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MARCH 2002 12
ITベンチャーの相次ぐ撤退
昨年十二月、ソフトバンクは物流eマーケットプレ
イス「ロジスティクス・オンライン」を運営するバー
ティカルネットの解散を発表した。 バーティカルネッ
トは二〇〇〇年七月にソフトバンク・コマースと米バ
ーティカルネット社との合弁で設立。 両社合わせて一
〇億円の資本を投入し、三年以内の黒字化を目指し
ていた。 ところがその後、世界的なIT関連株の急落
によって事業環境が急変したことから結局、三年を待
たずに会社を清算することになった。
年が明けて今年一月、求車求貨システムのイー・ト
レックスが事業撤退を決めた。 同社は二〇〇〇年三
月に第一貨物、フットワークエクスプレス、グローバ
ルロジスティクス研究所などが一億円余りを出資して
設立。 その後、第三者割り当て増資によってアクセン
チュアや日本アジア投資など約二〇社から計五億円
余りを集めた。
同社のマッチングシステム「スペーストレーダー」
は二〇〇〇年十一月に商用サービスを開始。 当初の
計画では、二年目の今年は年商一〇〇億円を達成し、
夏には株式を公開するはずだった。 ところが主要株主
のフットワークが昨年三月に経営破綻。 システムの利
用も期待したようには広がらず、事業の継続を断念せ
ざるを得なかった。
この他にもITブームに沸いた九九年から二〇〇〇
年にかけて、求車求貨システムをはじめとした物流I
Tベンチャーが日本国内に数十も立ち上がった。 しか
し、いずれも収益的には苦しい展開を強いられている
ようだ。 とりわけIPO(新規株式公開)を前提にビ
ジネスモデルの目新しさで資本金を集めたベンチャー
は総崩れといえる状態だ。
その一方で、低迷する景気をむしろ自らの追い風と
して成長を続ける物流ベンチャーも存在する。 軽作業
請負業のフルキャストもその一つだ。 全国のフリータ
ーや学生アルバイトを組織化、物流現場を中心に労
働力を「翌日納品」するという独特のビジネスモデル
を開発した同社は、九二年の事業開始から一〇年足
らずで連結売上高二三九億円という規模にまで成長
した。 昨年六月にはジャスダックへのIPOも果たし
ている。
長引く不況を追い風に
フリーターの増加、派遣法の規制緩和、大企業の
リストラの加速と雇用の流動化など、バブル崩壊後の
経済環境の変化が同社には全てプラスに働いている。
現在は単純な労働力の供給だけでなく、「荷物一つ当
たりの処理価格で業務を請け負う形のビジネスも出て
きた。 今後そうしたニーズがかなり広がると見ている」
と武並博司運営統括本部営業部部長は説明する。 事
実上の労働者の派遣業から出発した同社が今やソリ
ューションを提供する純粋な物流業者へと位置づけを
変えている。
繁閑差への対応、とりわけ物流コストで最も大きな
比重を占める人件費の変動費化は、従来から物流管
理上の大きなテーマだった。 ピーク時に合わせた労働
力を確保すれば固定費が膨らみ、閑散期には人を遊ば
せておくことになってしまう。 この問題に対して同社
はフリーターの活用という解決策を持ち込んだ。
資産を持たないノンアセット型3PLを指向するベ
ンチャー企業、ワールド・ロジでも別の切り口から同
じテーマに挑んでいる。 同社は提携先の人材派遣会社
から作業員を一時間単位で調達。 荷主には一作業単
位で販売している。 調達した労働力の活用効率そのも
虚業は去り実業が残った
ITバブルの崩壊は物流分野のベンチャー企業にも少なか
らず影響を与えた。 その一方で、低迷する景気をむしろ
自らの追い風として、しぶとく成長を続ける物流ベンチャ
ーも存在する。 新たなロジスティクス市場の創造に挑む彼
らのビジネスモデルを検証する。
本誌編集部 解説
13 MARCH 2002
特集その後の物流ベンチャー
のが同社にとっての収益源になるというわけだ。
