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「分化」がドライバーに
――今回は前号でも出てきた「シェアード・
サービス」について詳しく解説してもらおう
と思います。 「シェアード・サービス」は「ア
ダプティブ・モデル」を導入する上で、基本
となる手法の一つだそうですが、どうもよく
理解できない。 従来から物流はサービス部門
でしたが、それがシェアされるというのはどう
いう意味なのですか。
入江
それを説明するには、まず経済の基本
的なトレンドを理解する必要があります。 次
ページの図は私が一〇年ぐらい前に作ったも
のですが、私がこの連載で解説していること
は、全てこの図で描いた原則のもとに整理さ
れます。
――この図は何を言っているのですか。
入江 単体の会社で規模を追求する「規模の
経済モデル」から、社内で閉じずにサプライチ
ェーン全体で規模を追求していく経済モデル
へのシフトが、全ての産業において起こってい
るという事実です。 それを私は「サプライチェ
ーン統合の経済モデル」と名付けました。
「サプライチェーン統合の経済モデル」では、
一つの企業が全ての機能をカバーするという
ことがなくなります。 同じビジネス社会の中
で色々なサプライヤー、プロバイダーが、そ
れぞれ自分の強いところに特化して機能する。
そもそもサプライチェーンという言葉が出て
きた段階で、このモデルが前提になっている。
横文字嫌いのアナタのための
《第11回》
アングロサクソン経営入門
「物流子会社のモデルを変える」
FEBRUARY 2002 68
社内で全部のプロセスを抱えているならサプ
ライチェーンもないわけですから、当然とい
えば当然の話です。
――規模の経済モデルとは何が違ってくるの
ですか。
入江
「サプライチェーン統合の経済モデル」
では、最適な組み合わせによって、最終的な
消費者のニーズにあったモデルを構築するわ
けですから、企業の組み合わせを考えていく
ことがカギになります。 また、そこでは何が
ドライバーになっているかというと「分化」
です。
――文化?
入江
いや「分化」です
――「分化」というのは生物学の用語ですね。
いわゆる「分業」とは違うのですか。
入江
「分業」も「分化」の一つです。 従来、
生物学で「進化」と言われてきたものの本質が実は「分化」なんです。 現在、地球上には
数多くの「種」が存在しているけれど、その
起源となっているものはそう多くない。 シン
プルな「種」が枝分かれして、今日のような
様々な「種」のバリエーションを生んだわけ
です。
ただし、それは「種」が意志をもって能動
的に環境に適応しようとした結果ではありま
せん。 あらゆるモジュールの組み合わせが試
されて、そのうち環境に適応した「種」だけ
が生き残って繁栄したというのが実態です。
「分化」して淘汰された結果、生き残った「種」
と、従来の「種」を比較して「進化」と呼ん
入江仁之 キャップジェミニ・アーンスト&ヤング副社長VS 本誌編集部
日本の大手メーカーの事業構造改革が急を告げている。
物流子会社もその渦中に置かれている。 親会社に依存した
物流子会社を自立させるには「シェアード・サービス」と
呼ばれる手法が有効に機能する。
69 FEBRUARY 2002
入江
そうです。 いたるところで「分化」し、
淘汰され、生き残ることを許された組織同士
が、さらに組み合わせを模索する、という社会になった。 歴史的に見ると、株式会社制度
が誕生した時点では、一つの会社で全ての機
能を担うことが前提となっていた。 世の中に
アウトソーシングのサービスなど存在しなか
ったから、自分でやらざるを得なかった。
それでも従来は、サプライサイドだけでな
く、ニーズも「分化」していなかった。 一つ
の製品でマジョリティをとることができる時
代が長く続いた。 そうした時代には社内のオ
ペレーションのボリュームをできるだけ大き
くすることで、コストを削減して、品質を向
上するというアプローチが利益を生み出すの
に有効だった。
シェアード・サービスの基本論理
――それが「規模の経済モデル」ですね。
入江
ところがその後、需要が「分化」し、
サプライサイドも「分化」してきた。 多様な
需要に対し、自社内だけで対応することが難
しくなってきた。 当然、他社を使うことにな
る。 しかも、インターネットなどのITやア
ライアンスなどのツールが整備されてきたこ
とで、複数の企業があたかも一つの企業であ
るかのように機能することが可能になってき
た。 そこで他社との組み合わせが重要になっ
てくるのは当然の帰結です。
――つまり「分化」したもの同士が「コネク
でいる。 同じことがビジネスモデルにも当て
はまります。
――生物世界と同じように、ビジネス社会も
今日になって、そうした組み合わせを自由に
試すことのできる環境が整ったというわけで
すね。
ト」できるようになって「サプライチェーン統
合モデル」の時代になった。
入江
従来は社内に閉じていた会社が、そう
した時代の変化に対応しようとなると、自分
の強いところにフォーカスして、そのボリュ
ームをとることによってビジネスを成功させ
るという定石が見えてくる。 つまり弱いプロ
セスを捨てる代わりに、強いプロセスのボリ
ュームをとることによって、従来の規模を維
持し成長しようというアプローチです。
例えばメーカーの販社という立場であれば、
従来は親会社の商品だけしか売らなかったの
で、どうやって親会社の商品をたくさん売っ
て規模をとるかというスタンスでビジネスを
展開していた。 これに対して現在の販社は顧
