。 二〇〇三年三
月期の売上高は約六七億円。 近年、急速に売り
上げ規模を拡大させている。
改善の舞台となった同社の「本社西宮鳴尾浜
物流センター」は、延べ床面積一万四六七三平
方メートルの大型物流センターだ。 常温、冷凍、
冷蔵の三温度帯に対応している。
菓子・雑貨を扱う小売卸売業のS社は同セン
ターを利用している荷主の一つだ。 年商は約七
億円。 同センターを利用する前、同社は自社で
物流を管理していたが、江坂運輸へのアウトソ
ーシングに切り替えた。
江坂運輸はS社の商品保管・在庫管理・各店
舗及び得意先向けの仕分け〜配送といった物流
業務をはじめ、各店舗からの受注代行や商品の
発注といった商流部分までに対応している。 江
坂運輸が自ら開発した情報システムを活用して、
物流サービスレベルの向上とコストダウンを両
立させた。
具体的にアウトソーシングする前と後で業務
内容を比較してみると、下の表1のようになる。
S社による自社運営時には正社員一人とアルバ
イト三〜四人を現場作業に投下していたのに対
し、現在はアルバイト三人・一日あたり四時間
で運営できるようになっている。 売上高は約一
一七%の規模に増加したにも関わらず、使用倉
庫面積は約二五〇坪から約一五〇坪に縮小。 し
かも自社運営時には週二回だった出荷頻度は週
六回に増やした。 サービスレベルの向上にも成
功したのである。
第8回
中堅運送会社の江坂運輸は自社開発の情報システムを武
器にして、包括的な物流アウトソーシング業務の受注を拡
大させている。 食品流通業S社のケースでは、判断業務を
自動化することで、全ての現場作業をアルバイトだけで運
営できるように改善した。
食品流通業S社のアウトソーシング
――江坂運輸の物流IT活用
業務受託前(S社自社運営時) 業務受託後(江坂運輸運営)
投下人員 正社員1人、アルバイト3〜4人 アルバイト3人(4時間)
倉庫面積 約250坪 約150坪
出荷頻度 週2回出荷 週6回出荷
売上 約6億円 約7億円
平均在庫量 31,800ケース 20,600ケース
表1
江坂運輸の本社西宮鳴尾浜物流
センター。
延べ床面積1万4673平方メー
トル。 三温度帯に対応する。
71 AUGUST 2003
自社物流時代の現場運営では、アイテムごと
の棚番地管理は実施していなかった。 商品カテ
ゴリーごとにロケーションエリアを固定、作業
フローも商品カテゴリーごとに入荷・検品・在
庫管理を行う、というものだった。 そして出荷
は店舗ごと、その店舗の発注した通りに処理し
ていくシングルピッキングだった。 このオペレー
ションを次のように改めた。
?商品カテゴリーごとの保管を改め、アイテム
およびロットごとのロケーション管理を実施
?保管効率を重視したフリーロケーションを採
用
?ハンディーターミナルによるバーコード検品を
実施
?店舗ごとのシングルピッキングを、商品ごとの
トータルピッキングに変更(その後、各店舗
のラベルを発行し、ラベルによるシール仕分け
を行う)
大きくは、この四点を実施した。 その効果と
しては、以下が挙げられる。
?アイテム別ロケーション管理により、商品知
識のないアルバイトでもピッキングが可能にな
った
?フリーロケーションの採用で保管効率が向上
した
?ハンディーターミナルによるバーコード検品に
より誤出荷がほぼなくなった
?トータルピッキングとラベルによるシール仕分
けにより出荷作業の効率が向上した
徹底的な情報システム化
こうした業務改革と並ぶ、もうひとつのポイ
基本的な効率化改善
主な改善項目を表2にまとめた。 改善のポイ
ントは二つ。 「基本的な効率化改善」と「徹底的
な情報システム化」だ。 大きな投資をしなくて
も、その二つだけでこれだけの効果を得ること
ができた。
テーマ 業務受託前
(S社自社運営時)
倉庫の使い方
(ゾーニング)
倉庫の使い方
(ロケーション)
出荷フロー
(検品工程)
出荷フロー
(ピッキング・仕分け工程)
棚番地なし
商品カテゴリーごとに商品を
保管した固定ロケーション
店舗ごとの
シングルピッキング
保管効率を重視した
フリーロケーションを採用
ハンディーターミナルによる
バーコード検品を実施
トータルピッキング→各店舗
ごとのラベルを発行しラベル
によるシール仕分け
アイテム及びロットごとに
ロケーション管理を実施
業務受託後
(江坂運輸運営)
表2 基本的な効率化改善
商品カテゴリーごとに固定していたロケーション管
理を改め、フリーロケーション方式を採用して保管
効率を高めた
店舗ごとのシングルピッキングをトータ
ルピッキングに変更。 店舗ラベルによる
シール仕分けをとり入れた
AUGUST 2003 72
ントが「徹底的な情報システム化」だ。 江坂運
輸はS社の業務に正社員を投入していない。 前
述した通り、基本的にはアルバイト三人で一日
あたり四時間で処理している。 情報システムの
徹底的な活用がそれを可能にした。 具体的な取
り組み内容をいくつか紹介することにしよう。
在庫引き当ての自動化
今回のように物流会社が荷主から商品保管お
よび入出荷を受託している場合、通常なら荷主
側で受注処理を行い、在庫引き当て後に出荷指
示として物流会社にデータを送る。 もしくは物
流会社で受注処理を行い、在庫があるものはそ
のまま在庫を引き当てるが、欠品しているもの
に関しては荷主にその旨を報告し、どの商品を
どこの出荷先に優先的に引き当てるかという指
示を受ける、といった処理をすることが多い。
しかしS社のケースでは、情報システムが自
動的に在庫引き当てを処理している。 このシス
テムは江坂運輸が自社で開発したものだ。 シス
テム開発にあたって江坂運輸はまず、S社と欠
品時の在庫引き当てに関する次のような処理パ
ターンを設定した。
?各店舗に出荷優先順位を付け、その順番で引
き当てる
?各店舗に均等に引き当てる
?受注順番順に引き当てる
?遠方から優先的に引き当てる
S社はアイテムごとに、これらの引き当てに
関する処理パターンを設定。 商品マスターに、そ
の情報を持たせた。 欠品が出た場合にはその商
品の処理パターンが自動的に適用される。 これ
によって、従来はS社の正社員が対応するしか
なかった在庫の引き当て調整を自動化すること
ができるようになった。
一般に販売されている販売管理ソフトにはな
い、このような処理システムを、江坂運輸は自
社開発することによって、受注処理から出荷ま
での一連の業務を、S社の手をわずらわせるこ
となく、しかもアルバイトだけで完結できるよう
になったのである。
出荷伝票を使わない理由?
