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OCTOBER 2003 30
同業種では上手くいかない
「よく同業種による物流共同化の成功事例を耳にす
る。 しかし、同業の企業同士は本音で話すことができ
ない。 物流の共同化を突き詰めていくと、生産方式な
どのノウハウの共有にまで踏み込まざるを得なくなる。
これはメーカーにとって競争の道具でもあり、そうな
ると共配そのものが上手くいかなくなってしまう。 異
業種だからこそ本気で悩みを打ち明け、課題を解決し
ていくことができる」
大手住宅設備機器メーカー、クリナップの物流効率
化を長らく主導してきた、大竹重雄クリナップロジス
ティクス社長はこう強調する。 この言葉には数字の裏
付けがある。 現在、クリナップの対売上高物流費比率
は六%弱。 事務機器大手の理想科学工業と共同配送
を開始した九四年に比べて、二ポイント以上も改善し
ている。
もちろん、この数字には物流の共同化以外の効果も
含まれている。 それでもクリナップの取り組みは、物
流共同化を進めたいと願う企業にとって技術面と考え
方の双方から参考になる点が多い。 共配の主要パート
ナーを務める理想科学工業の浅田良一物流部長の次
の発言からもそれは伺える。
「当社には物流子会社がない。 しかし、クリナップ
ロジスティクスが子会社のような形で動いてくれると
認識している。 彼らは我々にとって、他の物流専業者
とはまったく位置づけの異なるパートナーだ。 地域レ
ベルで同様の機能を果たしてくれる物流業者なら他に
もいるが、全国規模でできるのは彼らだけだ」
クリナップロジスティクスは、クリナップの物流子
会社として昨年一〇月に発足したばかりの新しい会社
だ。 異業種による物流共同化をベースに親会社の物
生産革新から始まった異業種共配
20年近く前に始まった、異業種40数社による共同輸送プロジェ
クト。 現在まで参加し続けている企業は事実上、クリナップと理
想科学工業の2社に過ぎない。 両社は昨年、インターネット利用
の配車管理システムを稼働した。 改めて参加企業を募ることによ
って、異業種共配の拡大を図ろうとしている。 (岡山宏之)
流効率化を進め、同時に3PL事業も拡大していく
ことを事業目的としている。 昨年の時点で六社だった
同社の共配への参加企業は、すでに十三社へと倍増
した。 今期は外販比率一〇%程度を目指して活動を
展開中だ。 将来的には共配ビジネスの拡大によって三
〇%程度まで外販を伸ばそうとしている。
同社のセールストークは変わっている。 「我々が荷
主さんに提案していきたいのは、生産改革の骨格とし
てのロジスティクスの導入だ。 その目的は在庫をなく
すことではない。 在庫は、改革を進める結果としてな
くなるに過ぎない」と大竹社長は強調する。
このような考え方を理解できる荷主は、「多少は運
賃が上がっても、トータルコストを削減できるのであ
ればメリットがあると認識できる」のだという。 輸送
コストの削減を主眼とする共同化を否定するわけでは
ないが、それだけでは効果も限られている。 生産改革
まで踏み込んでこそ成果は大きい――。 だからこそ、
営業上の理由で胸襟を開けない同業種による物流共
同化の限界を指摘する。
生産改革に欠かせなかった物流改革
クリナップの共配ビジネスの本質を理解するには、
同社の経営改革の歴史を紐解く必要がある。 同社は
八六年からNPS(ニュー・プロダクション・システ
ム)研究会に参加してきた。 この研究会は、トヨタ自
動車で「かんばん方式」を発明した大野耐一氏の直
弟子だった鈴村喜久男氏が立ち上げた団体。 ?一個流
し〞(マーケットの実需に基づいて製品を一個ずつ生
産)による無在庫経営の実践を提唱してきた。
当時、NPS研究会に参加するにはいくつかの条
件をクリアする必要があった。 経営者がNPSの考え
方に賛同し改革の意志を持っていること、一業種につ
第2部荷主が描く業界プラットフォーム
クリナップ&理想科学工業
31 OCTOBER 2003
実際、クリナップは、NPSへの参加から数年間を
