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APRIL 2005 46
グローバルなサプライチェーン管理の重要
性が高まっている。 今や、物流マンにとって
国際物流に関する知識は、日々のオペレーシ
ョンを円滑に進めていくうえでも欠かせない
要素の一つになっている。 本連載では輸出入
業務と密接に関係する海運を取り巻く環境の
変化などについて専門家に詳しく解説しても
らう。
(本誌編集部)
構造不況業種の一つに挙げられていた外航
海運業の業績が急回復しています。 各社とも
史上最高の利益を上げ、「一〇〇〇億円クラ
ブ」への仲間入りを果した企業もあります。
中国の活発な経済活動と、それに伴う資源輸
入や工業製品輸出という旺盛な荷動きが業績
の改善を後押ししています。
日本の外航海運業は一九八〇年代以降の
急激な円高と、世界的な政治・経済の大きな
変化の中で国際競争力を失いました。 その結
果、構造不況業種に指定されましたが、八七
年には緊急雇用対策という名目で業界あげて
のリストラを断行するなど徹底した構造改革
に取り組んできました。
今日の好業績はこうした構造改革と、中国
経済の拡大による海運市況の好調という二つ
の要因が重なった結果、もたらされたもので
す。 本稿ではそのうち中国経済の拡大が海運
業の業績にどのように影響しているのか。 そ
の点に絞って話を進めていこうと思います。
資源の輸出国から輸入国に
第一に、経済の拡大によってエネルギーや
鉄鋼の国内需要が急増した結果、それまで石
油や鉄鉱石、石炭などの資源輸出国であった中国が輸入国になったことが挙げられます。
つまり中国向けの原油、鉄鉱石といった資源
の輸送需要が急激に増加したことが海運市況
を押し上げているわけです。
国内需要を賄うため、中国の粗鋼生産は急
増しました。 長い間、粗鋼生産量の世界一は
日本でしたが、九六年にはその座を中国に奪
われました。 中国の粗鋼生産量はその後も増
え続け、二〇〇四年には全世界に占める割合
が二五%に達しています。 それでも二〇〇八
年には北京オリンピック、二〇一〇年には上
海万博が控えていることもあって旺盛な国内
需要を満すまでには至らず、輸入も増加の一
途を辿っています。
日本は鉄鉱石の多くをオーストラリアから、
原油のほとんどを中東から輸入しています。
これに対して中国は鉄鉱石をブラジルやイン
ドから、石油を西アフリカから調達していま
す。 中国は輸送距離の掛かる国や地域から輸
入している分、同じ量を輸入するにしても日
本に比べ多くの船舶が必要になります。
例えば、オーストラリアのダンピアから上
海に鉄鉱石を運ぶ場合、その距離は三一〇〇
マイルです。 一方、ブラジルのツバロンから
上海に輸送する距離は一万一〇〇〇マイル。
およそ三・五倍となります。 つまりブラジル
から運ぶ場合は三・五倍の船舶が必要になる
のです。
中国向けの輸送で使用する船舶は足りない
状態が続いています。 これを補うため、海運
会社は船舶の新造や大型化を進めています。
従来、日本の鉄鉱石専用船は二三万トン型が
中心でしたが、最近は三〇万トン型の発注が
相次いでいます。 しかしそれでも間に合わな
い。 世界の造船所は数年先まで船台が埋まっ
ている状態です。 中国の輸送ニーズの高まり
は海運業界だけでなく、造船会社や製鉄会社
の業績にも恩恵をもたらしています。
しかし外航海運業にとって中国の世界経済
や資源需給への影響はプラス面だけなく、マ
イナス面もあります。 船舶建造コストや傭船
料は上昇し、さらにコンテナは不足していま
す。 燃料油も高騰しました。 輸送需要が拡大している一方で、コストアップ要因も発生し
ています。
世界最大の海運ユーザーに
第二に、中国が「世界の工場」となり、米
国や日本を中心とした先進国向けに輸出を拡
大し、その結果、主要定期航路の船腹供給が
荷動きの増加に追いつけず、運賃が上昇して
いることが挙げられます。 ちなみに中国が世
界一の生産シェアを持つものを拾ってみると、
バイク(シェア五〇%)、テレビ(同三七%)、
カメラ(同六九%)、電話機(四五%)、冷蔵
中国経済の恩恵を受ける海運業
《第1回》
国際物流の基礎知識
商船三井 森隆行
営業調査室主任研究員
47 APRIL 2005
庫(一七%)、洗濯機(二五%)などがあり
