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OCTOBER 2003 28
ステップ1
届け先のヒット率を調べる
共同配送の話が持ち上がった際、まず最初に取り
掛かる作業は「互いの届け先がどれだけ共通している
か」、そのヒット率を調べることだ。 共配対象エリア
内の得意先リストを出し合い、一つひとつ照合してい
く。 会社によって得意先企業の呼び名が違っていたり
するケースもあるため、摺り合わせの作業にはそれな
りに時間も掛かる。
相手企業にはこの段階で得意先ごとの出荷実績デ
ータを用意してもらう必要がある。 サッポロビールの
商品と混載して配送した場合に、その得意先への物
量がトータルでどのくらいになるのか、当たりをつけ
るためだ。 ちなみに出荷実績データは一年間分揃えて
もらうのがベスト。 商品がどういう動きをするか。 出
荷量の季節波動を掴んでおかないと効率的な配車がで
きなくなってしまうからだ。
相手企業が得意先との間で決めている「受注〜配
達まで」のルールなどもきちんと把握しておく。 商品
を軒先に届けるのが受注日の翌日なのか、それとも受
注日の翌々日なのか。 共同配送導入を機にこうしたル
ールを見直すことができるか。 それとも既存のままの
オペレーションを望むのか。 相手の意思を確認してお
かなければならない。
北海道で展開している宝酒造との共同配送(二〇
〇一年八月号ケーススタディ記事参照)のケースでは
得意先のヒット率は五〇%を超えていた。 とりわけ札
幌市内でのヒット率が高かった。 「これだけ届け先が
共通しているのであれば、コスト削減のメリットも大
きいはず」という話になり、共同配送に踏み切ること
になったという経緯がある。
しかし、それ以前に両社が得意先と約束していた受
注〜納品までのリードタイムは異なっていた。 宝酒造
のリードタイムは「受注日の翌日」。 これに対して、サ
ッポロビールは「受注日の翌々日」だった。 宝酒造と
サッポロの共同配送では最終的に得意先にとってサー
ビスアップにつながる「受注日の翌日」のほうを採用
することにした。
ステップ2 配車システムを開発する
共同配送は、簡単にいうと同じ得意先にトラック二
台で商品を配送していたのを、トラック一台にまとめ
るという取り組みだ。 二社の商品を上手に混載してト
ラック一台当たりの積載効率をいかに高められるかが
コスト削減のポイントとなる。 成否のカギを握ってい
るのは物量に見合う配送トラックを仕立てる配車マン
だ。 サッポロでは配車マンの作業を支援するため、宝
酒造と共同配送を立ち上げるのに際して、情報システ
ムを新たに開発した。
「共配システム」と呼ばれるこのシステムは、サッポ
ロと宝酒造の出荷データを基にして得意先別の総出
荷量を自動計算するシステムである。 宝酒造からVA
N経由で送られてくるケース単位ベースの出荷データ
をキログラム換算に置き換える機能などを有している。
配車マンはシステムが弾き出した得意先別の出荷量を
見ながら、最適なトラックを仕立てればいい仕組みに
なっている。
ステップ1で説明した通り、宝酒造との共同配送で
は「受注日の翌日」に商品を得意先に届けている。 得
意先からの注文を午前中で締め切った場合、配車は
その日の夜までに済ませなければならない。 情報シス
テムを開発したのは配車マンの作業処理スピードを高
めるのが狙いだった。
システム開発の初期費用は六〇〇〇万円。 その後、
同業種共配の上手な進め方
酒類メーカーとの共同配送を運営しているサッポロビールは、共
同配送立ち上げまでの手順をマニュアル化している。 そのノウハ
ウは実務を担当する物流子会社「サッポロ流通システム」にも移
植されている。 現在、共同配送の導入を検討している企業にとっ
て、サッポロ流“共配の進め方”はいいお手本になりそうだ。
(刈屋大輔)