客に向いていなければならない。 それぞれの
顧客の扱いのなかで、どれだけシェアをとるかがテーマになる。 そうなると販社は親会社
の商品だけでなく他社製品も扱うということ
が当然、起きてくる。
――物流子会社も同じですね。 顧客に対して
のシェアを高めていく。 つまり親会社の専属
物流という立場を改めて、小売りや流通業者
向けにフルラインの物流サービスを提供して
いく。
入江
サプライチェーン統合の時代には、サ
ービスの適用範囲を社内に閉じる必要は全然
ない。 物流という機能に特化して、サービス
の適用範囲を広げる。 それがシェアード・サ
ービスの基本論理です。 新たな時代を生き残
●サプライチェーン統合の経済
企業経営
規模の経済モデル
◆ビジネス・スピード
スピード向上により、注文対応
を受注後実施する。 この結果カ
スタム製品提供を行う
スピード向上/統合
●情報流
●商流
●物流
◆ビジネス・ネットワーク
外部組織と提携、利用すること
により、変動需要へのハイスピ
ードでの柔軟対応を行う
内部組織
外部組織
変動対応組織
サプライチェーン統合の経済モデル
不確実需要
消費者
消費者
物 流
生 産
設計開発
変動需要対応
販 売
販 売
物 流
生 産
設計開発
サプライチェーン経営
消費者
消費者
消費者
消費者
FEBRUARY 2002 70
入江
そうです。 次にそれを社内でやってい
ったほうがメリットのあるものと、社外のほ
うがよいものに分ける。 ――親会社から見ると物流子会社というのは、
既に社外に出されています。
入江
議論の結果、子会社と親会社を改めて
統合するという場合もありますが、そうでな
いなら今度はサービスの適用範囲を社内で閉
じるのではなく、アウトソーシング事業とし
て展開していく。 つまり外販です。 それを進
めて最終的には、MBO(マネジメント・バ
イ・アウト:子会社の経営陣による買収)や、
ベンチャーキャピタルの投資を受けて専業化
し、株式を公開するというのが一つの道筋で
す。 当社も日本でそうした取り組みを行って
います。
物流子会社の成功定石
――えっ。 コンサルティング会社が物流子会
社を買い取るの?
入江
そうです。 そうしたトランスフォーメ
ーション(企業転換)が現在では当社の本業
といってもいい。 これから間違いなく一番伸
びる分野です。 子会社をスタッフごと買収し
て、外部にサービスを提供できる形に組織を
変革していく。 当社が直接出資することもあ
るし、ベンチャーキャピタルからファイナン
スを受けて、株式を店頭公開できるところま
で当社がサポートするという形で携わるケー
スもある。 そこでメーンのターゲットとなっ
るためには、そうやって合理性を追求して利
益を確保しなくてはならない。
――しかし、物流子会社はもともと親会社の
ビジネスに特化したサービスの提供を目的と
してきたわけで、そのサービスが他社にも適
用できるとは限らない。 外部荷主と親会社の
ニーズは違う。
入江
それがニーズの「分化」だよね。 しか
し、物流子会社が現在、親会社に対して提供
しているサービスを改めて考えても、子会社
だけでニーズを満たせているわけではない。 実
態としては物流子会社が外部からサービスを
調達して親会社に提供している。 様々なサー
ビスを仕入れて、それを統合して親会社に提
供している。
――確かに物流という括りの中でも、プロセ
スは区分できる。 その区分された物流プロセ
スのなかで、どのプロセスを自分の会社が担
うのかを、物流子会社は戦略として決めなく
てはならないということですね。 そこでは物
流のプロセスをどう整理するかという点が大
事になりますね。
入江
そこがポイントの一つです。 物流子会
社の問題に限らず、アウトソーシングやシェ
アード・サービスでは、どこで境界線を切る
かというのがカギになる。 その会社の昔から
の区分に合わせてプロセスを切るのは不合理
です。 プロセスの定義自体があいまいだし、
昔の概念で境界を分けていますから。
――第一ステップはまずプロセスの整理。
ているのが情報技術、不動産・設備メンテナ
ンス、そして物流なんです。
――しかし、物流子会社の場合を考えると、
現実には難しそうだなあ。 店頭公開するには、
それだけの業績を残さなければいけない。 し
かし物流子会社の人件費は専業者と比較して
割高です。 競争に勝つのは容易じゃない。
入江
確かにそう簡単な話ではありません。
基本的な論理としては物流子会社をひとつで
はなく、いくつか統合する。 そしてオペレー
ションの効率を改善しながら、付加価値の高
い提案型機能を強化する。 最終的にはJOM
のような形のモデルを目指す。
――ひとつの物流子会社をそのまま上場まで
持っていこうとするのではない。
入江
違う。 従来の括りのまま外部に出すだ
けなら、社内に置いているのと全く変わらない。 そうではなく、集約してシェアする。 だ
からシェアード・サービスなんです。 サプラ
イチェーン統合のモデルとしては当然のこと
です。
――となると統合する子会社は基本的に同じ
業界の子会社であり、それを統合することで
業界の物流プラットフォームを作るという話
になりますね。
入江
そうです。 細かなセグメントごとにニ
ッチでも一番強いプラットフォームを作って
いく。 そのために子会社の弱いところは捨て
て、良いところだけをくっつける。 有名なゼ
ネラル・エレクトロニクス(GE)のナンバ
71 FEBRUARY 2002
模を拡大していくという制約が生まれますが、
だからといって失敗するとは限らない。
メーカーが最後に残すプロセスとは?
