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MARCH 2002 26
――宅配ボックスを開発した経緯から教えてください。
ちょうど宅配便が急速に普及した八〇年代半ばの話で
す。 私はマンションの管理会社も経営しているのですが、
マンションの管理人に宅配荷物を預かって欲しいという依
頼が増えたんです。 それで管理人が預っていたら、さまざ
まなトラブルが発生してしまった。 本人が受け取ろうとし
たら夜中で管理人が不在だったとか、大きなゴルフバッグ
が管理人室に入らなかったため外に置いておいたら盗まれ
たとかね。 ゴルフバッグなら平気で三〇万円とかしますか
らね。 管理会社がいただいている管理委託費なんて月に
五万円とか一〇万円ぐらい。 そんなトラブルにいちいち対
応していたら、たまりません。 何か対策を考えなければと
思って開発したのが宅配ボックスです。 ただし、単純なボ
ックスだけでは面白くない。 二四時間体制で管理してや
ろうと思ったんです。 管理センターとボックスをつないで、
双方向でリアルタイムに管理するわけです。
――前例のない製品だけに価格の設定が難しかったのでは。
会社を設立して間もない頃に、大阪のディベロッパーに
売った価格がワンセット四〇〇万円でした。 それからは、
じゃあ四〇〇万円の宅配ボックスを何個売れば採算が合
うのかという話になったのですが、なかなか数が出なかっ
た。 最低一〇〇台は売れないと合わないのに、年間三〇
セットぐらいしか売れなかった。 最初は大損しましたよ。
――当時、実際に宅配ボックスを利用するマンションの住
民は、どれくらいの維持費を負担していたのですか。
月に一〇〇〇円から一二〇〇円ぐらいもらっていまし
た。 今は二〇〇円から三〇〇円になっていますけどね。 で
すからその頃、採用してくれたのは、よほどの珍しがり屋
か、高級マンションだけ。 かなり苦労しました。 それでも、
いずれは認められると確信していた。 何と言っても便利で
すから。 すでに使っているお客さんも、そう言ってくれて
いました。 実はうちの管理センターには、そうやってお客
さんの声を吸い上げるという役割があります。 ここに頻繁
にかかってくる電話を全て書き留めておく。 これを基に、
どんどん製品を改良していくわけです。
郵政省に働きかけて規制緩和を実現
――その後、事業が成長軌道に乗るまでの間に転機になっ
たできごとはありますか。
民間の宅配業者は宅配ボックスをどんどん利用してく
れた。 ところが郵便小包だけはダメだった。 当時の郵便小
包には、判子かサインがなければ荷物の受け取りができな
いという規則がありました。 つまり受け取り人が不在だと、
宅配ボックスがあっても荷物を置いていくことができなかった。 それまで私は知らなかったのですが、当時の法律で
そう決まっていたんです。
これはいかんと思いました。 これを認可してもらわなけ
れば、うちは商売になりません。 そこで郵政省(現郵政事
業庁)に働きかけたんです。 当時の郵便局には不在配達
の持ち戻り荷物が山になっていましたから、現場の写真を
とったり、事例を調べたりして、うちの宅配ボックスを利
用できなくて郵便局が困っていると訴えたんです。
ちょうど当時は、郵便小包の解放などが進みつつあり
ました。 そこに我々も困っているし、郵便局も不便な思い
をしていると訴えた。 そうしたら本省の郵務局のほうで、
宅配物の利用を促進する委員会を作ろう言ってくれたん
です。 その委員会には僕も出席させてもらったんですが、
どうしたら宅配物をスムーズに扱えるかを検討しました。
九三年のことです。 その後、郵政省は、うちの宅配ボック
スから印字される受領レシートをサインの代わりとして認
宅配ボックスを発案
――フルタイムシステム
原幸一郎
社長
「時間の差を埋めることで
物流を変えていく」
フルタイムシステム
原幸一郎社長
ビジネスモデル
宅配ボックスの販売と管理を手掛けている。
全国五六〇〇棟以上のマンションへの導入実
績を持ち、ほとんどのボックスが管理センター
とオンラインで接続している。 センターのコン
ピューターで入庫と出庫を集中管理することで、
導入マンションの住人から一戸あたり月間二〇
〇〜三〇〇円の管理収入を得ている。 主な販
売先はゼネコン、ディベロッパー、設計事務所
など。 最近では駅構内に宅配ボックスを設置す
るという、新たなビジネスを模索している。
沿 革
マンション管理会社も経営している原幸一
郎社長が、マンションの管理人が宅配荷物を
預かることにともなうトラブルの増加に業を煮
やし、八六年に独自に宅配ボックスを開発。 こ
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めるように全国に通達を出してくれたんです。
――郵便物を扱えるようになって状況は変わりましたか。
通達が出てから、はじめて三井不動産や野村不動産など
の大手が採用してくれたんです。 これが、大きかった。 そ
