ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年8号
特集
ICタグ狂想曲 FIDの可能性と幻想

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2003 26 拙速なビジョン 昨今、非接触式のICタグ(RFID:Radio Frequency Identification )に注目が集まっている。
バーコードと異なり、人が介在することなく、情報の 読みとりや書き込みができるため、流通や物流の効率 化といった経済的側面に加えて、テロ対策やBSE 対策といったセキュリティーや食の安全への活用が期 待されている。
実際、RFID技術は、JR東日本の補填可能な プリペイドカードである「SUICA」のように、日 常社会に溶け込み始めている。
定期券を取り出すこと なく列車に乗降できる便利さは、大いに魅力的である。
しかしながら、RFIDは、可能性が大きいだけに、 幻想も大きくなりがちである。
例えば、データの書き込みが可能なことから、いろ いろな事業者が流通過程で、データを共有するための 電子データ交換の代わりに使えるのではないか? と か、全ての物体に貼付する前提で、格納するデータを 標準化し、ITSと組み合わせることによって、搭載 物を瞬時に把握することが可能になれば、道路等の安 全対策にも有効ではないか? との議論がなされてい る。
特に後者については、国際標準化機構(ISO/T C204)において、データ書き込みを想定した上で、 国際複合一貫輸送のためのデータエレメントの標準化 の試みまでがなされている。
これは、テロ対策にも活 用したいというのが本音のようだが、ビジネスへの活 用可能性の検討を省略して、物流の効率化も同時に 達成し、コストを吸収することが前提となっている 「拙速」なものである。
書き込み可能なRFIDの技術は本当に、これま RFIDの可能性と幻想 RFIDは、その可能性が大きいだけに幻想も大きくなりがちだ。
少 なくとも一般の物流業者にとってRFIDは当面、具体的なテーマに なりそうもない。
技術的課題や標準化の問題があるのに加え、荷主 側の協力を得ることが難しいからだ。
泉田裕彦 前・国土交通省貨物流通システム高度化推進調整官 でコストをかけて行っていたデータ共有が劇的に改善 したり、商流や物流を画期的に改善する技術なのであ ろうか? 先に触れたISOの動きを含めて、疑問な 部分もあることから、先駆的な検討会での議論も踏ま えながら検討してみたい。
コストを誰が負担するか まず、RFIDとバーコードの違いを整理すると、 ?人手を介さずに自動認識可能である、?書き込み が可能である――の二点に集約できる。
しかし、? については、どのように使うかということを良く検討 しないと無用な機能となってしまう恐れがある。
通常、RFIDは、個体識別のため、物と一緒に 流通することが前提となる。
したがって、紛失または 破損の危険が常につきまとう。
平成十三年度に国土 交通省が航空手荷物にRFIDを貼付して物流の効 率化を行う実証実験を実施しているが、この際にも、 いくつかのチップが破損している。
結局、書き込み型RFIDに格納した情報のうち 紛失してはいけない情報は、別にサーバー等にバック アップする必要がある。
換言すれば、RFIDへ書き 込みを行う場合は、データ保管に二重コストが発生す ることとなるのである。
また、コストについては、もう一つ問題がある。
複 数事業者を流通するRFIDのコストは誰が負担す べきか? という問題である。
複数事業者間を流通す る商品等にRFIDを貼付して社会的に便益を生じ させるためには、通常、最初に商品等を送り出す者が 貼付する必要がある。
しかしながら、通常、コスト削減等のメリットを受 ける者は、流通段階で商品等をハンドリングする者で あったり、商品等の受け取り作業(検品作業)を簡 第4部 27 AUGUST 2003 略化できる可能性がある受取り手である。
平成十三年度に実施された「航空貨物におけるR FIDの活用研究会」(国土交通省に設置)において も、RFIDが全ての貨物に貼付されているのなら、 活用を考えても良いというキャリアやフォワーダーは いたものの、自ら他者のために、コストを負担してR FIDを貼付しようという事業者は存在しなかった。
