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FEBRUARY 2002 58
市場原理が生んだ解体事業者
今年の通常国会への提出が予定されている
「自動車リサイクル法(仮称)」の準備作業が
大詰めを迎えている。 実は自動車リサイクルに
関する正確な統計数字というのは世の中には
存在しない。 車両登録の抹消という公式記録
は残されているものの、登録抹消後の自動車
がどのように処理されているかまでは、誰も正
確には把握していない。
それでも一般的に、日本では年間約五〇〇
万台の自動車が廃棄されると言われている。 こ
のうち約四〇〇万台は国内で処理され、残り
の約一〇〇万台は輸出されているとされる。 国
内で処理している四〇〇万台は、全国に約五
〇〇〇社ある?自動車解体事業者〞によって
分解され、さらにシュレッダー事業者が破砕し
ている。 この過程で再利用できる中古部品や
鉄スクラップを回収するのだが、この回収品の
車両全体に占める重量比が、自動車リサイク
ルのレベルを示すリサイクル率である。
現状では、日本の自動車のリサイクル率は
車一台あたり約八〇%(重量ベース)で、残
り二〇%がシ
ュレッダーダ
ストとして最
終埋め立てに
回されている。
既にかなり高
いレベルにあ
自動車リサイクルで中古部品販売
解体事業者を組織して効率化狙う
2002年の通常国会への提出が予定されてい
る「自動車リサイクル法」の準備作業が大詰
めを迎えている。 家電リサイクル法を凌ぐ影
響を社会に及ぼすと目されている自動車リサ
イクル法だが、物流マーケットにはどのよう
な変化をもたらすのか。 日産自動車のリサイ
クルの取り組みを基に検証する。
日産自動車
―― エコ物流
日産自動車の海内昭リサイ
クル推進室課長
して採算が合った。 ところが再生品である鉄スクラップ相場の下落と、埋立処理など最終処
分のための支払いコストの上昇によって、現在
では排出者から処理費用を収受しなければ自
動車リサイクルは回らなくなっている。 市場原
理に任せたリサイクルが行き詰まってしまった
のである。
こうした状況を受けて、経済産業省は九七
年五月に産業構造審議会の答申などを受けて
「使用済み自動車リサイクル・イニシアティブ」
を策定した。 その骨子は、二〇一五年以後は
すべての使用済み自動車のリサイクル率を九
五%以上とする、そのために既存の処理ルート
の適正化と高度化を図る、というものだ。 これ
を受けた自動車業界も、日本自動車工業会が
中心になって自主行動計画を策定。 各社が個
別に目標実現に励むことを申し合わせた。
ここで掲げられたリサイクル率九五%という
目標値は、技術的にかなり高度なものだ。 これ
を達成するためには、従来はリサイクルの対象
ではなかったプラスチックやガラスの再利用を
推進することが欠かせない。 自動車メーカーと
しても、自らリサイクル技術の開発に本腰を入
れる必要が生じた。
そこで日産は九七年に、神奈川県の鉄スク
ラップ業者「啓愛社」とともに、自動車解体
の実証実験をスタートした。 この啓愛社という
会社は、日産との資本関係こそないが、同社
が極秘で開発した試作車のスクラップを任され
るほど信頼関係にある取引先である。 この実
59 FEBRUARY 2002
るといえる。 その上さらに国は、自動車リサイ
クル法を制定し、排出者やメーカーなどの責任
を明文化することによってリサイクル率を向上
させようとしている。
これまで、一定のレベルで自動車のリサイク
ルが機能してきたのは、自動車解体事業者の
担ってきた役割が大きかった。 日産自動車・
リサイクル推進室の海内昭課長は、「本来、廃
棄自動車の処理責任は販売会社にある。 しか
し、自分で処理することはできないため自動車
解体事業者に処理を委託してきた。 この仕組
みは自動車業界で自然発生的に生まれたもの
だが、最近では機
能しなくなってし
まった。 これを再
び上手く回そうと
いうのが自動車リ
サイクル法の狙い
の一つ」と説明す
る。
いわゆる?逆有
償化〞によって、
自動車解体業と
いう業態の存続そ
のものが危ぶまれ
ているのだ。 従来
は使用済み自動
車を有価物として
購入したうえで処
理しても、事業と
証実験を通じて日産は、使用済み自動車をい
かに効率よく分解し、洗浄するか、取り外した
