ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年1号
ケース
エフティ資生堂―― 拠点集約

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2002 50 化粧品事業からの独立 「同じ資生堂の事業でも、化粧品とトイレ タリーの物流はまったく違う。
化粧品は完全 に自社物流でピースピッキングまでする。
そ のために資生堂物流サービスという子会社も 作った。
一方、トイレタリーの物流は完全に アウトソーシング。
物量はケース単位で、ピ ースピッキングはすべて卸に任せている」 エフティ資生堂の竹内春近ロジスティクス 部長は、資生堂の化粧品とトイレタリー(日 用雑貨品)の物流管理の違いをこう説明する。
マーケティング手法という面でも、付加価値 の高い化粧品と、実用性が問われるトイレタ リーでは大きな差がある。
にもかかわらず同 社は従来、二つの事業を同じ資生堂ブランド の一部として扱ってきた。
このことはトイレタリー商品のイメージを 高める効果があった反面、経営管理の甘さに つながっていた。
日雑品の分野には、花王を 筆頭に、経営効率を高めることにかけては国 内でも有数の企業がひし めいている。
そんな中にあ って資生堂のトイレタリー 事業は、化粧品に次ぐ基 幹事業として一〇〇〇億 円近い売上高を持ちなが ら、営業利益率が低いた めに社内で?お荷物扱 い〞されてきた面があった。
日雑部門を分社化し独立採算へ 過剰在庫の削減が最大の課題 資生堂が構造改革を急いでいる。
2000年 4月には化粧品に次ぐ収益の柱だったトイ レタリー事業を分社化。
独立採算を明確に することで、従来から指摘され続けてきた トイレタリー事業の営業利益率の向上を狙 う。
物流強者がひしめく日雑分野で生き残 るために、非効率な物流体制にもメスを入 れた。
エフティ資生堂 ―― 拠点集約 「物流情報を基に生産を革新す る」とエフティ資生堂の竹内春 近ロジスティクス部長 を、エフティ資生堂の物流センターを経由して市場に供給している。
納品先は全物量の約八割が卸だ。
エフティ 資生堂の物流拠点でケース単位の仕分けを行 い、これをパルタックやダイカといった日雑 分野の卸が、小売りの要望に応じて店舗単位 やピース単位に仕分けるという役割分担にな っている。
分社化に先駆けて資生堂のトイレタリー事 業部では、ロジスティクスの管理組織の見直 しを進めてきた。
分社化が発表される約二カ 月前の九九年十二月、資生堂は事業部のなか に「ロジスティクス部」を新設した。
それまでは企画部の物流グループが、全国 九カ所の物流センターを運営管理していたの だが、物流戦略や企画などは手掛けていなか った。
これに対して新設されたロジスティク ス部では、センターの運用管理に加えて、需 要予測から生産調整までを一手に担う。
いわ ば、サプライチェーン・マネジメント(SC M)を立ち上げるための組織変更だった。
従来、需要予測や生産調整といった業務は、 久喜工場のなかの生産部門が手掛けていた。
しかし、複数のマーケティング担当者が直接、 工場の担当者に相談を持ちかけるという体制 では管理が煩雑になる一方だった。
このため、 「いったんロジスティクス部で調整してから生 産部門に持っていく機能を作った」(竹内部 長)。
さらに、従来は独立していた情報シス テム部門をロジスティクス部の管理下に移し、 51 JANUARY 2002 実際、化粧品事業の営業利益率が、ここ数 年のあいだ一〇%前後で推移してきたのに対 し、トイレタリー事業の利益率は一桁台の前 半で低迷していた。
そこで資生堂は二〇〇〇 年四月に「エフティ資生堂」を設立し、トイ レタリー事業を分社化した。
「独立したなか で採算が合うようにする」という狙いだった。
同年一〇月にはトイレタリー事業の営業権を 新会社に譲渡し、名実ともにエフティ資生堂 の歩みが始まった。
サプライチェーン管理機能の集約 同社は物量ベースで全体の八五%にのぼる 製品を、埼玉県の久喜工場で製造している。
他に四国にある関連会社の工場で生理用品を 作り、これ以外にも全国七カ所のOEM工場 で生産する商品がある。
こうして作った製品 SCMに取り組む体制を整えた。
全国九カ所の拠点を五カ所に集約 こうしてロジスティクス部門に権限を集中 する一方で、既存の物流拠点の見直しも進め てきた。
物流センターごとに発生する過剰在 庫や欠品、さらに無駄な横持ち輸送によるコ スト負担などが絶えなかったためだ。
