ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年2号
物流再入門
IT物流の基礎知識

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2002 78 IT物流こそが 本来の物流の姿 二〇〇〇年の九月に『手にとるようにIT物流 がわかる本』(かんき出版)という本を出した。
こ こで使った?IT物流〞という言葉は、その後、類 似の本が出たり、NHK教育テレビの「金曜フォ ーラム」で使われたりして、徐々に定着してきて いるようだ。
私は、この言葉を時流に乗って使っ たわけでは決してない。
20 世紀型の古い物流と明 確に区分するための命名であり、実はこれこそが 保守本流の物流だという自負がある。
「IT物流」の本を書いたとき、ある雑誌の書評 欄で「この本はきわものであるが、ただのきわもの ではない。
超きわものである」と紹介されたことが ある。
書評内容は高い評価をいただいていたので、 この言葉は褒め言葉と受け取ったが、書評者の心 の内には「IT革命」などで当時、ブームの感を 呈していた「IT」という言葉を安易に使ったこ とに対して批判的な気持ちがあったのであろう。
も ちろん、その気持ちはよくわかる。
ただ、私としては?ITをベースにした物流〞とい う意味のIT物流は、これまでの物流とは異質とい っていいくらいの違いがあるという思いから、その 違いを強調するためにIT物流という言葉を使った のである。
むしろIT物流こそが本来あるべき物流 だという思いがある。
決して「きわもの」ではない。
情報を使えないために、多くの無駄を強いられ てきた従来の物流は、本来の物流の姿ではない。
I Tによって、これらの無駄を徹底的に排除したも のこそが本来の物流なのである。
IT物流という のは、このような意味を持っている。
IT物流とは「ITをベースにした物流」であ ると言ったが、こう言うとよく「ITを使うと物 流はどうなるのか」とか「ITを使うとどんなよい ことがあるのか」という質問を受ける。
どう答えよ うかといつも悩むところであるが、率直に言わせて もらえば、このような質問は本末転倒である。
こ のような質問をする発想ではITなど使えない。
ITは、道具であり手段である。
何かの目的を 実現するために使うものである。
何か「こうした い」という思いがあり、そこにITを使えないかと いう発想こそが必要なのである。
つまり、ITを 活用する目的が明確でないならばITは使えない のである。
このことを逆に言えば、これまで情報が使えな いために、「本来やりたいができなかったことが、で きるようになる」のである。
さらに言えば、こうし たいという思いや本来やりたいことを明確に持っ ていなければ、ITの活用などできないということ である。
ITに限らないが、問題意識のないとこ ろに進歩はない。
さて、このように考えれば、IT活用の本質が 明らかになる。
これまで物流を管理するにあたっ て必要な時点で必要な情報を使えないという状況 があった。
これを「情報制約」と呼ぶとすると、こ の情報制約を打破するところにIT活用の本質が ある。
言葉を換えれば「情報共有」が可能になる 点に本質があるわけである。
その意味では、ITをベースにした物流は、よ り正確に言えば「インターネット技術をベースに した物流」ということができる。
ご存知のように、 「IT物流の基礎知識」 湯浅和夫 日通総合研究所 常務取締役 第11回 IT物流とは“ITをベースにした物流”を意味する。
そ れはこれまでの物流とは根本的に異なる。
IT物流こそが 本来あるべき物流である。
ただし、ITは道具に過ぎない。
問題意識に基づいて活用しなければ何の効果も得られない。
常日頃から問題意識を持ち続けることが、IT物流のポイ ントになる。
79 FEBRUARY 2002 インターネットは、情報のやりとりが簡単に、しか も安価でできる。
この技術を使うことで、企業間 はもちろん、企業内でも情報のやりとり、つまり 情報共有が簡単にできるようになる。
この情報共 有が可能になることで物流はこれまでと違ったス テージに上がることができるのである。
IT活用は常に 業務改革を伴う 最近、ITバブルの崩壊などと言われているが、 ITを活用する立場からすれば関係のない話であ る。
ITの活用はまだ始まったばかりであり、こ れからがIT活用の本番である。
ただ、ここで注意を要するのは、ITを活用す るということは業務自体を変革することを意味す るという点である。
情報制約を打破すれば、情報 制約を前提にしていた業務は崩壊する。
だからこ そ、大きな効果が期待できるのである。
たとえば、パソコンがいくら高性能化しようと も、それを単体で使っている限り、業務の効率化 の範疇を出ることはできない。
パソコンに業務を 変革する力はない。
ところが、パソコン同士をネ ットワークでつなぐことができると事態は一変する。
パソコンを結んだネットワークは業務そのものを変 革する力を生むのである。
場合によってはその業 務を無くしてしまうことになる。
つまり、パソコン の単体活用はIT活用の範疇には入らないという ことである。
ここがポイントである。
IT物流の一つの典型的な例をみてみよう。
