ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年12号
特集
日本の3PL 返品検査まで含むセンター運営を委託

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2003 30 商物分離と「自主運営」の限界 「リーガルさんの物流は正直いって難しい。
流通に 近いところに位置しているため、問屋にまとめて納め めるというのが一切なくて、膨大な数のSKUを基本 的に人手でバラピッキングしなければならない。
歴史 の長い業界だけに独特の商慣習も多い。
ここでの物流 を完璧にこなせれば、他は何でもできるのではないか と思うくらい勉強になる」 革靴製造販売で最大手、リーガル・コーポレーショ ン(リーガル)向け3PL事業の営業窓口を務める、 日立物流・ロジスティクスソリューション統括本部の 中島学部長補佐はこう説明する。
確かに数ある物流 センターのなかでも、事前の入荷段階ではバーコード すら添付されていない七万SKUもの製品を扱ってい るところなど、そうそう他ではお目にかかれない。
一〇〇年以上の社歴を誇るリーガル(創業時は日 本製靴)は、老舗らしい保守的な面と、過去の節々 で大胆な経営判断を下してきたしたたかな面とを併せ 持つ企業だ。
高度成長期の一九六一年に「リーガル」 ブランドを持つ米ブラウン社と契約し、これを受ける 形で六七年には全国各地に一〇〇%出資の販売子会 社を設立。
松下電器産業や花王といった企業と同様 に、流通の垂直統合を図って実績を重ねた。
さらに七三年には「リーガルシューズ」という名称 で靴専門店のフランチャイズ展開をスタート。
販社の 持つ強い営業力と、FCの活動を通じて、ブランドイ メージを確立した。
九〇年になると米ブラウン社から 「リーガル」の商標権を取得し、社名も日本製靴から 現在のリーガル・コーポレーションへと改めた。
製造業者として事業をスタートした同社だが、現在 では販売業者としての顔が前面に出つつある。
実際、 革靴の製造販売最大手のリーガル・コーポレーションは、 最近5年間で物流管理を大きく変えた。
分散していた物流拠 点を集約し、自社で運営していた物流管理業務を、返品の検 査まで含めて日立物流などの3PLパートナーに全面的に委託。
物流管理体制の刷新によって、多額のコスト削減に成功した。
(岡山宏之) 返品検査まで含むセンター運営を委託 取り扱っている製品のうち、国内五カ所のグループ工 場で製造している比率は二五%程度で、残りはすべて 国内の協力工場などから調達している。
これを全国十 二の販売会社を通じて百貨店や靴専門店などに直接、 納めるのが、同社の流通業者としての役割だ。
現在のリーガルの販売チャネルは、売上ベースでお およそ三割強が百貨店、フランチャイズ関係が三割弱、 他に量販チェーンと靴専門店がそれぞれ二割程度ある。
原則として全て販社を通じて製品を供給している。
八〇年代までの同社は「商物一体」だった。
自社 の営業所や販売会社のなかに商品在庫を持ち、そこか ら先は営業マンがデリバリーするか、路線便を使って 顧客に製品を届ける。
その後、ビジネスの規模が拡大 し、このオペレーションで対応しきれなくなると、そ れぞれの販社は地場の倉庫業者などを利用して在庫 拠点を設置し、自ら物流現場を管理する「自主運営」 体制を敷いた。
だが九〇年頃になると方針を転換。
「商物分離」に 踏み切った。
各地の在庫拠点を本社が直接管理する 体制に切り替え、販社をデリバリー業務から解放して 営業活動に専念させた。
そして九八年。
新たに組織し た物流改革プロジェクトで、今度は物流業務を全面 的にアウトソーシングする方針を打ち出した。
「予定コスト」を下回ることが契約条件 九二年に物流部門に配属されて以来、同社の物流 効率化をリードしてきた幸島達夫物流部長は、九八 年当時の物流改革の狙いを次のように振り返る。
