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NOVEMBER 2003 42
世界最大のロジスティクス研究団体、米C
LM(Council of Logistics Management )
が四〇周年を迎えた。 シカゴで開かれた今年
の年次総会には例年どおり世界各国から多数
の物流マンが詰め掛けた。 国際会議の出席は
もちろん初めて。 英語力?ゼロ〞を自認する
本誌記者が、そこに紛れ込んだ。
世界中の物流オタクが一堂に
九月二十一日。 時計の針は午前五時を指して
いる。 外はまだ真っ暗だ。 目がパッチリと開い
ている。 いつものように二度寝ができない。 時
差ボケだ。 今日から始まるCLMのアニュアル
カンファレンス(年次総会)に出席するため昨
日、東京からシカゴに着いた。 日本と一五時間
の時差がある。
私が泊まっているハイアット・リージェンシ
ーはカンファレンスの会場となるコンベンショ
ンセンター「マコーミックプレイス」に隣接し
ている。 昨日、下見のために会場を一回りして
みたが、あまりの広さに驚いた。 南側の会議場
から東側の会議場まで歩いて一〇分以上掛かる。
こんな大会場が必要なくらい参加者が集まると
いうのか。
それにしても今回は過去の海外取材に比べ明
らかに準備不足だ。 出発前日まで一〇月号の締
め切りに追われたため、予習時間はゼロ。 パス
ポートやデジカメなど最低限必要なものだけを
バッグに詰めて、慌てて飛行機に乗り込む羽目
になった。 さすがに今日から四日間に及ぶ取材
がうまくいくのかどうか不安な気持ちでいっぱ
いだ。
だからといって「取材できませんでした」で
は済まされない。 誌面に穴を開けたり、つまら
ない記事を提出して編集長に雷を落とされるの
はごめんだ。 まだ間に合う。 さっさとスーツに
着替えてコーヒーでも飲みながら取材の準備を
しよう。
そう考えて、カタコト英語でも注文ができそ
うな日本でもお馴染みのコーヒーショップ「ス
ターバックス」に飛び込んだのが、総会スター
ト二時間前のことだった。 注文した覚えのない
グランデサイズのラテをすすりながらバッグから
弊誌の二〇〇二年十二月号を取り出した。 昨年
のCLM年次総会レポートが掲載されている。
弊誌が年次総会に参加したのは昨年が初めて。
取材担当は編集長だった。 さすがに記事はよく
まとまっている。
レポートによると、CLMとは物流やロジス
ティクスの実務家、コンサルタント、学識経験
者らで組織化されている世界最大のロジスティ
ク
ス
研
究
団
体
、
Council of Logistics
Management
の略称だ。 一九六三年に設立され、
今年でちょうど四〇周年を迎えた。 会員数は約
一万人で、米国に本部を置いている。
CLMは毎年秋に年次総会を開いている。 ロ
ジスティクスの最新動向が掴めるテーマ別セッ
ションを受講できるほか、著名人による講演な
どを聞くことができる。 もちろん出席者やセッ
ションの講師たちとの情報交換も可能だ。 参加
費は一二〇〇〜一九〇〇ドル程度と割高である
にもかかわらず、毎回五〇〇〇〜六〇〇〇人も
のロジスティクスのキーマンたちが世界各国か
ら会場に駆けつけるという。
本来なら現地でロジスティクス業界のキーマ
ンたちをつまえてミニインタビューを敢行する
ことが記者の仕事だろう。 しかし、私の場合は
少し違う。
?世界中から集まる?物流オタク〞たちに名
刺を配りまくり、ジャパニーズスマイルで仲良
くなる、?各セッションのスピーカーに発表用
の資料を後日電子メールで送付してくれるよう
依頼する、?そして弊誌「LOGI-BIZ
」が日本
で最大の(ただし唯一の)総合ロジスティクス
雑誌であることをピーアールする――以上が私
に課せられたミッションだ。
取材記者というよりも営業マンに近い。 が、
それもやむを得まい。 私は一応大学は出ている
ものの、語学力は中学生レベル。 英語で気さく
に会話なんてできない。 「Nice to meet you
」と
言って自己紹介して握手を交わすのが精一杯だ。
それでも今回私が派遣されたのは何故か。 編
集長は「君のように優秀な物流記者が一度もこ
の会合に参加していないというのは如何なもの
か。 日本代表として今回は出席したまえ」と言
って送り出してくれたが、編集部員の中で最も
若く、長時間のフライトに耐えられる体力があ
る奴は…。 そんな基準で私が選ばれたのは火を
見るより明らかだった。
英語力“ゼロ”で挑んだ
米CLM年次総会取材日記
43 NOVEMBER 2003
日本はお呼びじゃない?