これまで、多くの企業では出荷や在庫に関する 情報をどこかの部門で集中的に、しかもリアルタイ ムに近い形で把握することができなかったという実態がある。
そのため、全国に複数ある物流センター に在庫の補充をする場合、当てにならない販売計 画や都合、思惑、見込みなどによって必要と思わ れる在庫を移動させていたのである。
その結果、需 要とのギャップが生じ、欠品や在庫過剰などの多く の無駄が発生してしまうことはご存知の通りである。
情報制約が強いる無駄の典型である。
出荷・在庫情報が常時使える形で把握できるな ら、その情報をベースに在庫を移動させればよい。
そのためには、物流センターの出荷・在庫に関す る情報を本社で一元管理し、在庫移動の指示を出 せる体制が必要となる。
すなわち社内の情報共有 体制の構築である。
このように社内での情報共有ができれば、本来移 動させる必要のない在庫を動かすという無駄を回避 できる。
さらに、この情報を生産部門でも共有でき れば、生産のアクセルやブレーキを適宜踏むことが できる。
逆に情報が使えなければ、すべて見込みでやる しかないため、需要とのギャップが生じることは避 けがたい。
情報制約は、このような形で無駄を強 いるのである。
情報共有は、必要のない輸送や保 管はやらないという本来の物流の姿を現実のもの にする。
これがIT物流のねらいである。
いま在庫動向についてのIT活用の話をしたが、 もし「在庫にかかわる情報制約が大きな無駄を生 んでいる」という認識がなかったとしたら、ここで ITを活用しようなどとは考えない。
つまり、I Tの活用には、常日頃から「こうすれば、こうな るのに」という問題意識が必要なのである。
「こう FEBRUARY 2002 80 すれば」というところでITが活用できれば、「こ うなる」という望む結果を得ることができる。
I Tの効果を実感として理解できるはずだ。
いまやっている物流が当たり前で、その効率化 だけを考えればよいという発想ではITを有効な 形で活用することはできない。
「ITを使えば」で はなく、「ここにITを使えないか」というアプロ ーチがポイントである。
何度も言うように、常日 頃からの問題意識の存在がIT活用の成否を分け ることになる。
日頃の問題意識が IT活用の成否分ける たとえば、宅配便などの貨物追跡システムは、い ま宅配会社のホームページに入ることで、消費者 みずから見ることができる。
こうした仕組みができ る以前は、消費者からの問い合わせを電話で受け て、調べて回答していたのである。
人手も必要だ し、時間もかかる。
ここで、消費者から問い合わ せがあるのは当たり前だと考えれば、その回答作 業をいかに効率的に行うかを考えるということに 止まる。
これを消費者に直接情報を提供してしま えば問い合わせがなくなると考えれば、そこでI T活用への道が開けるのである。
このように、問題意識の持ち方でIT活用の有 効性は変わってくる。
IT活用においては「はじめ に問題意識ありき」がすべてを制するといってよい。
道路状況やトラックの位置に関する情報も同じ である。
トラックの有効活用にとってそれらの情報 がどのような効果を発揮するのか、企業経営的に どのような意味を持つのかということを日常的に問 題意識として持っていることがポイントになる。
「道路状況が事前につかめるとこうなる」、「トラ ックの位置情報が常時把握できればこんなことが できる」などというIT企業のカタログみたいなこ とを知らされて導入しても、決して効果ある形で は使えないだろう。
結局は他人事だからである。
I T活用がうまく行かない原因の一つにこのような 問題意識の欠如があることは明らかである。
ところで、ITは情報制約が強いる無駄をなく すと言ってきたが、その最大の無駄とは何であろ うか。
恐らく、その最大のものは?企業間の壁〞 と言ってよい。
先ほど、在庫情報が共有できれば、それに合わ せて在庫の移動をすることで、必要ないものを移 動させる無駄が省けると言ったが、情報共有の効 果はそれに留まらない。
たとえば、メーカーが問屋と出荷情報の共有体 制を構築できたとしたら、問屋の物流センターか らの出荷動向をメーカーは常時把握できることに なる。
このことは何を意味するかというと、問屋 の物流センターが、あたかもメーカーの物流センタ ーと同じ位置付けになるのである。
メーカーは、自社の物流センターと同じように、 問屋の物流センターに必要な在庫を移動させるこ とができるようになる。
問屋から注文など受けず に、送り込むことができるのである。
これはサプラ イチェーン・マネジメント(SCM)への第一歩 でもある。
いかがであろうか。
情報共有のすごさがここにあ る。
情報共有はあらゆる壁を排除する。
これをベー スに物流を行おうというのがIT物流なのである。
湯浅和夫(ゆあさ・かずお) 1971年早稲田大学大学院修士課程修 了。
同年、日通総合研究所入社。
現在、 同社常務取締役。
著書に『手にとるよう にIT物流がわかる本』(かんき出版)、 『Eビジネス時代のロジスティクス戦略』 (日刊工業新聞社)、『物流マネジメント 革命』(ビジネス社)ほか多数。

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