九九年 の初めに、まずは全国を九つの物流センター (札幌、仙台、久喜工場内、東京二カ所、名 古屋、大阪、広島、九州)でカバーする体制 の問題点を洗い出すことから着手した。
この調査の結果、非効率の主因は、卸への 物流サービスレベルを高めるために設置した 全国九カ所という物流センターの数に問題が あると分かった。
実際、新製品の発売時の注 文に対してほとんど欠品を起こさないという 意味で、同社の卸に対するサービスレベルは 高かった。
しかし、このことが「例えば新製品を出す ときに、販売計画が一〇〇で実際に売れるの が八〇だと、残り二〇は在庫になる。
しかも 新製品というのはピークを超すと一気に売り 上げが落ちるため、返品で戻ってくる分も少 なくない。
それが売れ残ってしまうと、各物 流センターの在庫がだぶつくことになる」(竹 内部長)という事態につながっていた。
各物流センターが在庫を確保するときは、 卸からの注文に備えて引き当てるといった理 由がある。
だが刻々と変わる市場動向に合わ エフティ資生堂の業績 営業利益(千万円) 営業利益率(%) 1000 800 600 400 200 0 964 0.8% 0.3% 2.6% 4.0% 1.5% 993 989 916 746 114 368 262 30 74 8% 6% 4% 2% 0% 97年3月 98年3月 99年3月 00年3月 01年3月 営業利益率 売上高(億円) ※01年3月期の売上高が大幅に減ったのはリベート体  系を見直した影響 JANUARY 2002 52 せて、全国九カ所の在庫水準を適正レベルに 保つのは至難の業で、「情報システムを使っ ても簡単にできる話ではなかった」。
さらに従来の管理手法では、各センターの 過剰在庫の量にばらつきが生まれることも避 けられなかった。
これを解消するために、極 端なケースでは、北海道のセンターにある在 庫を、九州の顧客に送るという非効率が発生 していた。
全国レベルで在庫を管理できる体制の構築 が急務だった。
検討を重ねた結果、同社は卸 へのサービスレベルを落とさないことを前提 に、物流センターを全国五カ所に集約する道 を選んだ。
仙台、東京、名古屋の三拠点を閉 鎖して、新たな物流センターに集約する。
さ らに従来は配送センターの一つとして使って いた久喜工場内の倉庫には、全国の物流セン ターのバッファーとしての備蓄センター機能 を持たせることに決めた。
肝心の新センターには、久喜工場から約六 キロの近接地に日立物流が新設する倉庫を使 うことにした。
そして前述した通り二〇〇〇 年五月に、まず仙台と久喜工場の物流機能を 新センターに移管。
同年八月には名古屋の物 流機能を移管した。
東京に二カ所あったセン ターのうち一つも閉鎖し、その拠点が担って いた機能は、東京に残されたもう一つのセン ターと新センターに吸収させた。
五拠点体制が本格的に稼働してからすでに 一年以上が経過したが、拠点集約の成果は明 らかに出ている。
「拠点間の横持ち費用が減ったし、担当エリア外への出荷コストも大幅 に少なくなった。
年間三億円ぐらい削減でき た」と竹内部長は満足そうに語る。
受託業務を急拡大させた日立物流 今回の拠点集約で、センターの運営を担う 物流業者の顔ぶれはほとんど変わっていない。
存続した四センターについては、札幌(蔦井 倉庫)、東京(大成倉庫)、西宮(東罐倉庫)、 鳥栖(九州産交運輸)と、従来と同じ物流業 者を利用している。
唯一、新たに加わったの が、埼玉県加須市の新センターを運営する日 立物流だった。
拠点集約の要ともいえる加須センターを日 立物流に任せるにあたって、エフティ資生堂 は物流コンペを開催してはいない。
それでも、 「日立物流は最近、サードパーティ・ロジス ティクス(3PL)事業者として急成長して いる。
彼らと組むことで、今後の方向性も考 えていける」と竹内部長の信頼は厚い。
実は、資生堂が進めてきた一連の物流改革 のなかで、日立物流は重要な役割を担ってき た。
両社の付き合いがスタートしたのは約七 年前。
資生堂の久喜工場で、全国の物流セン ター向けに出る長距離チャーター便の入札を 行ったときに、一部のエリアで日立物流が採 用されたことがきっかけだった。
九六年には、久喜工場に併設していた物流 センターで、日立物流が提案した出荷検品の ための情報システムが採用された。
日立物流・営業開発部システムグループの高橋俊之 部長補佐は、「このときは日立物流ソフトウ エアと一緒に、いま加須センターで使ってい るのと同じハンディターミナルの仕組みを提 案した」と当時の様子を振り返る。
さらに九九年の初頭には、資生堂から相談 を受けるかたちで、日立物流が物流の問題点 を洗い出す作業を手伝った。