スタバで簡単な予習を済ませて最初に向かっ
たのは「Logistics Educators Conference
」の
会場だった。 直訳すると、「ロジスティクス教育
者のための会合」である。 ロジスティクスを専
門とする大学教授たちが一堂に会し、「今後の
ロジスティクス教育はどうあるべきか」につい
て議論したり、互いに研究の成果を発表し合う。
恐らくそんな会合なのだろう。
ズバリその通り。 会場の
入り口で配られた資料の目
次には、パネルディスカッ
ションや調査研究のプレゼ
ンテーションが行われると
書かれていた。 会場に入る
といかにも賢そうな連中が
「お前はお呼びじゃないぜ」
といった雰囲気を作り出し
ていて、席に着くのもイヤ
な感じだったが、せっかく
早起きしたので、いくつか
プレゼンを聴いてみること
にした。
もちろん発表は全て英語
で行われる。 悔しいことに
聞き取れるのは全体の半分
にも満たない。 それでもお
堅い話が展開されているこ
とくらいは何となく分かる。 段々と眠たくなっ
てくる。 発表中の居眠りは世界共通の無礼な行
為だ。 それだけは避けようと思い、トイレに行
くふりをして会場からいったん退出した。 会場入り口付近で深呼吸しながらコーヒーを
飲んでいると、金髪女性二人組が私に声を掛け
てきた。 といっても逆ナンパではない。 首から
ぶら下げていた名札の「JAPAN
」の文字に興
味があったようだ。 簡単に自己紹介して握手を
交わすと、いま米国の大学でロジスティクスを
教えているという彼女たちは早速、私にいくつ
か質問をぶつけてきた。
「日本にはロジスティクスを教えている大学が
どのくらいあるのかしら?」
数える程しかない。 そう私が答えると、彼女
たちは驚いたような表情を浮かべながら、こう
続けた。
「日本は米国に次ぐ経済大国だったわよね。 に
もかかわらずロジスティクスを教える大学が少
ないのは不思議ね。 どうやってロジスティクス
の専門家を育てているのかしら? 企業に入っ
てから学ぶの?」
彼女たちに言わせると日本はロジスティクス
のワンダーランドらしい。 ロジスティクスの専
門家を育成する機関がほとんどないのに、日本
企業には優れたロジスティクスの事例がたくさ
んあるからだ。 誰がロジスティクスのプロジェ
クトを先導しているのか。 そのほとんどがロジ
スティクスの専門的な教育を受けていないとい
う事実にかなり衝撃を受けていた。 そして最後
に一言。
「日本ではロジスティクスを教える大学は増え
つつあるの? それはいいことね。 米国でレイ
オフされたら、日本に行けばいいわけね。 私た
ちは失業しなくて済むわ。 いい大学があったら
紹介してね。 あなたは記者だから顔が広いんで
しょう。 よろしくね。 はい、これ私の名刺」
どうやら彼女たちが私に近づいてきたのは日
本とのパイプづくりが目的だったようだ。
初日はこの教育者総会のほかに、ソフトウエ
アの教育と技術に関するセッション、CLMに
新たに加入したメンバーや総会初参加のメンバ
ー向けのオリエンテーションなどが用意されて
いた。 さらに夕方六時からは出席者たちがビー
ルやワインを片手に親睦を深める「ウェルカム
レセプション」が催された。
宣伝色の強いセッション
二日目の二十二日は、デューク大学のバスケ
ットボールチームのヘッドコーチを務め、同チ
ームを三度ナショナルチャンピオンに導いたマ
イク・クリゼウスキー氏による特別講演会で幕
を開けた。 大学生という難しい時期にある子供
たちの気持ちをどうやって鼓舞して、バスケッ
トに集中させたか。 同氏は長年のコーチ生活か
ら得た上手に人をマネジメントするためのノウ
ハウを披露した。 主催者側はそのノウハウがロ
ジスティクスのマネジメントにも応用できるは
ずだと判断して、彼に講演を依頼したに違いな
い。
バスケットコーチによる講演会。
米国では有名人なのか?