費やして小ロット単位の生産体制に移行した。 高度
成長期を通じて単品を大量生産することに慣れてしま
ったメーカーにとっては、容易に実現できる話ではな
いのだ。 しかも、これはNPS流の一個流し生産を行
うためにクリアすべき最初のハードルに過ぎない。
最も困難なのは、生産活動の前後工程にあたる「調
達」と「販売」に関する物流の高度化だ。 たとえ生産
活動を一個単位にできたとしても、調達がJIT納
品になっていなければ仕掛品や部材によって在庫の山
ができてしまう。 また、一個流しの生産にこだわるあ
まり、受注から納品までのリードタイムが競合他社よ
り極端に長くなるようでは販売活動の競争力を失いか
ねない。
つまり「生産方式を改善するなかで、骨格として物
流が回っていかなければCPSは上手くいかない」(大
竹社長)。 だからこそNPS研究会でも、まず最初に
「生産改革」からスタートし、次に調達・生産・販売の全体をコントロールする「経営改革」を進めるとい
う手順を踏んだ。 そして、ここで成功のカギになった
のは物流の高度化だった。
物流改革のニーズが育んだ共配事業
八六年にNPS研究会に参加した時点で、クリナ
ップは営業所に併設した在庫拠点を全国五二カ所に
構えていた。 それだけ各地に在庫を抱えていたわけだ
が、前述した生産改革によって一個単位で製品を作
る力を身に付けてからは、その必要は薄れていった。
そこで同社は受注生産を基本としながら、どうして
も間に合わない場合だけ在庫から引き当てるように段
階的に変えていった。 加えて、従来は在庫拠点として
活用していた各地の拠点を、通過型の積み換え拠点
き一社のみ(つまり基本的にすべて異業種)、参加企
業は互いに生産方式などのノウハウを開示する――。
一時は数十社が参加していたが、結果としてこの研究
会の教えを血肉化できた企業は、ごく一部だけだった。
そのうちの一社がクリナップである。
同社は自らの生産方式をCPS(クリナップ・プロ
ダクション・システム)と呼んでおり、受注生産によ
る出荷体制をほぼ完璧に確立している。 今風に言えば
高度なデマンドチェーン・マネジメントを実現してい
るわけだが、その仕組みは極めてシンプルだ。 「生産
指示カード」と呼ばれる一枚の帳票がカギを握ってい
る。 このカードは製品一個ごとに受注時に発行される
ようになっており、これがなければ工場では製品を作
れないルールになっている。
トヨタ生産方式の「かんばん」が前工程に対して部
品の補充指示などを出すのに対して、この生産指示カ
ードは営業の最前線で実需が発生したことを、工場や
調達部門に知らせる役割を担っている。 カードは、営
業マンが顧客から注文を受け、コンピュータに受注入
力をした時点で初めて出力される。
売り上げの計上も、カードの発行と同時に自動で処
理される。 このため営業マンが見込みで受注データを
入力し、結果として受注できなければ、必ず返品処理
が発生する。 そうすることで見込み生産を排除し、実
需と生産活動を一対一で同期化させ、余分な製品在
庫が発生することを防いでいる。
仕組みはシンプルだが、これを実際の日常業務に落
とし込むのは至難の業だ。 まず第一に、実需に対応し
ながら、生産ラインで小ロット単位で別々の製品を作
る技術を身に付けなければならない。 具体的には「段
取り替え(生産品種を変更するための作業)」の迅速
化などによる生産改革が欠かせない。
配送予定報告
運行経過実績
プラットフォーム用
最適配送予定ルート表示
クリナップロジスティクスの
大竹重雄社長
理想科学工業の浅田良一
物流部長
●共同配送に利用している「SLIMシステム」の画面
OCTOBER 2003 32
へと機能を変更した。 こうして工場から製品を直送で
きる体制を整備した。
現在、クリナップは保管倉庫を持っていない。 五二
カ所あった在庫拠点は全廃し、代わりに全国六六カ
所に通過型拠点を構えている。 工場で生産した製品
はその日のうちに出荷し、当日もしくは翌日には積み
換え拠点へと運び込む。 ここですぐに方面別に積み分
け、工場を出た翌日中には顧客に届ける。 天候不良