第2部荷主が描く業界プラットフォーム
サッポロビール
29 OCTOBER 2003
サッポロ流通システムの
荒木一浩営業本部営業部
物流グループ担当課長
●サッポロビールの共同配送の取り組み
スタート時期
2000年10月
2001年4月
2001年7月
宝酒造
三和酒類
菊正宗酒造
北海道
九 州
大 阪
パートナー 対象地区
配車マンの声を反映させて様々な機能を付け加えたた
め、実際にはもう少し費用が掛かっている。 基本仕様
は半年程度で固まったが、トライアルなどを経て最終
的にシステムが完成するまで約一年を要した。
ステップ3 現場視察&作業シミュレーション
続いて共同配送のパートナー企業の物流現場を視
察する。 ピッキングや仕分けといった現場作業をどう
展開していけばいいのか、その感触を掴むためだ。 可
能であれば一カ所ではなく、複数のセンターを見学し
て、どのようなマテハン機器を活用しているのか、ど
ういう手順で作業を進めているのか、などをきちんと
確認しておくべきだ。
例えば、ビールでのオペレーションをそのまま清酒
に当てはめようとしてもうまくいかない。 清酒は一升
瓶が多い。 これに対してビールは缶が中心だ。 商品の
形状が異なれば当然、荷扱いやトラックへの積み込み
の仕方も違ってくる。
次に現場視察の結果を踏まえて倉庫(物流センタ
ー)レイアウトの検討に入る。 そしてレイアウトのイ
メージがある程度固まったら、今度は作業シミュレー
ションだ。 出荷指示を受けたことを想定して、実際に
倉庫で作業員を動かしてみる。 それによって、一オー
ダーを処理するのに何分掛かるのか。 一日に作業員を
何人配置する必要があるのか。 コストはどのくらい掛
かるのか、などを細かく調べる。
シミュレーションを実施する際に忘れてはならない
のは、閑散期と繁忙期の両方の場面を想定するという
ことだ。 ビールは夏、清酒は冬といった具合に、商品
にはそれぞれ出荷のピークがある。 そのことをきちん
と認識しておかないと、出荷の最盛期に現場が混乱し
てしまう可能性がある。
ステップ4 微調整を加えながら本稼働へ
シミュレーションを終えたら、最終的にどのくらい
のコストでサービスを提供できるかを弾き出して、相
手企業に見積書を提示する。 これでゴーサインが出れ
ば、いよいよ共同配送スタートだ。 相手企業の商品在
庫を当社の倉庫に移し替える日を決めるなど共配開
始までの細かいスケジュールを詰めていく。
そもそも相手企業に共配を提案する段階で、どのく
らいのコストで動かしていくことができるのか、おお
よその当たりはつけている。 それでもシミュレーショ
ン後にもう一度コスト計算するのは情報システム開発
などの投資が新たに発生しているためだ。 計画したコ
ストとズレは生じていないか。 本当に採算が取れるか
どうかを最後に確認しておく必要がある。
そして、ようやく共配の立ち上げを迎えるわけだが、
スタートは比較的物量が少ない時期を選んだほうがい
い。 どうしてもスタート当初は現場に混乱が生じるからだ。 得意先に迷惑を掛けたり、サービスの質が落ち
てしまうのでは共配の意味がなくなる。 ある程度コツ
を掴んでから最盛期を迎えるようにスケジュールを組
むことが、共配を成功させる秘訣だ。
スタート後は現場からの意見を聞きながら作業の進
め方などに微調整を加えていき、理想的な共同配送の
姿に近づけていく。 共同配送は相手があるプロジェク
トだ。 一社単独で行う事業とは違い、すんなりとは進
まない。 相手の要望に耳を傾けて、それをできる限り
反映させることが肝心だ。 現場のドタバタが落ち着い
て、安定稼働に漕ぎ着けるまでに最低でも一年くらい
は掛かるだろう。
――サッポロ流通システムの荒木一浩営業本部営業部物
流グループ担当課長へのインタビューを基に構成。
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