多数の参加者が会場に詰め掛けた
NOVEMBER 2003 44
続いて参加者たちのお目当てであるテーマ別
セッションがいよいよ始まった。 今年は昨年よ
りもやや少ない三〇のトピックスについて延べ
二〇〇余りのセッションが用意された。 セッシ
ョンの中身はロジスティクスからサプライチェ
ーンマネジメントまで多岐に渡っている。 会議
場を離れ、シカゴ近郊のロジスティクスの現場
を視察する「ロジスティクス施設ツアー」とい
ったメニューも用意されていた。
セッションは一コマが質疑応答を含めて約一
時間半。 年次総会の期間中に参加者一人が出席
できるセッションは基本的に七つだけだ。 ただ
し途中で退席してセッションを梯子(はしご)
すれば、多い人で一〇〜三〇コマ受講できる。
もっとも冒頭で説明したとおり、会議場の移動
にはかなりの時間を要するため、一五コマくら
いが限界だろう。
私はこの日、昼食会を挟んで計六つのセッシ
ョンを受講した。 パンフレットをパラパラとめ
くって、タイトルが興味深かったり、スピーカ
ーが著名な企業の出身であるといった理由でセ
ッションを選んだ。
「
Logistics Cost and Service 2003
」「The
Business of Closed Loop Supply Chains and
Reverse Logistics
」「Logistics Outsourcing In
2010
」の三つと、梯子用セッションとして「Is
the 3PL Model Obsolete?
」「2003 Career
Patterns for Women in Logistics:
Suggestions for Managing Your Career
」
「
News from Eastern European Logistics
」を
受講した(各セッションのレポートは十二月号
以降に随時掲載する予定)。
内容は全体的にまずまずだった。 しかし、中
には企業PRが大半を占めていたり、核となる
部分には触れずじまいだったり、ガッカリさせ
られたセッションも少なくなかった。 日本から
参加したフレームワークスの田中純夫社長も
「数年前までセッションは突っ込んだ内容のもの
が多かった。 しかし最近は表面的でPR的な内
容が増えてきている」と渋い表情。
セッションの質が低下しているという認識は
日本人参加者に限ったことではなさそうだ。 会
場内のマクドナルドで隣の列に並んでいたアト
ランタからの参加者も「CLMのセッションは
毎年つまらなくなっている。 今年が最後の参加
になるかもしれないな」と不満そうだった。
私は過去にCLM年次総会を取材した記者に
「日本の事例発表会もCLMくらい情報がオー
プンになるのが理想だ」と聞かされていた。 そ
れだけにセッションが年々閉鎖的になってきて
いるのはとても残念でならない。 もっとも、未
熟な英語力のため、単に私が重要な情報を聞き
漏らしているだけという可能性もあるのだが…。
この日も夕方六時半からシカゴ市内のホテル
でCLM主催の?宴会〞が予定されていた。 し
かし私は本部から案内状を頂いていたが、欠席
させてもらった。 最後のセッション終了後、急
いでタクシーに乗って向かったのは「シカゴ・ホ
ワイトソックス」のスタジアム「USセラーフィ
ールド」だ。 誰も手を挙げなかった今回の海外
出張を引き受けたことへのご褒美として、ゴジ
ラ松井の「ニューヨーク・ヤンキース」の試合
を観戦してもいいという許可をもらっていたから
だ。
松井はヒット。 元広島のソリアーノが一発放
り込むなど、とてもエキサイティングな試合だ
った。 ホットドッグとビールも最高だった。 そ
してあまりにも楽しかったので翌日も球場に足
を運ぶことに。 ラッキーなことにその日は贔屓
のジアンビーがホームラン。 ヤンキースが地区
優勝を決めた試合となった。
ウォルマートと口約束
二十三日は早朝からやや重めのプログラムが
用意されていた。 「Executive Development
Program
」というロジスティクスマネージャー
向けのセッションだ。 途中一五分間コーヒーブ
レイクがあるものの、八時半から正午までぶっ
続けで講義が行われる。 今回用意された講義は
「
Developing Logistics Leaders in the
Relationship Age
」「Executives in Logistics:
The Road to CEO
」「Supply Chain Mastery
」
「
Managing Quality Improvement: Six Sigma
and Logistics Management
」「Introduction to
Coaching
」「The Financial Supply Chain
Management Connection
」――の六つだった。
このプログラムは数年前にスタートして以来、
