ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年12号
特集
日本の3PL トップ同士で物流戦略を練り上げる

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2003 26 主従関係を超越する 今年十一月上旬、味噌・豆乳などを扱う加工食品 メーカーのマルサンアイ(本社・愛知県岡崎市)と、 第一貨物(本社・山形県山形市)は「パフォーマン ス発表会」を開いた。
両社がパートナーを組んで、昨 年九月に物流体制の見直しに着手してから一年以上 が経過した。
これまでにどのような成果を上げること ができたのか。
現状のオペレーションに問題点はない か、などを確認し合うのが目的だ。
会合にはプロジェクトに関係する両社の役員や現場 担当者はもちろん、マルサンアイの下村釟爾社長、そ して第一貨物の武藤幸規社長も出席した。
こうして 荷主企業と物流企業の経営トップ同士が膝を突き合 わせて議論を交わすことは、欧米の3PLビジネスで はさほど珍しいことではない。
しかし、日本ではあま り例がない。
両社には一切遠慮はない。
会合では意見や要望を 激しくぶつけ合う。
マルサンアイは第一貨物に対して 物流品質やコストのさらなる改善を要求する。
一方、 第一貨物からも「もしも当社に物流を委託していなけ れば、ここまでコスト削減は進まなかったはず。
業績 に対する当社の貢献度は高い。
きちんと評価してもら いたい」といった主張が飛び出す。
その光景からは両社が「仕事を与える側」と「仕事 をもらう側」という主従関係を超越し、互いをパート ナーとして認めていることが窺える。
「マルサンアイさんは下村社長以下、役員から現場 社員の方まで今回の3PLプロジェクトに対して非常 に理解がある。
我々が必要とするデータをすべて提供 してくれた。
物流のパートナーとして位置付けてもら っているため、とても仕事が進めやすい」と第一貨物 昨年9月、マルサンアイは物流体制を刷新した。
物流子会 社を親会社に吸収。
さらに物流センターの運営や顧客企業へ の商品配送など物流の実務部分の管理を3PLに丸投げする ことにした。
老舗の特別積み合わせ業者として知られる第一 貨物がパートナーだ。
(刈屋大輔) トップ同士で物流戦略を練り上げる の成沢拓也営業第二部係長は説明する。
第一貨物と二人三脚で物流改善に取り組んできた 結果、マルサンアイはこの一年で顧客企業に対する物 流のサービスレベル、そしてコストの面で大きな成果 を上げることができた。
誤配、納期遅れ、破損など商 品供給に関連するトラブルの発生件数は激減した。
さ らに支払い物流費を従来に比べ五%削減することにも 成功したという。
マルサンアイの鈴木治夫管理本部経営管理部長は 「第一貨物の3PLサービスには非常に満足している。
配送品質、コストともに申し分ない。
当社の得意先か らも物流に関して高い評価をもらえるようになった。
たった一年でここまで改善を進められたことに正直驚 いている」と評価する。
顧客に迫られた物流改革 第一貨物とのプロジェクトがスタートするまで、物 流センターの運営や顧客企業への商品配送など物流 の実務を管理していたのは物流子会社の「マルサン商 事」だった。
同社は四〇年ほど前に設立された歴史の ある子会社だ。
ただし、貨物運送の事業免許こそ持っ ていたものの、トラックの保有台数は四〜五台程度に すぎなかった。
実運送業者というよりも、親会社に代 わって実運送業者と運賃や料金などを折衝する物流 管理会社という色合いが濃かった。
そのためマルサン商事には物流オペレーション自体 のノウハウが乏しかった。
それでも大きな支障はなか った。
取引先は物流レベルに大きな関心を寄せてはい なかった。
ところが、商売相手が味噌の専門問屋から 食品総合卸に。