「課 題はコスト削減だった。
ここで言うコストには配送業 者などに支払う『物流コスト』と『管理コスト』の二 種類があるが、この両方の削減が必要だった」 物流改革プロジェクトがコスト削減のために掲げた リーガル・コーポレーション&日立物流 日本の3PL 成功事例に学ぶ上手な活用法 特集 31 DECEMBER 2003 目標は二つあった。
「物流管理体制のスリム化」と「ロ ーコスト物流システムの構築」である。
顧客に提供す る従来のサービス水準を維持・向上させることを大前 提としながら、そのうえで大幅なコスト削減を達成す ることがプロジェクトに求められた。
このとき幸島部長は、目的を達成するためには物流 の全面的なアウトソーシングしか手はないとすぐに判 断した。
そう考えた根拠の一つは、靴の物流管理の難 しさだった。
前述した通り、リーガルが倉庫で在庫し ている製品のSKUは約七万にも上る。
同社は「リー ガル」以外にも多くのブランドを持っており、紳士靴 だけでなく婦人靴、子供靴、安全靴まで革靴であれば 何でも扱っている。
色違いまで考えると品番だけでも 一万を超え、さらにこれをサイズ展開すると右記のよ うな膨大な数になる。
しかも靴の入っている化粧箱はいずれも似たよう な形状なのに、基本的にバーコード類は添付されて いない。
在庫管理やピッキング作業には現場作業員 の熟練したスキルが欠かせず、このことが過去には同 社の物流管理の自前主義と、高コストの一因にもな っていた。
この物流コストを大幅に削減するとなると、 リーガル社内のノウハウだけでは限界がある。
物流の プロに任せたほうがいい。
それが幸島部長の考えだっ た。
しかし、長い年月を経て培われてきた自前主義の社 風は、そう簡単には変わらなかった。
大きな方針転換 だっただけに関係者の説得にかなりの時間を要した。
最終的には取締役会に出席し、経営陣を相手にプレ ゼンテーションを行ってOKが出たことで、ようやく アウトソーシングを具体化する条件が整った。
プロジェクトは、物流アウトソーシングのパートナ ーを選定する段階へと入った。
ただし物流コンペは一 切開かなかった。
できれば既存の協力物流業者に任せ たいという意向の表れでもあった。
結局、リーガルは 既存の事業者以外には、日頃から売り込みなどで接 触のあった物流業者だけに声をかけた。
パートナー候補の物流業者に提出した要件書には 次の五つを挙げた。
?「一元管理できる」、?「情報 システムを持っていて自己開発もできる」、?「設備 機器投資ができる」、?「物量の波動に対応できる仕 組みを持っている」、?「(リーガルに対する)営業支 援機能を持っている」――。
このすべてを満たすこと がアウトソーシングを委託する最低条件だった。
別途、コスト削減の目標値も最初から「予定コス ト」として提示した。
アウトソーシング後の年間物流 コストの総額、対売上高物流費比率、また一足当た りの物流単価などだ。
つまり、前記五つの要件と「予 定コスト」の枠内で業務を運営することがパートナー に求められた条件だった。
「予定コスト」を設定するにあたって、リーガル側に明確な根拠があったわけではない。
「ベンチマーク もしていないし、世間でどれくらいの物流コストがか かっているかも知らない。
だから、どれくらいに設定 したらいいのかも分からなかった。
我々がこれくらい にしたいという希望的観測や期待値までを含む数値を 提示した」(幸島部長) 物流拠点の数や、在庫水準に関する目標には一切 触れなかった。
一般的な物流コンペでは、機能の重複 する複数の物流拠点を一カ所に絞り込むなどして、そ の物流拠点の新たな運営パートナーを募るといったケ ースが多い。
これに対してリーガルは、もっと広い意 味で販売物流全体の最適化を任せられるパートナーを 求めていた。
ただし拠点の集約などは、それなりに条 件が整わなければできない。