江坂運輸では出荷伝票を、実際に出荷する直
前まで出力しない。 もちろん出荷日別に伝票を
保管する専用棚も存在しない。 一般的な現場で
は、受注したデータのうち、当日分のみを指定
して、四〜五枚の複写式になった出荷伝票(も
しくは納品伝票など)を出力。 そのうち一枚を
出荷指示として出荷作業のトリガーとしている
現場が多い。 改善が進んでいない現場では、受
注したデータを全部出力して、出荷日別に仕分
けし、出荷日まで専用棚に置いているケースも
見られる。
これに対して、江坂運輸では当日出荷分の出
荷伝票ではなくピッキングリストを出力してい
る。 それをトリガーとして、出荷業務を開始し
ているのだ。 ピッキングリストは通常、アルバイ
トが出勤する時間の約一時間前から自動的に出
力されるように設定している。 ここにも管理者
による指示は存在しない。 アルバイトが出勤し
てきた時には所定の場所(プリンタ)に本日の
作業指示がピッキングリストとして置いてある
のである。
出荷伝票を使わない理由?
伝票を最後まで出力しないもうひとつの理由
がある。 正確にはあったと言うべきだが、江坂
アルバイトの出勤時には、ピッキングリストが自動
出力されている
正社員1人、アルバイト3〜4人で回していた現場を、
アルバイト3人×4時間で処理できるようになった
73 AUGUST 2003
運輸がS社の業務を受託した当初、コンピュー
タ上ではあるはずの在庫が実際には欠品してい
るというケースがあった。 そのため手書きで伝
票を修正する、あるいは出荷数量を確定させた
後になって該当伝票のみを再出力するなどの作
業が発生していた。 出荷数量の確定後まで出荷
伝票を出力しないフローにすることで、こうし
た手間を省くことを狙ったのである。
このように江坂運輸の現場では判断業務をほ
ぼ自動化し、指示や数量の修正までシステムに
組み込んだ結果、特別なトラブルが発生しない
限り、アルバイトのみで運営できるようになった。
管理コストの削減や作業の効率化を実現したの
である。
システム化武器に荷主を獲得
江坂運輸にアウトソーシングして以降、S社
の顧客である店舗側からの反応も良くなったと
聞いている。 店舗へのデリバリーが週二回から
週六回となったことで、店舗の在庫圧縮にもつ
ながっている。
また副次的な効果ではあったが、ピッキング
用に導入した店舗ごとの商品ラベルが店舗に喜
ばれているという。 S社の商品には、輸入品も
含まれている。 当然、商品の標記も外国語だ。 そ
のため、これまでは店舗での受け入れや在庫管
理の際、商品知識のある人でないと正確な検品
ができない状態だった。 それがラベルによって誰
でもチェックできるようになったというわけだ。
現在、江坂運輸の販売管理システムはS社の
商品の他にも、服飾品や食料品、美容健康用品、
スポーツ用品など様々な業界に対応できるよう
になっている。 直近では食品会社H社へ賞味期
限などに対応した入出荷在庫管理システムを納
入した。 このケースでは情報システムの納入だ
けでなく、商品特性を考慮したパレット配置や
ロケーションおよび棚の配置・設計、作業動線
の設定など、コンサルティング的なサポートも
行っている。
江坂運輸は昨秋にISO9001の認証を取
得している。 そうした品質面と共に、情報シス
テムの開発を自社で内製化していることが同社
の強みとなっている。 現場改善力や徹底した情
報システム化を差別化要因として成功した物流
会社の典型的な事例といえるだろう。
くろさわ・あきら 一九六四年生まれ。 大阪電気通信大
学中退。 学生時代に数々のベンチャービジネスを行い、
八六年ICSサプライ株式会社入社。 法律事務所、会計
事務所向けOA機器・サプライ用品等の営業活動に携わ
る。 八九年 関西定温運輸有限会社(福岡運輸グループ)
に入社、九四年 日本フード物流株式会社(日本ハム株
式会社物流子会社)設立参画を経て、日本ロジファクト
リーの創業メンバーとなる。
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