さらに納品先として新たに小売業の 物流センターが加わるなど、その後、取引環境は大き く変化した。
これに伴い物流のサービスに対する取引 マルサンアイ&第一貨物 日本の3PL 成功事例に学ぶ上手な活用法 特集 27 DECEMBER 2003 先の要求は次第に厳しくなっていった。
他の加工食品メーカーと比較して決して低いとは言 えない物流コストの水準も無視できなくなってきた。
味噌や豆乳といったマルサンアイの主力商品はもとも と物流費の負担力が小さい。
それに追い打ちを掛ける かのようにバブル崩壊以降、市場では低価格競争が激 化。
取引先からの値下げ要請が相次いだ。
既存の物 流体制にメスを入れるほかなかった。
物流改革の気運が高まったのは二〇〇二年の春頃 だった。
物流管理を3PL業者に一括してアウトソ ーシングするという案が社内で持ち上がった。
このア イデアをかつて物流に携わった経験のある下村社長に 打診した。
すぐに社長からは「物流は物流のプロに任 せたほうがいい」とゴーサイン が出たという。
これを受けて 早速、従来から配送業務など を通じて付き合いのあった物 流企業十数社にコンペへの参 加を呼び掛けた。
第一貨物は、そのうちの一 社だった。
同社はもともとマ ルサンアイから東日本地区の 商品配送の一部を任されてい た。
しかし、その内容は単純 な輸送業務の委託であり、マ ルサンアイにとって第一貨物 は数ある協力運送会社の一つ にすぎなかった。
昨年五月に開かれた一次コ ンペを突破して二次コンペに 駒を進めたのは四社だった。
こ の四社からの提案はいずれも 甲乙つけ難いほどハイレベルな内容だったという。
最 終的には第一貨物を委託先に選んだ理由を、マルサン アイの川村政一物流管理室長は「他の提案では情報 システムや物流センターのマテハンなどへ大きな投資 が必要だとされた。
しかし当社にはあまりコストを掛 けずにプロジェクトを進めたいという気持ちがあった。
第一貨物さんの提案は当社の身の丈にピッタリと合っ た内容だった」と説明する。
第一貨物に与えられた準備期間は約四カ月間と極 端に短かった。
3PLでは委託先が決まってから新体 制への移行までに半年から一年、長い場合では一年 半から二年の歳月を費やすのが一般的だ。
これに対し て、マルサンアイが短期間でのカットオーバーを求め たのは同社の決算月が九月下旬で、新年度に突入す るのに合わせて新しい物流体制をスタートさせたいと いう思惑があったためだ。
第一貨物の葛西徹マルサンアイ物流センター長は 「受託決定後すぐに物流現場の現状把握に取り掛かった。
マルサンアイさんの情報システムと当社の情報シ ステムの摺り合わせ、新しい作業マニュアルの作成な ど細かい調整を済ませて、九月上旬には新物流体制 のテスト運用を始めた。
与えられた期間は四カ月間に 限られていたので準備作業を急ピッチで進めた」と当 時を振り返る。
マルサンアイの厳しい要請に第一貨物が応えること ができたのは、それまでに3PL事業の蓄積があった からだ。
同社は九〇年代初めに「システム営業」とい う呼称で3PL事業に乗り出して以降、これまでに数 多くの事例を立ち上げてきた。
家電量販店のヤマダ電機、化粧品のノエビア、建 築関連製品やオフィス製品などを扱う住友スリーエム などとの取り組みが広く知られている。
現在、受託し マルサンアイの川村政一 物流管理室長 会社名 場所 取り扱い商品 運用形態 第一貨物が受注した主な3PL案件 トステムビバ ヤマダ電機 呉工業 リョービ ノエビア 住友スリーエム タブチ TDK物流 でん六 大日精化工業 山本製作所 パレモ マルサンアイ 福島県郡山市 宮城県柴田郡 埼玉県熊谷市 兵庫県加古川市 福岡県福岡市 北海道札幌市 愛知県名古屋市 宮城県仙台市 栃木県小山市 東京都足立区 栃木県鹿沼市 神奈川県愛甲郡 山形県東根市 大阪府大阪市 鹿児島県鹿児島市 秋田県象潟市 