でどうしても納品できないといった特殊ケースを除け
ば、積み換え拠点に製品が滞留することはない。
調達物流のやり方も大幅に改めた。 八五年以前の
同社は、月に一回〜二回の頻度で調達先企業に部材
を搬入させていた。 生産改革を進める過程で、これを
クリナップ自身が仕立てた車両で毎日、調達先まで取
りに行く方式に改めた。 その日の生産に必要な部材だ
けを自らピックアップしてくるよう、発想を転換した
のである。
物流を高度化していく中で、共同物流の枠組みも
育まれた。 NPS研究会への参加企業は皆、クリナッ
プと同様に生産の小ロット化に挑んだ。 そのとき各社
にとって問題になったのは物流、とりわけ調達物流だ
った。 クリナップのように一日単位で自ら集荷する体
制に変えたくとも、単独でチャーター便を仕立てるの
では採算が合わない。 そこでNPS研究会のメンバー
が相乗りする共同便が仕立てられるようになった。
現在、クリナップの共同物流の主力パートナーであ
る理想科学工業は、九四年にNPS研究会に参加し
た。 同社の製品は法人向けと個人向けに大別できる。
「リソグラフ」と呼ぶデジタル印刷機と、そこで使う
インクなどの消耗品は主に法人向けだ。 一方、「プリ
ントゴッコ」などの簡易印刷機の大半は個人が使って
いる。 法人向け印刷機の需要の波が小さいのに対し、
「プリントゴッコ」は年賀状の時期に極端に需要が集
中するという違いもある。
本来、法人向けのデジタル印刷機は受注生産に近
い製品だ。 「ビジネスユースの製品を受注するまでに
は、まず営業マンがセールスに足を運び、先方の社内
で稟議を上げてもらうといったステップが必ずある。
そうした情報をきちっと把握できれば多くの在庫を持
つ必要はない」(理想科学の浅田部長)。 しかし、現実
は違った。 九〇年代初頭の同社は全国各地の倉庫や
工場に、この印刷機の在庫を大量に抱えていた。
NPSに参加したことで無駄を自覚した理想科学
は、クリナップと同様、一個流しの考え方に基づく生
産改革と物流改革に取り組んだ。 そして数年を費やし
て、筑波工場の中の出荷センターから製品を直送でき
る仕組みを構築した。
この際、理想科学は、NPS研究会の参加メンバー
による共同便を使う部分と、自社便とを使い分ける方
針をとった。 札幌、東京、名古屋、大阪の大都市圏は
自社便でまかなうが、それ以外の地域については共配
を利用する。 このような経緯からクリナップが全国に
構える六六カ所の通過型拠点のうち、四四カ所に理
想科学が相乗りする現在の構図ができあがった。
その後、NPS研究会のメンバーの多くは、生産改
革や物流改革が上手くいかず共同便の枠組みからも
抜けていってしまった。 最終的にクリナップと理想科
学の二社だけが残った。 いずれも高いレベルで生産改
革を実現し、しかも共配によるメリットを享受できる
体制を構築できたことが大きかった。
SLIMシステムで新たな段階へ
クリナップと理想科学の物流共同化は今、これまで
とは異なる局面を迎えている。 両社は昨年、経済産業
●共同物流情報システム「SLIM」
顧 客
クリナップ 他荷主企業
ド
ラ
イ
バー
運
送
会
社
﹇SLIM﹈サーバー
顧客からの問い合わせ
顧客への回答
配送データの送信
最適配達ルート等の確認
運行管理の状況確認
ドライバーの業務報告
●各企業の配送計画をサーバーが事前に一元管理。
コンピュータにより自動的に最適配送計画を立案・実行。
●運行実績がリアルタイムで判明。
●ドライバーは、携帯電話で配送完了入力、遅延等の状況報告。
簡単操作で報告業務ができ、業務負担が軽減。
●「SLIM」は、ビジネスモデルとしての特許を申請中。
インターネットを利用して「SLIM」サーバー
にアクセスし、情報を瞬時に引き出す
理想科学工業のデジタル印刷機クリナップのシステムキッチン
33 OCTOBER 2003
省の広域物流効率化推進事業の補助を受けて、「SL
IMシステム」という情報システムを共同で開発した。
これはインターネットを使って配車計画支援と運行管
理を行うシステムで、二年間の調査・開発期間を経
て本格的に稼働した。
