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納品代行業は、物流業のなかでも特異な領
域をカバーしている業態だ。 都心に店舗を構
える百貨店に対し、商品の調達先であるメー
カーや卸の納品業務を代行するビジネスとし
て、一九六〇年代から七〇年代に発達した。
百貨店には数千という取引先がある。 これ
らの取引先が店舗に個別に納品すると、荷受
け作業が混乱し、納品車両の混雑は付近の交
通渋滞の原因にすらなる。 こうした問題を解
消するため、百貨店への納品を代行するビジ
ネスが必要とされるようになった。
これまで納品代行業は、百貨店の荷受け業
務を効率化するビジネスとして存在意義を持
ってきた。 一方の納品側にとっても、この業
態の発展が営業活動における商物分離を進め
るきっかけになった。 納品業務を専業者に任
せることでデリバリーから解放され、本来の
営業活動に専念できるようになったのだ。
百貨店の調達物流は、納品側のメーカー・
卸から見れば販売物流にあたる。 百貨店をタ
ーゲットにしながら、調達と販売の両側から
独自の物流市場開拓を進めるというのが、納
品代行業というビジネスだ。
顧客仕様の値札を毎日一〇万枚作成
東京納品代行は、一九七〇年に設立された
納品代行専業の大手だ。 ファッション衣料や
雑貨を中心に、寝具や化粧品、靴、玩具、書
籍などの百貨店への納品業務を受託している。
食品や美術品、家具類などを除けば、百貨店
商品と情報を一体で運ぶ強み活かし
新モデルでアウトソーシング事業強化
百貨店各社で調達物流の見直しが相次ぎ、
取引先とのEDIによる「伝票レス」や「検品
レス」、「値札レス」のシステム構築が進み
つつある。 納品代行業大手の東京納品代行
は、百貨店の新調達モデルをいち早く先取
りしてビジネスチャンスをうかがう。 “商品
だけでなく商品の情報も同時に管理して運
ぶ”という、この業態の特性が武器になる。
東京納品代行
――百貨店物流
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の店頭に並ぶ商品の大半を扱っている。
東京地区とその近郊だけでも、東京・江東
区の辰巳物流センター(延べ床面積一万八〇
〇〇平方メートル)、千葉県内の成田物流セ
ンター(同四万平方メートル)、船橋物流セ
ンター(同二万二〇〇〇平方メートル)など
十数カ所の物流センターを設置。 百貨店への
納品に伴う値札の作成・取り付けや、縫製検
査・検針、プレス加工、各種のキッティング
などを手掛けている。 さらには百貨店から取
引先に返品される衣料品のハンガー替えなど
の返品再生処理業務も受託してきた。
納品業務を代行するということは、単に運
ぶだけではなく、納品に伴う付帯業務をも肩
代わりすることを意味している。 そして、こ
こにこそ納品代行業の特性と、ほかの物流事
業者にはない強みがある。
納品に伴う付帯業務のなかで最もウエート
の大きいのは、値札の作成・取り付け作業だ。
過去に百貨店に商品を納品するには、百貨店ごとにフォーマットの異なる専用値札を取り
付けなければならなかった。 取引先は、百貨
店ごとに違う値札の台紙を用意して管理し、
発注のたびにそれぞれのフォーマットに従っ
て値札に印字して商品に取り付ける必要があ
った。 作業負荷と煩雑な管理を伴うため、百
貨店の取引先の多くはこの作業を納品代行業
者にアウトソーシングしてきた。
東京納品代行の物流センターでも、一日に
約一〇万枚の値札作成・取り付けを手掛ける。
百貨店値札には、商品のアイテムコードや仕
入れ区分コードなど、売り場での商品管理に
必要な情報を印字してある。 納品業務を代行
するということは、これらの情報を直接扱う
ことを意味する。 このため同社も、納品を行
っているすべての百貨店のフォーマットをコ
ンピュータに登録して対応してきた。
百貨店の商品管理に必要な情報を商品一
点ごとに作成し、値札に印字して商品に取り
付ける作業を受託する。 これによって納品代
行業者は、商品と商品情報とを一対で管理す
る立場に置かれてきたわけだ。 そして東京納
品代行では、ほかの業態にはない納品代行業
者の最大の強みとして、この機能に着眼して
きた。
いま多くの百貨店が商品の調達にかかわる
ビジネスモデルの再構築を進めている。 その
なかにあって東京納品代行は、商品情報を管
理する機能を足がかりに新たなビジネスチャ
ンスを捉えようと機会をうかがってきた。
単品管理の導入で変わるフロー
百貨店の多くは近年、単品管理に力を入れ
てきた。 単品レベルで商品の売り上げ状況と
在庫情報を管理することで、販売機会ロスを
防止しようという狙いだ。 そして、この単品
管理の導入に合わせて、調達に関する業務フ
ローの見直しを進めている。 販売情報や在庫
情報の管理を単品ごとに行い、その情報を取
引先と共有することによって効率よく商品を
調達する新たなビジネスフローを構築しよう
というのだ。
ただし、現状では百貨店各社もその取引先