――生産を外に出す、物流も外に出す、情報
システムも外に出すということになってきて、
メーカーは最後に何を残そうとしているので
しょうか。
入江
日本の家電メーカーの場合でいえばブ
ランドマネジメントです。 利益の出ていると
ころがどこかを考える、ブランドマネジメン
ト以外は全部外に出すという結論になる。 ま
た家電以上にそれが顕著なのが自動車業界で
す。 世界のメジャーなメーカーはどこも「三
〜四年後には本業はブランドマネジメントに
なる」と言っています。
――ブランドマネジメントって何をやるので
すか。
入江
マーケットニーズに従って的確なコン
テキストとして製品ポートフォリオを決めて、
それを開発してマーケットに投入するという
一連のネットワーク全体をコントロールする。
つまりJOMを前提にして、ブランドの観点
から全てをコントロールする。 個別のモジュ
ラーの開発や生産に関しては、いわゆる「テ
ィア1」「ティア2」と呼ばれるサプライヤー
に依存するという形です。
――自動車業界でもトヨタは違うでしょ。
入江
確かにトヨタは他のグローバルメーカ
ーとは異質です。 トヨタは設計開発から量産
ー1、ナンバー2戦略もそうでしたよね。
――日本でも同じ業界同士で物流を共同化す
ればコストが下がるという話は従来からあり
ました。 しかし現実には親会社のメンツが先
にたち、ライバルとの共同化はほとんど進ん
でいません。
入江
日本ではそうした抵抗が強かったこと
は事実ですが、最近は変わってきたでしょ。 日
本企業もいよいよ行き詰まってきたから、や
らざるを得ない状況になっている。 家電メー
カーなどはEMSで生産まで外に出し始めた。
――同時に労務管理の問題も発生しています。
入江
確かに労務管理はアウトソーシングや
シェアード・サービスで重要になるもう一つ
の領域です。 労務管理の問題を考えないで済
むのなら、本来は人は引き取らずにサービス
だけ引き継ぐのが一番やりやすい。 本部スタ
ッフだけを置いて、後は派遣社員で構成すれ
ば従来通りにサービスを提供するだけでも利
益が出る。 派遣社員であれば人件費が長期的
に上がっていくこともない。 現在の環境では
むしろ下がっていく。 実際に物流ではありま
せんが、その手法で大成功を収めているケー
スはあります。
――しかし、日産の子会社のバンテックのケ
ースではMBOを実施したものの雇用には手
をつけなかった。 というより雇用に手をつけ
させないことがMBOの一つの動機になって
いる。 それだと人件費は削減できない。
入江
そうなると、雇用を維持するために規
に移行するところの「つなぎ」の部分にも自
信を持っている。 コア・コンピタンスとして
認識しているから、そこにフォーカスしてい
る。 その点ではGMやフォードとは違う。 し
かし、トヨタでも主要なパーツをサプライヤ
ーに依存する方向へのシフトは進んでいる。
――なるほど。 そう言われてみると、パソコ
ンメーカーなどは、既にブランドだけという
状態になっていますね。
入江
パソコンはもはや完全にブランドマネ
ジメントだけ。 マークだけですよね。 基本的
にブランドマネジメントというのはネットワ
ーク全体を統括するのに適したポジションな
んです。 その一方で、生産という視点からは
EMSのようなポジションがあり得る。
――EMSは逆に自分ではブランドを持たな
いわけですね。 入江
そうです。
――その理屈でいくと今後、日本では同じ業
界内の物流子会社同士の合併がいくつも出て
くることになる。
入江
出てきますよ。 当社にも話がどんどん
きている。 ただし、必ずしも合併という形に
なるとは限らない。 手順として、まずはサプ
ライチェーン統合の経済モデルを基本に考え
る。 その上でどういうツールを使うか。 アラ
イアンスにするのか、ジョイントベンチャー
にするのか。 持ち株会社か。 合併かと考えて
いくわけです。 必要なのは統合であって、法
人格の問題とはイコールではありません。
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