コスト負担者と受益者が分離してしまうという問題 がある。
コスト転嫁の仕組み(ビジネスモデル)がな いと、伝票の印刷費にRFIDのコストが含まれる程 度に安価なチップが出現しない限り、実用化は難しい という現実がある。
読みとり専用型の優位性 以上のような制約条件がありながら、近年、米国で 注目される動きが見られる。
最初に商品等を送り出す 製造事業者が自らRFIDチップを貼付してコストを 回収できるビジネスモデルが出現しつつある。
例えば、 Gillet (ジレット)社やウォルマート社である。
米国では流通過程で商品が紛失することが間々あ る。
RFIDを全商品に貼付することによって、紛失 をした責任者を特定することが可能となる。
このため 紛失により生じている損害額より、RFIDシステム のコストが低くなれば、製造事業者単独でも、導入に 対する誘因が生じることとなる。
さらに最終納入先の 小売店における検品作業の省力化が図られることとな るので、導入が促進されることとなる。
この場合、個体(商品等)の特定ができれば良いの で、コストをかけて書き込み型RFIDにする必要は ない。
その個体(商品等)に関する情報は、サーバー に存在しておれば良く、ネットワークを介してアクセ スできれば十分ということになる。
実際、流通過程で必要な情報を整理してみると、商 流を担当する企業と物流を担当する企業によって必 要とする情報は大きく異なる。
(図1左参照)事実上、 個体を特定するIDを除いて、共通する情報項目は ないと言っても良いほどである。
このため、高価で書き込み容量に制約のある書き込 み型RFIDに何を記録するか関係者の合意を得る ことは非常に難しい作業となる。
結局、書き込み型R FIDより、バーコードを代替する安価な読み込み専 用RFIDの方が、利用範囲の広がる可能性がある のではないだろうか。
世界の潮流に乗り遅れるな 以上のように、RFIDは、単独事業者での利用 を前提にリユースが行われるICカードのような場合 は、書き込み機能は有意義であると考えられるが、複 数事業者を転々として使い捨てを前提とするタグは、 データ保全の面からもコスト面からも読み出し機能のみで十分であると考えられる。
世界中を流通する商品を安価に管理するには、I Dの標準化(例えば、IP・V6のアドレス利用)と ネットワーク(特にインターネット)の活用を考えれ ば最適な組み合わせが実現する。
特にネットワークの 活用は、XMLを利用することにより互換性が著しく 向上することとなる。
日本でも、書き込み型のタグを高価で販売すること ばかり考えずに、世界の潮流に乗り遅れないよう流 通・物流システムの効率化を伴うシステムの構築が必 要である。
他に、RFIDの相互運用性を高めるため には周波数問題も存在するが、本件は、他稿に譲りた い。
特集 ICタグ狂想曲 図1 RFIDの利用について サーバー アクセスコントロール アクセスコントロール 商流(トレードシークレット有) 物流 商品名 HSコード等 価格 取引先≒ 配送先 納品期限≒ 配送時間 危険物か否か 大きさ 重さ 運賃 荷主名 利用便名 〜複数事業者間を移動〜 ICタグ ID or データ サーバー ・データ書き込みをしても、データ破損に備えてサーバーバックアップは必要 ・書き込み型タグは、コスト劣位で普及が難しい ・コスト負担者と便益受容者が乖離する ハードには依存しない(標準化したほうが便利ではある) ※一部、高速回線がつかえない地域は書き込みも必要かも? メーカー等 物流会社 留意点 サーバーアクセス型システムを使う場合標準化はIDのみでよい 〜単一事業者でコントロール〜 ●電子シール(書き込み型RFID)  →24時間ルール、CSI対応から の要請あり \2,000〜\9,000程度 ●JR東日本のSUICA等 リユース されるもの ●航空会社のULDやJRコンテナの 識別 ●パレットの識別等

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