も、それぞれ独自のコード体系で商品管理を
行っている。 従って百貨店と取引先が情報を
共有するためには、コードの読み替えが欠か
せない。 そこで百貨店では、単品管理を進め
るために共通の商品識別コードであるJAN
を採用した。 JANをキーにコードの読み替
えを行うというわけだ。
新しいビジネスフローには百貨店や商品群
によっていくつかのパターンがあるが、基本
的には同じだ。 あらかじめ百貨店と取引先が
EDIによって商品マスター(JANコード、
商品名、取引先商品コード、色、サイズ、単
価など)を交換しておく。 そして百貨店の店
頭で単品の売り上げ情報を管理し、この情報
をもとに百貨店から取引先に発注を行うか、
または取引先が自ら補充を行う。
設立 1970年2月
所在地 東京都江東区木場2-17-16
資本金 5億5000万円
年商 147億円(2003年1月期)
事業内容 1 ロジスティクスの包括受注(サ
ードパーティ・ロジスティクス)、
2 全国百貨店への納品代行業務、
3 商業施設への配送業務、 4 商品
管理および流通加工、 5 物流コン
サルテーション、 6 物流情報サー
ビス、7 国際一貫物流
従業員 2500人余(パート等含む)
車両台数 410台
東京納品代行の企業概要
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EDIで必要な情報を交換することによっ
て発注伝票や納品伝票をなくし、さらに検品
作業まで効率化できるところが、このモデル
のオペレーション上の特徴といえる。
取引先の出荷拠点では、出荷指示の出た商
品をピッキングして、出荷検品を行った後に
検品結果から事前出荷明細(ASN)を作成
して百貨店に伝送する。 さらにASNとひも
付けしたSCMラベルを梱包単位で作成し、
これを商品に添付。 百貨店では荷受け時にS
CMラベルを専用端末でスキャンし、ASN
と照合することで検品を済ませる。
この新しいビジネスモデルは、納品代行業
者のビジネスにとってプラス面とマイナス面
を持っている。
まずマイナス面としては、これまで納品代
行業者が手掛けてきた検品や値札付けなどの
作業が省略されるケースが出てくることだ。
長い間の慣行として百貨店は、納品代行業
者との間で「立会い(相対)検品」を実施し
てきた。 これは納品代行業者が取引先から集
荷した商品を、百貨店が店舗の最寄りに設け
た納品用のセンターに納める際、納品代行業
者と、センターを運営する百貨店の子会社と
が対面して行う検品作業を指す。 梱包を解い
た納品代行業者が伝票を見ながら一点ずつ目
視で検品を行い、これを百貨店側が確認しな
がら伝票に受領印を押すというものだ。
新モデルでは「ASN/SCMシステム」
によって情報システムを利用して検品を行う
ため、この立会い検品は不要になる。 実際、三越が化粧品に導入したSCMシステム「S
PEED」では、流通の中間段階で重複する
検品が省略されている。
また、「値札レス」による運用も新モデル
の目玉の一つだが、ここでも納品代行業者の
従来の業務が減ることになる。 百貨店の専用
値札を廃止する代わりに、取引先のブランド
タグにJANを製造段階で付記し、これによ
って取引先は商品管理のオペレーションを行
う。 また百貨店の側では、EDIで交換した
商品マスターから、JANをキーに必要な情
報を取り込んで売り場管理を行う。
百貨店が取引先と新しいビジネスモデルを
構築する狙いは、こうした「伝票レス」や
「検品レス」、「値札レス」などによる業務の
効率化にあり、この面で納品代行業者の業務
の縮小は免れない。 もっとも、このEDIを
前提とする取引形態には、百貨店の取引先が
すべて対応できるわけではない。 従ってこの
ビジネスフローに必要な機能を誰かが代行し
なければならない。 そこに納品代行業者にと
ってのビジネスチャンスがある。
取引先とのEDIを仲介
東京納品代行は、納品代行とそれに伴う付
帯業務だけでなく、一部のメーカー・卸から
は物流センターでの商品管理も請け負ってい
る。 八〇社を超える企業から在庫管理や出荷
業務など商品管理全般を受託しており、これ
を納品代行に次ぐ事業の柱と位置づけている。
今後、百貨店調達システムのIT化が進めば、
情報管理を含めたアウトソーシングの傾向が
ますます強まると同社は見ている。
このため、東京納品代行ではこれまで受け
皿となる情報システムなどの整備を進めてき
物の流れ
情報の流れ
消 費 者
店舗管理
システム
・入庫
・在庫
・売上
・履歴照会
・帳票発行
・移動(返品)
・顧客管理
営業支援
店舗支援システム
店舗ストック品
自動出荷システム
受注自動配分システム
物 流 基 幹 シ ス テ ム
伝票発行システム
・統一仕入伝票
・チェーンストア伝票
・専用伝票(個別対応)
・搬入搬出伝票
在庫管理システム
・仕入
・出庫(ピッキング、配分)
・出荷
・棚卸
・照会(履歴、在庫)
・業務帳票発行
・管理帳票発行
無線
ハンディー
ターミナル
システム
・入庫
