ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年3号
特集
その後の物流ベンチャー 軽貨物のラストワンマイル

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2002 24 今日、多くの物流ベンチャーを排出している市場が 二つある。
ひとつがグッドウィル・グループやフルキ ャストを生み出した現場スタッフの手配市場。
そして もう一つが軽貨物運送市場だ。
いずれも物流業規制 の枠外とされてきた分野で、業界内での位置づけも、 これまでは最下層に置かれていた。
それが現在は逆に 老舗の元請け業者を食うまでの力を付けている。
グッドウィル、フルキャストに続く業界三位のライ ンナップは倒産した中堅運送会社の国際運送を九九 年に買い取っている。
国際運送は大手オフィス用品メ ーカーの元請けで年商七四億円だった。
さらに今年一 月、今度はそのラインナップをグッドウィルが吸収合 併した。
同様に軽トラック運送最大手の軽貨急配は昨年、経 営破綻したフットワークエクスプレスの子会社、フッ トワークデリバリーサービスの第三者割り当て増資を 引き受けた。
同社はカタログ通販「ディノス」を運営 するフジサンケイリビングサービスの元請け会社で年 商は四四億円。
これに対して軽貨急配の出資は二億 四〇〇〇万円。
「安い買い物だった」と同社の西原克 敏社長はいう。
ちなみに今年一月に発表されたフットワークエクス プレス本体の再建計画では、オリックス、シンガポー ルのセムコープロジスティクスと並んで、本特集一三 頁で紹介した新興3PLのワールド・ロジが、スポン サー企業に決定している。
こうして創業間もない物流ベンチャーが現在、老 舗の暖簾を次々に手に入れている。
その勢いは今後、 物流業界内だけでなく荷主企業にまで向かう。
既に 株式公開を果たした企業を始め現在、公開準備を進 めているエスビーエスなどの有力ベンチャーたちは株 式の公開で得た資金の一部を荷主企業から物流子会 社の株を買い取ることに充てようとしている。
果敢な M&Aを進めることで、一気に企業規模を業界トッ プクラスの一〇〇〇億円規模まで拡大させようとい う狙いだ。
子会社を売却したいという親会社側の意欲は強ま っている。
「とくに家電系の親会社は、この半年から 一年の間に大きく意識が変わった。
半年前には、物流 はコア機能だとして売却をためらっていた会社が、今 は真剣に子会社の売却を検討している」と、外資系 投資会社、スリーアイ・アジア・パシフィック・ジャ パン(3i)水上圭ディレクターはいう。
物流子会社がグループ収益の足を引っ張っている場 合はもちろん、例え黒字であっても売却の対象になる。
昨年、3iは日産自動車の子会社、バンテックのM BO(マネジメント・バイ・アウト:子会社の経営陣 による買収)を支援し、数十億円の出資を行っている。
このケースでもバンテックの業績は黒字だった。
水上ディレクターは「親会社は子会社が赤字かどう かではなく、できる限り本業に集中したいという発想 に立っている。
むしろ、安定的に収益を上げている会 社のほうが買収の対象になりやすいため、売却もまと まりやすい」と説明する。
荷主に最も近いところにいる物流子会社を買収した 企業は、新たな元請け業者として物流市場の頂点に 立つことになる。
しかし、既存の物流業者には手元に 物流子会社を買収するだけの余裕がない。
これに対し て新規に株式を公開するベンチャーは、たとえ売上規 模は小さくても資金は潤沢だ。
さらに投資会社も有力物流ベンチャーの手腕には大 いに期待している。
ある外資系投資会社の担当者は 「物流子会社の再建は旬のテーマ。
問題は再建の陣頭 指揮を振るう経営陣がいないこと。
そうした能力を持 軽貨物のラストワンマイル 物流ベンチャーは“一人親方”やフリーターという流動 的な労働力を荷主企業に提供することで、市場に風穴を 開けた。