当面、重視すべきは、た 全部で7万SKUもある商品の外箱 はほとんど同じ センター内では靴の流通に関する広 範な業務を手掛けている 日立物流は入荷時に全製品にバーコ ードシールを添付している このシールが手作業では不可能だっ た作業精度を実現した DECEMBER 2003 32 とえ既存の施設を使ってでも、自ら管理するより格段 に低コストで運営できる外部業者の能力だった。
在庫は物流部のテーマではない 提示された条件をクリアしたのは、日立物流と日東 ロジスティクス(旧日東倉庫)の二社だけだった。
他 の大手物流業者のなかには、五つの要件は満たせるが、 最終的に「予定コスト」では運営できないと撤退して しまった事業者もいた。
「予定コスト」で示された金 額が、それだけ厳しい内容だったことが窺える。
結局、この二社がリーガルの3PLパートナーとし て採用された。
一社に絞り込まなかったのは競争原理 を働かせたいという考えからだった。
日東ロジには百 貨店向けの業務を任せた。
そのための専用物流センタ ーの運営は既に九九年七月から始まっている。
そして 百貨店以外の販売チャネルについては、センター運営 から配送業者の管理までを一貫して日立物流に任せ ることを決めた。
このとき百貨店チャネルだけ別扱いしたのには理由 があった。
リーガルにとって百貨店は最大のチャネル であり相応の物量がある。
また百貨店向けの業務は、 同社の販売チャネルのなかでは手間はかかるが比較的、 標準化しやすいという特徴を持つ。
指定伝票や値札 付けに加えて、一様に納品代行業者を利用するといっ た共通点がある。
同社の販売体制も百貨店だけは専 用販社だ。
そのため物流も基本的には「百貨店」と 「それ以外」で分けたほうが得策と判断した。
また地域的には北海道、東日本、西日本の三ブロ ックに物流ネットワークを分けた。
このうち市場規模 の限られる北海道だけは、あえて販売チャネルを一本 化して管理する。
一方、本州以南については、「百貨 店」と「それ以外」のチャネルを東西二拠点体制を基 本としながら管理していく方針を据えた。
具体的な拠点数については、重複拠点を減らす目 標は持っていたが、すぐに極小化しようという意志は なかった。
当面は以前と比べてサービスレベルが維 持・向上されて、なおかつ予定していたコスト削減さ え実現できればいい。
むしろ長い付き合いのある倉庫 業者などとの契約や関係維持に心を砕いていた。
拠点 集約によるコスト削減効果がいくら大きくとも、さま ざまな条件をクリアできないのであれば強行はしない。
このため日立物流が二〇〇〇年十一月にリーガル の業務を開始したときにも、施設そのものは既存の倉 庫でスタートした。
施設の賃貸契約の満了後に日立 物流の物件に移ることまで決まっていたが、まずは既 存のリーガルの倉庫に、WMS(倉庫管理システム) や人材をそのまま持ち込んで運営することが求められ た。
実際に日立物流が新設した拠点に移動したのは、 約一年後の二〇〇一年末のことだ。
その意味でリーガルが九八年から取り組んできた物 流改革は、二〇〇二年一月に日立物流が千葉県沼南 町に構えるセンターに移ったことでようやく本格稼働 したと言える。
この時点での物流拠点の数は、北海道 のエリア拠点一つと、本州以西では「百貨店」と「そ れ以外」のチャネルごとに東西二カ所の拠点を持った ため計五カ所。
このうち「百貨店」向けの二カ所を日 東ロジが、残りを日立物流が運営するという役割分担 だった。
拠点集約には一定のメドが立った。
しかし拠点集約 後も、在庫水準が以前に比べて激減したわけではなか った。
この物流改革でリーガルが目的としていたのは、 あくまでも管理コストの削減と、ローコストで運営で きる仕組みの構築だった。