・ピッキング
・出庫
・棚卸
タグ発行システム
・百貨店タグ
・メーカータグ
移動
指示
売上
EOS
発注
移動
返品
棚卸
MD支援
受発注システム
受注とりまとめ
受注残管理
発注とりまとめ
発注残管理
仕入
納品
返品
受注
納品
発注
仕入
東京納品代行が運用する情報システム「ALTS」(Apparel Logistics Total system)の概要
海外生産拠点 国内生産拠点
百 貨 店
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た。 例えば、物流センターなどでの在庫管理
に提供している「WMS(ウエアハウス・マ
ネジメント・システム)」で、百貨店向けの
ASNを作成できるようにしている。
前述のとおり、百貨店の新たな調達モデル
では、メーカー・卸が出荷検品をする際にA
SNを作成して百貨店に送るという業務フロ
ーが新たに加わる。 この場合、あらかじめブ
ランドタグに付記されたJANをスキャンし
ながら検品を行うことで、検品とASN作成
を同時に処理することができる。 同社でもW
MSで管理する情報をもとに検品時にASN
を作成し、ASNとひも付けしたSCMラベ
ルを添付して出荷できる体制を整えてきた。
メーカー・卸のなかには、商品の在庫管理
などは自社で手掛けながら、JANを印字し
た値札を作成して取り付ける流通加工業務だ
けを東京納品代行に委託している顧客もいる。
こうしたケースでは同社は、値札の作成・取
り付けと同時に検品をすませて、ASNを作
成するサービスを新たに提供してきた。
さらに東京納品代行が、これから百貨店の
調達に不可欠のインフラと考えているのが、
百貨店と取引先のEDIを仲介する機能だ。
「値札レス」のビジネスモデルでは、専用値
札を廃止する代わりに、JANをキーに百貨
店の売り場管理に必要な情報と取引先の商品
情報とを読み替える(コードレファレンス)
必要がある。 その手段となるのがEDIだ。
しかし、百貨店が数千もの取引先すべてと個
別にEDIを構築するのは効率が悪すぎる。
そこで東京納品代行は、この機能を?商品
(物)と商品情報を一対で管理できる〞立場
にある納品代行業者が担うのが最も合理的と
考えた。 同社が百貨店と取引先それぞれの商
品マスターをもち、これにJANを付番して
実際の在庫管理まで行う。 そうすればコード
レファレンスサービスが可能になる。
しかも同社ではこうして管理する情報をも
とに、JAN値札の作成や、スキャン検品を
行い、同時にASNを作成することもできる。
VAN会社などではなく同社がEDIの仲介
役となることで、まさしくリアルタイムで商
品と商品情報を管理できることになる。
検品と同時に作成されるASNは、百貨店
にとっての仕入れ情報となり、この情報によ
って百貨店の在庫も確定する。 これを百貨店
各社のフォーマットで提供するサービスを東
京納品代行では提案してきた。 最近では百貨
店の検品システムが三越の「SPEED」や
伊勢丹の「IQRS」のような汎用性の高い
ものに収束しつつあるため、対応しやすくな
っている。 従来から一部の限定した顧客に対
しては提供してきたサービスだが、今後は汎
用的なサービスメニューの一つに加えること
を検討している。
「指定納品代行制」も追い風に
東京納品代行にとっては、百貨店で調達ル
ートの見直しが進んでいることも追い風だ。
今年、大丸、高島屋などの百貨店が相次いで
「指定納品代行制」を導入した。 いずれも、百
貨店の指定する納品代行業者が取引先から商
品を集荷した後、百貨店のセンターを経由せ
ず店に直接納品する方式に変更することでリ
ードタイムの短縮を狙っている。
この方式では検品がセンターではなく納品
代行業者の拠点で行われる。 百貨店側から見
ると、調達業務のアウトソーシングというこ
とになる。 東京納品代行もすでに複数の百貨
店から指定を受けており、今後、ASN/S
CMシステムの運用、仕入れ情報の提供など
を提案していくのに有利な環境が整いつつあ
るといえる。
一方、同社では納品側であるメーカー・卸
むけのサービスも強化している。 客注商品の
店間移動サービスがその一つだ。 同社は東京
地区以外に、支社・支店開設や業務提携な
どで札幌・仙台・名古屋・大阪・広島・福
岡の六大都市の百貨店への配送をカバーして
きた。 今年からこの輸送ネットワークのエリ
アを広げて店間移動サービスを強化している。
百貨店の調達物流の見直しによって、今後
は百貨店とその取引先の双方で、物流業務の
アウトソーシングが加速すると予想される。
東京納品代行では両方の受け皿となるため、
情報システムと物流網の構築を着々と進めて
きた。 同時に新モデルによって派生する新た
なビジネスの可能性も模索している。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
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