れまでは欠損を続けていたのが一気に製品の売却益が出た。
それからですよ、うちの業績が飛躍的に伸び始めたのは。
――宅配ボックスの数は通常、マンションの総戸数に比べ
ればずっと少ない。 どうやって決めるのですか。
最初にこのビジネスをスタートするとき、管理していた
マンションで宅配物の受け取りについて調査をしました。
そうしたら全戸のうち三分の一は、いつも管理人が荷物
を預かっていた。 ときどき預かっている方も三分の一いた。
そして残りの三分の一は、常に在宅しているか、荷物が届
かないため宅配ボックスを利用する必要のない方だと分か
った。 この傾向はどこのマンションでも同じでした。
だから当初は、マンション全体の戸数の三分の一の宅
配ボックスをつくろうと考えた。 その後は、経験的にもっ
と少なくてもいいということが分かってきて、今では総戸
数の一〇%から一五%を基準にしています。
――それだけの数でカバーできるものですか。
十分です。 うちは管理している宅配ボックスへの入庫と
出庫の履歴を、一五年間ずっと見てきましたからね。 世
帯数がどれぐらいあると、どれだけボックスが必要かが、
だいたい分かるんです。 こういう蓄積がなければ、自信を
持ってやることはできませんよ。
うちの場合は、宅配ボックスに荷物が入っていることを
管理センターから知らせて、早く出してもらうような工夫
を重ねていますからね。 荷物が入れられてから一定期間が
経つと、電話をしたり、メールを送ったり、場合によって
はハガキを送ってお知らせしています。 こういう極め細か
い管理も、うちの売りの一つなんです。
物流マーケットに切り込む
――最近はいろいろなところで、宅配ボックスの維持管理
料を収入の柱にしていきたいと発言されていますね。
マンション管理もそうなんですけどね、お客さんがたく
さんに分散している商売が一番安全なんです。 一気にキ
ャンセルになることはあり得ませんから。 これが分かるよ
うになるまでに、僕もだいぶ苦労しましたけどね。
――すでに大規模なオペレーションセンターなどを持って
いる物流業者が参入してくるというようなことはないので
しょうか。
実際、昔はありましたよ。 かつて日通さんがね、自分の
ところの荷物だけを扱う宅配ボックスを設置しようとした
んです。 結局、失敗しましたね。
――御社はこれまで分譲マンションを中心に宅配ボックス
事業を展開してきました。 そこから最近では、駅の構内な
どにも進出している。 これはビジネスとしても、まったく
違うものを追及していると考えていいのでしょうか。
駅などへの進出は宅配ボックスを中心とした当社にとっ
ての新規ビジネスです。 分譲マンションの市場というのは、
年間二〇〇〇棟がだいたい決まっています。 それだけやっ
ていたのでは、株式を上場するまでは伸びない。
――物流マーケットを、かなり意識しているようですね。
そうです。 宅配便の時間指定といっても、結局、何時
間かは待たなければなりません。 それを変えていこうとし
ているんです。 利用者がリアルタイムで荷物を受け取れる
手段は、宅配ボックスしかありません。 もう一つは、うち
の宅配ボックスがコンビニに取って代わる可能性もありま
す。 それが冷蔵ボックスです。
――宅配業者から手数料をとることも可能なのでは。
結局、数ですよね。 数が多くなれば、そこから自然にビ
ジネスは派生してきます。 ただし、ウチが提供しようとし
ているのは、基本的に時間なんです。 人が人にモノを渡す
場合に、お互いに受け渡しの時間が合うなら直接会って
渡せばいい。 しかし、それがダメなのであれば、うちの宅
配ボックスがその差を埋める。 そこでは決済も必要になる
と考えたからこそ、ICカードから始めて、クレジットカ
ードを使えるような機能も充実させてきた。 ようするに物
流を変えていこうと考えているんです。
れを販売・管理するフルタイムシステムを設立
した。 当初から通信機能付きのボックスにこだ
わり続けてきた。 単純なボックスだけでは大資
本の参入に対抗できないし、管理レベルを高度
化して管理収入を得たいという狙いもあったた
めだ。
管理センターに寄せられる苦情や要望を、製
品開発に反映させることで機能とサービスの高
度化に努めてきた。 不在時に宅配荷物の受け
取りだけでなく、宅配荷物の発送インフラに使
ったり、クレジットカードによる決済機能をボ
ックスに持たせたりして付加価値を高めた。 現
在の推定市場シェアは六〜七割で、ダントツの
トップ企業。 二〇〇一年四月期の売上高は一
九億円で、経常利益は一億二〇〇〇万円。
二〇〇四年ぐらいの公開を目指している。
http://www.fts.co.jp
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特集その後の物流ベンチャー
96年に郵政省が規制緩和の通達を出したことで、
「受領書」があれば郵便小包を受け取れるようになった
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