千葉県松戸市 山形県山形市 東京都足立区 埼玉県川口市 山形県天童市 東京都江東区 愛知県岡崎市 雑貨 家電 工業用油 ゴルフ・ダイカスト 化粧品 テープ・反射材他 分水詮 テープ他 食品 インキ・着色料 農機具 婦人用衣料 味噌・豆乳 通過型物流センター 通過型物流センター (一部保管型) 保管型物流センター 保管型物流センター 保管型物流センター 保管型物流センター (一部通過型) 輸送元請け 輸送元請け 輸送元請け 輸送元請け 配車センター 輸送元請け 配車センター 通過型物流センター 輸送元請け 配車センター (保管型物流センター) 注)各種資料を基に本誌が作成 DECEMBER 2003 28 ている3PLは大型案件だけでも二〇社を超えている (二七ページ表参照)。
その結果、同社には様々なパタ ーンの3PLノウハウが蓄積された。
それらを駆使す ることで、クライアントのどんな要請にも柔軟に対応 できるようになったという。
「提案から物流現場の実態調査、情報システムの作 り込みなど準備に掛かる期間もたくさん経験を積むこ とで徐々に短縮できるようになっている。
立ち上げま でのスピードの速さも当社の3PL事業での武器の一 つになりつつある」と第一貨物の細谷博樹営業第二 部次長は説明する。
ゲインシェアリングに理解 マルサンアイの物流は新体制移行後も出荷〜納品 までの作業フローに大きな変更点はなかった。
物流子 会社のマルサン商事を親会社に吸収。
代わってマルサ ンアイと実運送会社を結ぶポジションに第一貨物が入 っただけだ。
第一貨物はマルサン商事と同様、実運送 会社の管理などマルサンアイの物流業務全体をコント ロールする役回りを演じている。
作業フローはこうだ。
まず本社工場で生産した商品 をいったん工場倉庫(物流センター)のラック、自動 倉庫にそれぞれ格納する。
顧客企業からの受注締め切 り時間は午前十一時。
出荷作業は正午にスタートす る。
ピッキング、方面別仕分けなど荷揃えがすべて終 了するのは午後五時半。
その後、地域性や物量に合 わせてチャーター便、路線便、共同配送便、常用便 (ルート配送)を使い分けて商品を得意先に届けてい る。
一ケース単位で動くネット通販向け商品が一部ある が、大半は中ロット、もしくはパレット単位で処理す る。
典型的なメーカー物流だ。
マルサンアイがカバー するのはラックや自動倉庫に商品を格納するまで。
第 一貨物は工場倉庫でのピッキング作業以降の物流工 程をすべて管理している(写真参照)。
センターオペレーションでの大きな改善点は、出荷 量の波動に合わせて最適な作業人員を配置できるよう になったことだ。
従来、マルサンアイの工場倉庫で作 業に従事していたのは正社員がほとんどだった。
その ため流動的な勤務体系が組めず、コストが高い水準で 固定化してしまっていた。
これに対して、第一貨物は 作業員のパートタイマー化を実現。
それによってオペ レーションコストの大幅削減に成功したという。
マルサンアイと第一貨物の3PL事例でもっとも注 目に値するのは、両社が「ゲインシェアリング(成果 配分)」契約を交わしている点だ。
ゲインシェアリン グとはプロジェクトを通じて達成したコスト削減効果 を業務委託側が総取りするのでなく、両社できちんと 配分(シェア)するというルール。
欧米の3PLでは 一般的だが、日本ではほとんど浸透していない契約形 態だ。
この仕組みの導入を持ちかけたのは第一貨物側だっ た。
今回だけではない。
同社はこれまでもクライアン トと3PLの契約を交わす際には必ず、ゲインシェア リングの重要性を訴え続けている。
どちらか一方が得 をしたり、損をするようでは協力関係が長続きしない。
改善に向けた意欲も湧かない。
ゲインシェアリングは 継続的に成果を上げていくためには欠かせない仕組み であると確信しているからだ。