その後、飛躍的に成長した彼らに対し、既存の 大手業者は全く太刀打ちできないでいる。
物流業界の勢 力図は近く塗り替えられることになる。
本誌編集部 解説 25 MARCH 2002 特集その後の物流ベンチャー った物流ベンチャーなら、ぜひ組みたい。
資金的な支 援は惜しまない」という。
規制の隙をついて成長 こうした傾向が続けば近い将来、物流業界の勢力 図は全く塗り替えられる。
既に「軽トラ」ベンチャー の事業構造自体、大きく様変わりしている。
これまで 「赤帽」を始めとする軽貨物運送業者は、特別積み合 わせ運送業者の下請け配送や、緊急のスポット輸送を 請け負う業界の「便利屋」的存在だった。
それが今や 大手特積みを使う立場へと逆転している。
有力軽トラ ベンチャーは自らのブランドで集荷した貨物の幹線輸 送に特積み業者を利用するようになっている。
参入規制を楯にした行政の需給調整が機能し、物 量も右肩上がりだった時代には、特積み業者だけに許 された長距離幹線輸送、いわゆる路線便こそ運送事 業の利益の源泉だった。
しかし規制緩和が進み、供給 過剰になった現在の物流市場では、利益の源泉が営 業力に直結する末端の集配機能に移っている。
同時に流通チャネルの多様化にともなう消費者直 接販売の増加はB2Cビジネスの物流インフラ問題、 いわゆるラストワンマイル(最後の1マイル)の配送 を誰が担うかという問題をクローズアップさせている。
こうした物流業の構造変化が、かねてから顧客に最も 近いところで物流を担ってきた軽貨物運送業者にとっ ての強力な追い風となっている。
B2Cの荷主企業は ラストワンマイルの本命とされる大手宅配会社やコン ビニと並ぶ存在として軽貨物運送を評価している。
もっとも、軽トラベンチャーの起業家たちが最初か ら物流市場の行く末を的確に見通していたわけではな い。
起業家たちが軽トラックに目をつけたのは、資金 力も何の後ろ盾もないところから物流業に参入するに は、それしか方法がなかったからに過ぎない。
実際、一九九〇年に貨物自動車運送事業法と貨物 運送取扱事業法のいわゆる「物流二法」が施行され るまで、トラック運送事業は新規参入の困難な一種の 利権産業の性格を持っていた。
「不況に強く、倒産が 少ない。
その上、安定した利益が見込めるとあって、 当時は運送屋を買いたいというニーズが投資家には強 かった。
しかし、売りものが見つからないという状態 だった」(大手銀行調査部) ただし、軽トラだけは別だった。
届け出さえすれば 誰にでもすぐに商売を始めることができた。
現在もト ラック運送事業のなかでドライバーによる個人営業、 いわゆる「一人親方」が認められているのは軽トラだ けだ。
業界唯一の自由競争市場が、物流ベンチャーの 格好の揺り籠となった。
同様に現場作業員の人材派遣ビジネスも従来はき つい規制に阻まれていた。
しかし、産業界のニーズは 強かったことから、違法業者が暗躍するダーティーな市場となっていた。
九九年十二月に新労働者派遣法 が施行されたことで、初めて本格的な競争が起こった。
市場規模も爆発的に広がっている。
市場への参入を許されなかった物流ベンチャーたち は、一人親方やフリーターという流動的な労働力を組 織化し、荷主企業に提供することで、市場に風穴を 開けた。
その後、規制の隙を突いて成長した彼らに対 し、既存の大手は為す術のないままでいる。
ビジネス モデルの違いが決定的な差を生んでいる。
過去の物流市場の競争は基本的に特定の荷主企業 を巡る争奪戦であり、局地戦だった。
それが今やビジ ネスモデルの優劣を競いあう総力戦へと舞台を移した。
ベンチャーの台頭によって物流市場に本当の競争が始 まろうとしている。
スリーアイ・アジア・パシフィック・ ジャパンの水上圭ディレクター

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