リーガルの幸島部長も「(九 八年から取り組んだ)物流改革において在庫はメーン 日立物流・ロジスティク スソリューション統括本 部の中島学部長補佐 日立物流・柏営業部の 松本竜行沼南出張所長 日本の3PL 成功事例に学ぶ上手な活用法 特集 33 DECEMBER 2003 テーマではなかった」と言い切る。
具体的な数字としては多少在庫も減ったが、それは 意図したものではなく副次的な効果に過ぎない。
そこ は次のステップとして位置づけている。
「会社にとっ て在庫問題は非常に大きな課題だ。
物流部としては 『営業支援機能』を通じて、営業に在庫管理の改善を うながしていく必要がある。
だからこそ今回のパート ナー選びの要件でもこうした能力をパートナーシップ の条件に加えていた」(幸島部長) 返品の見極め作業まで3PLに委託 一連の物流改革で、リーガルは大きな成果を手にし た。
コスト削減額は非公開だが、対売上高物流費比 率を約二ポイント改善できたという。
その一方で、3PLパートナーの日立物流は苦戦を 続けている。
二〇〇〇年十一月にリーガルのセンター に仕組みと人材を持ち込んで業務を開始した当初は、 膨大な製品の取扱と、不慣れの靴業界の商慣習に苦 しめられた。
最も大きな失敗は、日立物流の拠点に移 ったときに行ったロケーションの変更だった。
「リーガルさんの拠点でやっていたときには、ブラン ド別にロケーションを管理していた。
そこで約一年間 作業をするなかで、我々は製品ごとの出荷頻度を洗い 出し、新センターに移るときには出荷頻度別のロケー ションに変えた。
だが実際には、ほとんどのピッキン グが一つのブランドで完結していたため、かえって生 産性は落ちた。
結局、また元の状態に戻さざるをえな かった」と日立物流の沼南出張所で現場管理を担う 松本竜行所長は説明する。
試行錯誤を繰り返しながらも徐々に生産性を高め、 今年の夏前には何とか黒字転換できるメドがついた。
しかし、一息つく間もなく今年八月になるとリーガル はもう一段の物流再編を行った。
関東で百貨店向け に独立させて運営していた物流センターを、日立物流 の沼南センターに統合したのである。
これによって日立物流は、過去に経験のない百貨店 向けの値札付けや伝票処理を新たに手掛けることにな った。
その結果、取扱高は伸びたが、庫内作業の生産 性はまた落ちてしまった。
「新たな業務のために補強 した作業員の方たちが、百貨店向けの特殊な業務に 慣れるまでは、どうしても生産性は低くなってしまう」 と、同事業の収支を現場レベルで管理している日立物 流・柏営業部の田邊栄太郎部長補佐は明かす。
ただ苦労しながらも日立物流はこの案件を通じて多 くのことを学び続けている。
なかでも興味深いのは 「返品」の処理だ。
現在、センターの一画では、従来 はリーガルの社員が手掛けていた返品検査を代行して いる。
靴屋の店頭などで試着を繰り返され売り物にな らなくなった製品や、製造工程での不良品などを、日 立物流の従業員が見極めて選別している。
この選別作業の結果を受けて、製造工程の不良品 は工場に戻す。
流通工程での破損が見つかれば営業 部門へと報告する。
新品として通用するものは改めて 箱などを替えて庫内に在庫として戻す。
こうした判断 に加えて、返品処理のためのコンピュータへの金額の 入力までを一貫して手掛けている。
いまリーガルの案件を通じて日立物流は、靴の流通 に関連する大半の物流業務を経験している。
同社は 現在、3PLの延長線上にあるビジネスとして、業界 ごとのプラットフォーム事業を模索している。
そこで は個別企業のニーズだけでなく、業界全体の商習慣へ の対応力などを身に付けていることが問われる。
その 意味で業界最大手の企業との中身の濃い経験は、い ずれ同社にとって大きな財産になるはずだ。
百貨店向け納品業務に欠か せない「値札付け」の作業 返品処理では検査・選別か ら金額の入金処理まで担う

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