参加者から多くの支持を集めている。 通常の一
時間半のセッションとは違い、あるテーマにつ
いてより深く学習することが可能だからだ。 ブ
出席者たちのお目当てである
セッションは近年、企業宣伝
色が強くなりつつある
45 NOVEMBER 2003
ラクストンの梶田ひかるマネージャーは「いま
CLM年次総会でもっとも人気のあるセッショ
ンだ。 このプログラムを目当てに年次総会に参
加しているメンバーも多いのではないか」と分
析する。
私はアクセンチュアのウィリアム・C・コパ
チーノ氏と、スタンフォード大学の李教授が担
当した「Supply Chain Mastery
」という講義
に出席した。 SCMの人気コンサルタントと名
門大学の教授による?コラボレクチャー〞とい
うこともあってか、会場はほぼ満席だった。 内
容は英語力の関係でよく理解できなかったが、
李教授の捲し立てるような口調で放つアメリカ
ンジョークが参加者たちの笑いを誘っていた。
この講義にはゲストスピーカーとしてウォル
マートのロジスティクス総括本部のゲイリー・
A・マクスウェル副社長も参加した。 私は講義
終了後に彼をつまえて、インタビューを申し込
んだ。 しかし、さすがに世界一の小売業だ。 情
報統制がしっかりとしている。 「後日、日本でイ
ンタビューっていうのはどうだ?」とあっさり
とかわされてしまった。 逆に日本のマーケット
について質問を受ける始末だった。
「エーイーオーエヌ…そう、イオン。 イオンって
言ったね。 あの会社はなかなかすばらしいロジ
スティクスの仕組みを構築しているらしいね」
とマクスウェル氏。
「そういうお宅はいま、西友さんと色々と試し
ているんでしょう?米国流、それとも日本式の
どちらのロジスティクスで攻めるの?」とぎこ
ちない英語で私。
「今度日本でゆっくり話そう。 はい、これ名刺。
メールでもちょうだい」と終始笑顔なマクスウ
ェル氏。 日本のマーケットを有望視していると言いな
がら、イオンの名前すら出てこないことに思わ
ず首を傾げてしまったが、口約束とはいえイン
タビューを前向きに検討してくれるという返事
を得たことは今回の大きな収穫の一つだ。
午後からは再びテーマ別セッションだ。 この
日は「Eighth Annual Study of 3PL Service
Providers: Views from the Customers
」
「
Logistics in China
」の二コマを受講した。 こ
のうちロジスティクスのマーケット拡大が確実
視されている?中国〞のセッションへの出席者
が極端に少なかったのは意外だった。 中国ブー
ムは一段落したと受け止めていいのか。 それと
も同じ時間帯に何か他に人気のセッションが重
なってしまったためなのか。
有名教授に説教される
最終日の二四日は午前中にテーマ別セッショ
ンが二コマ。 午後には米国の人気作家であるダ
ン・クラーク氏による講演会が開かれた。 さす
がに最終日ともなると、会場の人影もまばらに
なる。 午後の便で帰国するのか、スーツケース
を引きながら会場を移動する参加者が数多く見
られた。
この日、日本からの出席者の一人としてとて
も悔しい思いをした。 会場で名刺交換したある
米国有名大学の教授から突然、説教されてしま
ったのだ。 彼の指摘はあながち間違いではなか
ったため、ほとんど反論することができなかった。
彼が日本人の私を捕まえて約五分間、延々と語
ったのは恐らくこんな内容だったに違いない。
「何故、CLMでロジスティクスの事例を発表
する日本人が今回一人もいなかったんだ? 名
簿を見るかぎり、日本から十数人参加している
じゃないか。 日本人はいつも情報を収集するば
かりで、他人にギブしない。 米国ばかりではな
く、欧州やアジアからの参加者たちは皆、日本
の事例にとても興味を持っている。 日本に帰っ
たら、これからは日本人もCLMでセッション
を持つべきだという記事を書いてくれ。 そうし
ないと来年からは取材を認めないぜ。 まあ、そ
れは冗談だけど」
今年一月、日本にもようやくCLMのラウン
ドテーブルが設置された。 日本のCLMへの貢
献はこれからだ。 ラウンドテーブルを運営する
ボードメンバーたちは決して現状に甘んじてい
るわけではなく、年一回の世界的なロジスティ
クスの祭典にたくさんの講師を派遣して、日本
のロジスティクスのレベルの高さを伝えたいと
いう認識を持っているという。
それを聞いて少し安心した。 来年以降の年次
総会でのセッションが楽しみだ。 ちなみに二〇
〇四年のCLM年次総会は一〇月三〜六日にか
けて、米国フィラデルフィアで開催される予定
となっている。 英語力に磨きをかけてリベンジ
しようと思う。
(刈屋大輔)
年次総会の会場はとても広い。
移動に10分以上掛かること
もある
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