中古部品の在庫管理をどうするか――といった
研究を行った。
さらに実証実験では、中小規模の自動車解
体事業者のリサイクル業務を円滑化するため
の設備や工具の研究も重ねた。 既存の解体事
業者は、リサイクルのために新たに技術開発を
するほどの経営体力を持ち合わせていない零細
企業が多いためだ。
現在、日産は、既存の自動車解体業者を組
織化することで、自動車リサイクルの高度化を
図ろうとしている。 自ら蓄積したリサイクル技
術をパートナーの自動車解体事業者に開示し、
彼らの技術力を高めることによって、企業の環
境対応という社会的な要請に応えるという戦
略である。
日産グリーンパーツ事業
直接、解体作業を手掛けたことで日産は、使
用済み自動車から取り外す中古部品の処理と
いう問題に直面した。 中古部品の再販までや
らなければリサイクル率を向上させることはで
きない。 そう考えた日産は、啓愛社の解体実
験場の横に敷地を借りて、中古部品の販売事
業をスタートした。 いわば中古部品を売るため
の?アンテナショップ〞を開業したのである。
この業務を担当したのは日産の国内部品営
業部だった。 このセクションの管轄下には全
国に三二の部品販売会社があり、従来ここで
使用済み自動車リサイクルの現状
販売会社・中古車業者
自動車解体事業者
シュレッダー業者
(ボデーを破砕し鉄を回収)
産業廃棄物処理業者
最終埋立処分
20〜25%
リサイクル業者
(非鉄金属などを回収)
素材リサイクル
50〜55%
中古部品販売業者
海外へ輸出
年間
500
万台
国内処理
年間
400
万台
(実態は不明)
部品リユース
20〜30%
自動車ユーザー
100万台
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は新品の補修部品を全国の車両整備工場や修
理業者に供給していた。 神奈川県の相模原に
ある大型物流センターを中核拠点として、全
国へ部品を送り届けている。 全国の部品販売
会社が、物流面では地域デポの機能を担って
いる。
日産は、これまでも「リビルト部品」と呼ば
れる一部の部品群を、中古部品として販売し
てきた。 エンジンやトランスミッションなど比
較的構造の複雑な部品を、日産が消耗品など
を交換した上でテストし、品質保証を付けて
再販している。
これに対して、新たに販売を開始した中古
部品は「リユース部品」と呼ばれる。 リビルト
部品と違って単純なものが多く、使用済み自
動車の解体作業で取り出したあとは、洗浄と
研磨などの手間だけで再販できる。 リビルト部
品のように厳密な製品テストも必要ない。
リユース部品の販売は、日産にとって初めて
の試みだった。 日産の国内部品営業部、リサ
イクル・流通グループの小林俊一郎課長は、「従
来、この部分には我々はノータッチだった。 だ
が、リサイクル率を向上させるためには、再生
部品を売るところまで手掛けなければ意味がな
い」とリユース部品の販売に乗り出した経緯を
説明する。
実証実験の約一年間をかけて、リユース部
品を販売するための知識を蓄積した。 使用済
み自動車から中古部品を取り外して再商品化
する技術だけでなく、価格設定をどうすべきか、
商品として在庫管理をどうするのか――といった一連のノウハウをマニュアル化し、リサイク
ルの知識の吸収に取り組んだ。
実証実験での経験を踏まえて、日産のリユ
ース部品販売の取り組みは次のステップに入っ
た。 地域の部品販売会社が自らリユース部品
を販売する「グリーンパーツ事業」を本格的に
スタートしたのである。 部品販売会社は、協力
解体事業者から自動車リサイクルにともなって
発生するリユース部品を仕入れて、在庫し、顧
客からの注文に応じて出荷する。
すでに現在では全国三二社の部品販売会社
のうち、一三社がリユース部品の販売を手掛
けている。 リユース部品を扱う販社を絞り込
んだのには理由があった。 「グリーンパーツ事
業は部品販売会社が主体になってやっている
わけではない。 本社主導で協力解体事業者の
情報を管理しながらやっている。 やみくもに
数を増やすことはできなかった」(小林課長)
のだ。
リユース部品の販売価格は、日産が独自に
作成した料金テーブルで決める。 縦軸に部品
名、横軸に品質レベルを表示したマトリクス状
の価格一覧表で、部品の程度に従って価格を
設定できるようになっている。 一般的な販売価