三カ月分の物流 データを基に、拠点配置や在庫管理の問題点 を約五カ月間かけて調査した。
前述したよう な拠点集約を資生堂が決断した背景には、こ のときの調査結果があったのである。
つまり、日立物流は、どの物流業者より資 生堂のニーズを理解できる立場にいた。
その ため資生堂が、久喜工場から一〇キロ以内に 日立物流が運営する加須物流センター 53 JANUARY 2002 拠点集約後に入居する新センターを探し始め たという話を知ると、一気に攻勢をかけた。
ちょうど当時、日立物流は、杏林製薬向け3 PL事業の受け皿として、埼玉県に物流セン ターを新設する計画を抱えていた(本誌二〇 〇一年五月ケーススタディ参照)。
この案件 を念頭に置きながら、久喜工場から六キロの 地点に新センターを建設するというプランを 資生堂に提案した。
それまでの経緯から、資生堂の求めるスペ ックについては知り尽くしていた。
さらには 久喜工場の出荷管理システムで培った経験を 踏まえて、センター内の在庫管理システムを 構築することも約束した。
資生堂向けならで はの工夫も提案に盛り込んだ。
「通常のセン ターでは上層階に荷物を運び上げる垂直搬送 機は、プラットフォームの中に置いてある。
これをグランドレベルに設置することで、い ちいちプラットフォームに仮置きしなくても、 トラックの荷台から直接、二階以上に送り込 めるようにした」(日立物流の高橋部長補佐)。
パレット単位の物流の効率化を図るための工 夫だった。
このような経緯があったため、資生堂は物流コンペを開くこともなく、日立物流に新セ ンターを任せることを決めた。
そして二〇〇 〇年四月の加須センターの竣工を待って、同 年五月から実際の集約業務に着手した。
日立 物流にとっては、七年越しで地道に実績を積 み上げてきた案件がようやく陽の目を見た。
物流情報を元に生産を革新する 九九年一二月にロジスティクス部のトップ に就任して以来、エフティ資生堂の竹内部長 は一連の物流改革を主導してきた。
すでに 「オペレーションの面では、卸への配送業務 の共同化を図ることぐらいしかやるべきこと は残されていない」と言う。
しかし、サプラ イチェーン・マネジメントという点での課題 は山積している。
最大の難問は、在庫水準の 適正化である。
需要予測や生産調整のための 権限を与えられたロジスティクス部には、「最 終的な在庫責任がある」と竹内部長は言う。
「在庫の問題というのは、あえて明確にし ようとしなければ誰も責任をとらない。
新た に開発をした製品が売れると思って生産し、 仮に半分しか売れなかったとする。
それで大 量の在庫が発生しても、開発部はまた次の商 品を作らなければならない。
そこは責任分担 をはっきりする必要がある。
新製品の需要予 測というのは簡単ではないが、我々が責任を 持って精度を高めていくしかない」 しかし、現在のエフティ資生堂には、多す ぎるアイテム数という在庫削減にとっては好 ましくない状況がある。
同社の主力製品であ るシャンプーだけみても、スーパーマイルド、 アクエア、シーブリーズなど五つのブランド がある。
ブランド数を増やすことで増収を確 保してきた結果、主力ブランドが分散してし まっている。
ロジスティクスの視点だけを考えれば、思 い切ってブランドを統廃合してしまえば管理 は容易になる。
しかし、エフティ資生堂の直 近の業績を考えると、そう単純な話ではない。
二〇〇一年九月中間期の同社の売上高は、商 品単価下落の影響もあって前期比十一%減っ た。
営業利益にいたっては三六億円の赤字に 陥ってしまった。
この状況にあって、そこそ こに売り上げを確保しているブランドの統廃 合に踏み切るのは現実的ではない。
竹内部長は生産の仕組みを革新することで、 現状を打破しようとしている。
「新製品を出 すとき、これまでの体制では一カ月前に計画 分を一〇〇%作っていた。
これを二〇日前に なっても、計画のだいたい五〇%しか作らな いようにする。
そして残りの二〇日間であと 五〇%を作れる体制を作る。
実需にひきつけ た生産というのは、ロジスティクスの視点が ないとできない。
物流情報を基に生産を革新 していく必要がある」と意気込む。
これはエ フティ資生堂が今後、花王のような物流強者 に対抗していく上で、避けて通ることのでき ない道でもある。
(岡山宏之) 「意志決定のための物流データ を提供する」と日立物流の高 橋俊之部長補佐

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