矢野誠治取締役は「そのため当社は物量の波動に
合わせて最適に人員を配置するための工夫を徹底して
いる。 倉庫オペレーションをABC(活動基準原価計
算)で詳細に分析し、時間をかけて作業手順を作り
込む。 さらに、環境の変化に合わせて作業手順を毎月、
見直している」と説明する。
ワールド・ロジは矢野取締役を含む花王ロジスティ
クスの出身者が中心となって九七年に設立された。 ア
スクルから西日本センターの開発・運営を受託したの
を皮切りに、その後、同社の福岡センター、ファース
トリテーリングの通販商品向け物流センターなど、相
次いで案件を獲得。 毎年、倍々ゲームで売上高を伸
ばしている。 二〇〇一年六月期の売上高は約五二億
円。 現在、全国に七カ所のセンターを運営している。
ロジスティクス「新」市場
生き残った物流ベンチャーには皆、ビジネスモデル
のリアルな裏付けがある。 既存の物流業者と同じ土俵
でぶつかるのではなく、従来とは異なる角度から物流
上の課題にアプローチしているのが共通点だ。 そして
もう一つ、物流業の性質をよく理解した起業家の存
在も見逃せないポイントになる。
「よくわかるIT物流」(日本実業出版社)の著書を
持つ、イー・ロジットの角井亮一CEOは「実績を残
しているベンチャーはITバブルが崩壊した今でも元
気。 そういう会社はやはり社長がいい。 誠実でホラを
吹かない。 しかもマメで細かいところに気を遣う人が
多い。 商人の基本だという気がする。 だいたいビジネ
スモデルとか大声で口にする人ほど儲かっていない。
ビジネスより商売ですよ」という。 イー・ロジットは
ネット通販の物流アウトソーシングをメーンとする典
型的なITベンチャーだ。 ただし、角井CEOの実家
は地場の倉庫業者。 荷主があって初めて成立する物流
事業の商習慣は身体に染みついている。
物流業は人手とアセットを必要とする実業であるだ
けに、いわゆる「ニューエコノミー」とは無縁だ。 資
源を投下しなくても売り上げだけが増えていく「収穫
逓増の法則」は働かない。 一気に莫大な利益が得られ
るような大型取引もあり得ない。 地道な営業と日々の
オペレーションを積み重ねる以外に成長の道はない。
しかし、それに成功すれば、物流業は安定的にキャッ
シュを生み出すことのできる「プラットフォーム・ビ
ジネス」として機能する。
これまで一つの会社の中で処理されていた業務が今
日、機能ごとに分化している。 特定の機能だけに専業
化した会社が各分野に誕生し、それがお互いに結びつ
くことで、最終的な顧客に対するサービスや商品を提
供する形に、経済の構造が変化している。 サプライチ
ェーン統合の経済モデルの時代を迎えているのだ。
新時代の物流業者は、様々な会社が自由に利用す
ることのできるプラットフォームとして機能すること
を求められる。 しかし、これまでの物流業者のサービ
スは、そのほどんどが荷主企業の社内業務をそのまま
外部業者として代行しているに過ぎない。 そこには荷
主企業と物流企業の給与水準の差があるだけで、付
加価値を生む仕組みがない。 つまり儲からない構造に
なっているのだ。
新たな物流業のビジネスモデルを模索する必要があ
る。 物流ベンチャーと呼ばれる企業群がそれに挑んで
いる。 彼らは日本のロジスティクス市場を創造するパ
イオニアなのか。 それとも長引く景気の低迷が生んだ
?あだ花〞か。 成長を続ける物流ベンチャー各社のビ
ジネスモデルを検証し、起業家たちの素顔に迫った。
イー・ロジットの
角井亮一CEO
300
250
200
150
100
50
0
60
50
40
30
20
10
0
1996 1997 1998 1999 2000 2001 (年度)
売上高
登録スタッフ数
フルキャストの売上高と登録スタッフ数の推移
(億円)
(万人)
※98年までの売上高は単独、それ以降は連結
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