ます(丸紅経済研究所調べ)。
こうした状況を受けて今日、主要航路にお
けるコンテナ輸送は中国が中心となりました。
かつて太平洋航路は日本と米国のトレードで
したが、現在ではアジアと米国のトレードと
なり、しかもその中心は中国です。
例えば、二〇〇三年の太平洋航路の米国向
け輸送は、中国+香港のシェアが六五%を占
めています。 日本はわずか八%にすぎません。
欧州航路についても同様のことが言えます。
コンテナ取扱量をみても、世界第一位が香港、
第三位が上海、第四位が深
と、中国の港
が上位をほぼ独占しています。
二〇〇四年の取扱量は香港が二一九三万
TEU(二十フィートコンテナ換算)、上海
が一四五五万TEU、深
は一三六二万T
EU。 これに対して日本は全部合わせても一
四五〇万TEUです(二〇〇三年実績)。 い
まや完全にコンテナ荷動きの軸足は中国に移ったと言えるでしょう。
二〇〇二年半ば以降、太平洋航路と欧州
航路は中国貨物を中心に荷動きが堅調に推移
しています。 昨年の実績も前年比プラスで、
荷動きは右肩上がりが続いています。 需要の
急伸に対して船腹供給が追いつかず、貨物船
のスペースはタイトな状態にあります。 昨年
秋に発生した米国のロサンゼルス、ロングビ
ーチ港での船混みは、中国の貨物量の急増が
一因に挙げられています。
アジア発米国向けのコンテナ貨物は二〇〇
四年に前年比一七%増という大幅な伸びを記
録しました。 アジア発欧州向けのコンテナ貨
物も一七%程度の増加となった模様です。 さ
らに二〇〇五年も主要航路では二ケタの伸び
が見込まれています。
貿易額は米国を逆転
第三に、中国が日本にとって最大の貿易相
手国となったことが挙げられます。 二〇〇四
年に日本の対中貿易額は輸出入ともに過去最
高を記録し、ついに米国を抜きました。 香港
を含む中国からの輸入額は一〇兆二一二一億
円、輸出額は十一兆八二七八億円。 合計で
二二兆二〇〇五億円に達しました。 対中貿易
額は日本の貿易額全体の二〇・一%を占めて
います。 これに対して米国からの輸入額は六
兆九六一五億円、輸出額は十三兆七二〇五
億円、合計で二〇兆四七九五億円でした。
対中貿易が拡大した結果、日中間のコンテ
ナ輸送量も大幅に増加しました。 二〇〇四年、
日中間のコンテナ輸送量は前年比四六・七%
増の二六一万TEUでした。 九八年から六年
連続で二ケタの伸びを示しています。 輸送量
の内訳は輸出が七八万TEU(前年比五七%
増)、輸入が一八三万TEU(同四三%増)
でした。
中国からのコンテナ貨物輸出量は日欧米の
主要国以外の地域への割合も着実に増加して
います。 コンテナ貨物輸出量全体に占める中
国の割合はアフリカ七・
三%、オセアニア一
三・七%、南米二〇・九%などとなっていま
す。 南米については九五年の時点で三・六% でしたから、驚異的な伸びです。 このように
中国は太平洋航路、欧州航路などの主要航路
以外でもコンテナ需要を押し上げています。
このように中国経済の拡大で、世界の貿易
構造は大きく変わりました。 これに伴い、海
運市場も中国に重心が移りつつあります。 こ
うした動きに対し外航海運会社は迅速に対応
しました。 自身の構造改革によって収益構造
を見直し、国際競争力を取り戻したところに、
中国経済の拡大という追い風が吹いて市況が
好転。 過去最高の業績を記録することになっ
たのです。
図3 北米航路・国別構成(1998年対2003年)
データ:商船三井営業調査室
24%
8%
14%
49%
12%
7%
18%
65%
8%
5%
14%
42%
8%
12%
14%
15%
11%
12%
28%
34%
2003年 2003年
1998年 1998年
日本
中国+香港 台湾 韓国 ASEAN
もり・たかゆき 1975年大阪商船三井船
舶入社。 97年MOL Distribution GmbH
社長、2001年丸和運輸機関海外事業本部
長、2004年1月より現職。 主な著書は
「外航海運概論」(成山堂)、「外航海運の
ABC」(成山堂)、「外航海運とコンテナ輸
送」(鳥影社)など。 日本海運経済学会、日
本物流学会、ILT(英)等会員。 青山学
院大学、長崎県立大学等非常勤講師
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