NPS研究会を母体に発展してきた二社の共同物
流は、その運営手法においてもNPSのやり方を踏襲
していた。 業務処理は紙ベースの情報伝達と電話・フ
ァクスが中心で、改革の考え方が先進的だった割には
旧態依然とした装備のままになっていた。 両社がSL
IMシステムの開発で合意した最大の狙いは、IT化
による共同輸送の運営の効率化だった。
実際、補助金は二社の物流共同化をテーマに助成
された。 ただし、クリナップと理想科学には、上記の
狙いの他にもSLIMに期待したことがあった。 紙ベ
ースのやりとりをWebに乗せ替えて効率化した情報
機能を、具体的にどう自社の付加価値につなげていく
かという点で両社は異なる思惑を持っていた。
まず、クリナップの立場では、共配事業を一層拡大
するという狙いがあった。 すでに同社の物流効率化は
かなりの完成度に達成している。 今後は、クリナップ
ロジスティクスが主導する共同物流を一層進めること
で積載効率を高め、結果としてクリナップ自身の物流
コストを下げたい。 インターネット経由で誰でもアク
セスできるSLIMは、そのための有効なツールにな
ると位置づけた。
理想科学も独自の狙いを持っていた。 同社がクリナ
ップと実施してきた共同物流は、自社の営業所や販
売店など、ある程度まで行き先を固定できる販路だけ
に限定してきた。 このため販売店から最終顧客までの
物流は別途、新たに発生していた。 理想科学としては、
クリナップロジスティクスの管理下で、配送車にエン
ドユーザーまで製品を納品してもらう体制を構築して
もらおうとしている。 販売会社の物流負担を軽減する
ことが狙いだ。
理想科学の浅田部長は「SLIMの開発に着手し
たときから、販売店を経由しない物流の実現を考えて
いた。 以前から自社便で直送してきた大都市圏だけで
なく、今後は全国どこでも工場から直納する体制に変
えていきたい。 また、買い換え需要に対応して旧機種
を引き上げる業務も頼みたいと思っている。 クリナッ
プロジスティクスの九州全体を統括する物流拠点では、
すでに当社の製品を最終顧客に納品するための荷扱い
の訓練も行った」という。 現状ではまだトライアルの
段階だが、今期中には準備を終えたい考えだ。
過去の両社は、生産改革と物流改革で大きな成果
を上げてきた。 クリナップについては、NPS研究会
に加盟した八六年に比べて売上高が倍増したにもかか
わらず、棚卸資産は三分の一に激減している。 在庫回
転期間も九分の一程度になっており、現在では〇・二カ月分程度の在庫しか持っていない。 理想科学の
国内の法人向け製品の在庫も、現在では〇・一カ月
分程度と極めて低い水準にある。
それでも改善すべき課題は尽きない。 クリナップは
共同輸送の拡大によって、自社の物流効率を一層高め
ることを狙う。 そのためにクリナップロジスティクス
が共同物流への参加企業を増やし、親会社の物流効率
化と外販拡大の二兎を追うことを期待している。 一方
の理想科学は、共同物流エリアでの顧客への直送化
を実現して次のステップに進もうとしている。
挑む課題は異なるが、物流共同化がもはや両者にと
って欠かせない手段であることだけは間違いない。 今
後、両社がさらに高いレベルで経営体質の強化を図れ
るかどうかは、物流共同化の行く末次第だ。
TC(プラットホーム)での立案結果
SLIM配車 要求条件をクリアーしたフレキシブルな配車へ
15:00迄
15:00迄
午前中
午前中 10:00
15:00迄
午前中
午前中
午前中
午前中
午前中
午前中
TC(プラットホーム)での立案結果
従来のベテラン配車マンの傾向 花弁型配車
15:00迄
15:00迄
8:30
午前中
午前中
9:00
8:00
10:00
15:00迄
午前中
午前中
午前中
午前中
午前中
午前中
9:00
9:00
8:30
9:00
8:00
花弁型 SLIM
●配車担当者による“花弁型”の運行を、システム化によってフレキシブルな運行に置き換えた
従 来 現 在
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