日本ではこうした3PL業者からのゲインシェアリ ングに関連する提案に難色を示す企業が少なくない。
ところが、マルサンアイは違った。
ゲインシェアリン グに対しても一定の理解があった。
会社としてのコス ト削減目標額さえ達成できれば、3PL業者に何ら 物流センターでは出荷量に応じ た最適な作業員配置を実現した 日本の3PL 成功事例に学ぶ上手な活用法 特集 29 DECEMBER 2003 かのインセンティブを与えても問題はないという姿勢 だった。
両社が締結しているゲインシェアリング契約の具体 的な中身はオープンになっていない。
しかし、「もち ろん当社にもきちんとメリットがもたらされる条件に 設定されている。
契約内容はパフォーマンス発表会な どの場で毎年修正を加える取り決めになっている。
こ の点についてもマルサンアイさんからご理解をいただ いている」と第一貨物の細谷博樹営業第二部次長は 説明する。
委託範囲の拡大を検討中 冒頭で紹介したパフォーマンス発表会で両社の首脳 が最後に話し合ったテーマは「今後の物流体制につい て」だった。
実は両社にとって今回の取り組みはあく までも通過点にすぎない。
早くも来春には再び物流体 制の見直しに着手する計画だ。
さらにマルサンアイで は第一貨物に業務委託する範囲を拡げていくことも検 討しているという。
来年四月、マルサンアイは北関東に生産工場を新 設する。
健康志向で空前のブームが到来している豆乳 製品の需要拡大に対応することが主な目的だ。
同社 は今夏、受注量の急激な伸びで生産が追いつかず、小 売りの店頭で一部豆乳製品の欠品を発生させてしま った。
東西二カ所に生産拠点を用意することには生産 能力の引き上げとともに、リスク分散という意味合い もある。
これに伴い、物流体制も「本社工場→全国の 得意先」から「二工場→全国の得意先」に改める計 画だ。
「首都圏という大消費地の近くに生産拠点と物流セン ターを設けることで、得意先に対するサービスレベル はさらに高まる。
やはり本社工場一カ所から全国に向 けて商品を供給するという体制にはリードタイムなど の面で無理がある。
最低でも東西に二カ所物流センタ ーは必要だと思う」とマルサンアイの鈴木部長は説明 する。
販売物流だけでなく、調達物流にも目を向け始めた。
すでに飲料関係のOEM工場から本社工場までの商 品の横持ち輸送や、資材ベンダー〜本社工場間の輸 送の一部を第一貨物に任せている。
今後はさらに領域 を拡げ、生産ライン投入前に発生する調達物流全体 のコントロールも委ねるという案も浮上している。
物流面だけではない。
マルサンアイでは今後数年以 内に受注センターの運営を第一貨物に移管することも 視野に入れているという。
現在、得意先からの注文を 全国の支店・営業所で受けた後、本社に集約する体 制を敷いている。
これを全国をカバーする受注センタ ーに一本化。
営業部門から物流部門への情報の流れ をシンプルにして迅速な受注処理を実現しようという 狙いだ。
マルサンアイがこうして委託範囲の拡大に前向きな のは、第一貨物にとって嬉しい話だ。
業務範囲が広が れば、その分コスト削減のネタ探しも容易になるから だ。
「例えば物流センターでの出荷作業の部分だけで コスト削減の余地を探すことにはどうしても限界があ る。
タッチできる部分がたくさんないと毎年成果を上 げていくのは難しくなる」と第一貨物の細谷次長も期 待する。
ただし、第一貨物がマルサンアイの懐にさらに奥深 く食い込んでいくためには高いハードルをクリアしな ければならない。
マルサンアイでは三年後に現在に比 べ物流コストを一〇%削減するというノルマを第一貨 物に課している。
この目標の達成が将来の委託領域の 拡大に向けた絶対条件だという。
マルサンアイは東西二カ所に 物流センターを設置する計画

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