格帯は新品の三割から五割程度。 既存の中古
パーツ業者が仲間内で設定している値段とほ
ぼ同じ水準だという。 すでに年間約四億円の
売り上げを計上するまでに成長している。
グリーンパーツ事業を本格化した当初は、日
産がリユース部品の販売に参入することに反
発する自動車解体事業者もいた。 解体事業者
なかには自ら分解して取り外した中古パーツを
販売している事業者もいて、自分達の商売を
侵食されることを警戒したのである。
これに対して小林課長は、「我々は長年、日
産の部品販売を担ってきた。 そのため我々の
顧客には、全国の車両整備工場がほぼ一〇〇%、
名を連ねている。 解体事業者が取り出した部
品を、当社の販路で売る。 この関係は互いに
有利な点が多い。 こうした点を理解してくれる
解体事業者と組んでいる」という。
自動車リサイクルの物流
こうして自動車リサイクル法への対応が本
格化することで、日産の物流にどのような影
響を及ぼすのだろうか。 結論から言ってしま
うと、影響はほとんど出ない。 とくに既存の
自動車解体事業者と組んでリサイクルを進め
ている日産の場合は、物流面での新たな取り
組みはほとんどなかった。 グリーンパーツ事業
についても、部品営業部の既存の販売ネット
ワークに相乗りしているに過ぎない。 この点
は、リサイクルの法制化によって新たな回収
物流マーケットが誕生した家電リサイクルと
は大きく異なる。
あえて日産のグリーンパーツ事業ならではの
物流の取り組みを挙げるとすれば、「各地の部
品販売会社から直接、顧客のもとに宅配便で
発送するケースが増えている」(国内部品営業
部の羽根田元樹上級主事)点だろう。 またリ
ユース部品の輸送では、近距離ではコスト節
約のために無梱包で運び、長距離でも新品で
使った梱包材を再利用するという工夫は施し
ている。 そのため物流業者に求められるスキル
は若干変わったが、既存業者に対応しきれな
いほどの変化は起こっていない。
もっとも、すでに動脈分野で強固な物流ネ
ットワークを持ってい
る日産のような会社と
は違って、自動車解
体事業者がリユース部
品の販売に新規参入
する場合には、物流の
効率化は重要なポイン
トになる。
解体事業者は従来、
物流業務の多くを自
家配送でまかなってき
た。 自動車販売会社
などから使用済み自動車の回収依頼があると、みずからレッカー車やウインチ付きの車両で出
向き、車両を回収する。 そして解体後には、鉄
スクラップや中古部品を自ら、もしくは取引先
の車両を利用して、買い手の元へと搬入して
いるケースが多い。
埼玉県比企郡に本社を置く鉄スクラップ業
者のメタルリサイクルでは、使用済み自動車の
解体から部品販売を0一貫して手掛けている。
日産との付き合いも深い同社のELV事業部
の若尾鋭一事業部長は、解体事業者の物流業
務を次のように説明する。 「使用済み車両の回
収には、それなりの専門知識がいる。 エンジン
のかからない車を移動するための装備や知恵は
解体事業者のノウハウの一つ。 この部分では
物流業者の助けは期待していない」
ただし、同社が数年前から独自に手掛けて
いる中古部品の販売事業となると、物流改善
の余地は大きいという。 日産のような既存の配
送インフラを持っていないため、現状では新た
に契約した宅配業者に任せている。 だが物量
がまとまらない上に、フロントガラスやボンネ
ットのように荷姿が特殊なものが多いため、宅
配業者に支払う運賃が管理コストの多くを占
めている状況なのだという。
今後、自動車リサイクルの進展にともなって
中古部品の市場が拡大していけば、同社のよ
うな解体事業者は物流をアウトソーシングする
可能性が高い。 実際、メタルリサイクルは、「倉
庫でのリユース部品の保管から梱包、発送処
理までを一貫して物流業者に任せられないかを
検討している」と若尾事業部長は明かす。
日産が自動車リサイクル法に対応していく
ためには、自動車解体事業の近代産業への脱
皮が欠かせない。 彼らが手掛けるリユース部品
販売の収益力を高めることは、企業体力の向
上に直結する。 その意味で、解体事業者が手
を焼いている物流の効率化は、自動車リサイ
クル法にとっても重要な要因になるのかもしれ
ない。
(岡山宏之)
61 FEBRUARY 2002
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