ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年4号
FOCUS
排ガス問題で石油業界が新方針自動車業界との押し問答に終止符?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2002 78 石原慎太郎都知事によるディーゼル 車NO作戦や尼崎公害訴訟判決など環 境問題に対する世論の高まりを受けて、 二〇〇七年に実施予定だったディーゼ ル車の「新長期」排出ガス規制が二〇 〇五年へと二年前倒しされることにな った。
特に排ガス中の粒子状物質(P M)が問題視されており、PM排出抑 制策の一つとして軽油中の硫黄分低減 が求められている。
一方、ガソリン車については燃費向 上の観点から、リーンバーンエンジン や直噴エンジンが採用されるようにな り、これに対応するためにガソリンの 硫黄分低減が課題となっている。
二〇〇五年に実施される「新長期」 排出ガス規制値は、中央環境審議会が 三月六日にまとめた答申案によると、 ディーゼル車については粒子状物質 (PM)を一つ前の「新短期」規制に 比べ七五〜八五%削減するほか、窒素 酸化物(NO X )も四一〜五〇%削減 するという厳しい内容。
二〇〇五年時 点では欧米を凌ぐ世界最高水準の規制 となる見通しだ。
とくに環境対策上問題となっている ディーゼルトラック・バスについて、 欧州では二〇〇五年に予定している 「EURO4」と呼ばれる規制で〇・ 〇三g/kWhとしている。
これに対して、答申案は〇・〇二七g/kWh とわずかながらではあるが、欧州を下 回っている。
ディーゼル車のPM対策 ではこれまで欧州が先行してきたが、 二〇〇五年時点でこれを一気に逆転す る。
一方、燃料については、軽油が二〇 〇五年のディーゼル排ガス規制強化に あわせて二〇〇四年中に硫黄分を従来 の五〇〇ppmから五〇ppmへと十 分の一に低減することが決まっている。
ガソリンについても二〇〇五年に硫黄 分を一〇〇ppmから五〇ppmへと 半減させる方針が打ち出されている。
硫黄分を一〇ppm以下に ただし、問題は二〇〇五年以降。
三 月六日の中環審答申案では、今後のデ ィーゼル車排出ガス規制について、「排 出ガス低減の可能性を見極め、軽油中 の硫黄分の一層の低減も含め、新たな 低減目標について検討する」とされて おり、排ガス規制のさらなる強化と軽 油中の硫黄分低減を進める考えを示唆 した。
欧米でも既に、将来に向けて一層の 排出ガス規制強化が予定されており、 燃料についても二〇〇〇年代後半にガ ソリン・軽油の硫黄分を一〇ppm以 下にする「サルファーフリー」への取 り組みが本格化している。
FOCUS 今年三月、石油業界は軽油やガソリンの硫黄分を一〇ppm以下 にする「サルファーフリー」を数年後に実施する方針を打ち出した。
二〇〇五年以降、「サルファーフリー」化を段階的に進めていくこと を決めている欧米の動きを無視できなくなったことが背景にある。
排 ガス規制への対応を巡る石油業界と自動車メーカー側の議論はこれま で、石油業界が自動車の技術革新を求めるのに対して、自動車業界は まずは燃料改善に取り組むべきだと主張するなど平行線が続いていた。
今回、石油業界がようやく重い腰を上げたことで、日本の排ガス問題 の解決が一歩前進した格好となった。
排ガス問題で石油業界が新方針 自動車業界との押し問答に終止符? KEY WORD 物流行政 軽油の低硫黄化の推移 1952 1976 1952 1992 1997 2005 12,000ppm 5,000ppm 2,000ppm 500ppm 50ppm 短期規制 NOX:6.0 PM:0.7 長期規制 NOX:4.5 PM:0.25 新短期規制 NOX:3.38 PM:0.18 新長期規制 新短期の約1/2 ※規制値は、トラック・バス(重量車)の値 79 APRIL 2002 欧州では二〇〇五年一月から硫黄分 一〇ppm以下のガソリンおよび軽油 を段階的に導入することになっている。
全面供給時期こそ欧州議会が二〇〇八 年一月を主張しているのに対し、欧州 環境閣僚理事会が二〇〇九年一月を主 張するなど食い違いが見られるが、サ ルファーフリーへの道筋は示されてい る。
一方、米国でも、軽油については硫黄分一五ppm以下を二〇〇六年六 月から供給開始し、これにあわせて二 〇〇七年からディーゼルおよびガソリ ン重量貨物車のPM規制値を現行規制 より九〇%、NO X を九五%削減する 規制を導入する予定となっている。
これに対して、日本でもディーゼル 車の排ガス規制は二〇〇五年の「新長 期」規制以降も、排出ガスを限りなく ゼロに近づけるゼロエミッションに向 け、さらなる規制強化が行われる見通 し。
「ポスト新長期規制」と呼ばれる この規制に対応するためには、NO X 吸蔵還元触媒や連続再生式DPFなど の高度な後処理装置を十分に機能させ る必要があり、そのためには硫黄分一 〇ppm以下の「サルファーフリー」 軽油が必須とされている。
ガソリン車についても二〇一〇年の 燃費基準を達成するためには、リーン バーンや直噴エンジンの採用が不可欠 となる。
しかし、これらのエンジンは 従来のエンジンより窒素酸化物(N O X )の排出量が増えるため、NO X 還 元触媒を装着する必要がある。
ガソリ ン中の硫黄分がこのNO X 触媒の邪魔 をするため、やはり一〇ppm以下の サルファーフリーガソリンが必須とな る。
石油業界が方針転換 三月一日に開かれた資源エネルギー 調査会石油製品品質小委員会。
この日 の小委員会では、日本自動車工業会側 から自動車の排ガス低減および燃費改 善への取り組みと燃料への要望につい てプレゼンテーションが行われた。
自 工会の植田文雄安全・環境技術委員 会燃料・潤滑油部会長はガソリン車の 燃費向上、ディーゼル車の排出ガス低 減の観点から、燃料の硫黄分低減の必 要性を強調し、ガソリン、軽油のいず れについても硫黄分一〇ppm以下の サルファーフリー燃料の二〇〇八年度 末全面供給を要望した。
とくに軽油については、五〇ppm 軽油では二〇〇五年の「新長期」規制 に対しても不十分で、サルファーフリ ー軽油は使用過程にある既販車に対し てもPM低減効果があるため、二〇〇 五年に能力のある企業から導入を開始 する早期導入を求めた。
このプレゼンテーションを受けるか たちで、石油連盟の松村幾敏技術委員 ディーゼル車の排出ガス対策の経緯 排出ガス低減技術 燃焼室の改良(含、無駄容積減少) 排気量増大、圧縮比増大、燃焼室の冷却性向上 EGR LOC低減 燃焼噴射時期遅延、ガバナーとタイマー特性変更 噴射ノズルと噴射管の変更 噴射ポンプの高圧化 プリストロークの可変化 ガバナーとタイマーの電子制御化 2段スプリングノズル 可変噴射率制御(VEポンプ) コモンレール・ユニットインジェクタ 吸排気ポート等の改良 過給化及び過給機能性向上 インタークーラー化、慣性過給の可変化 可変ノズルターボ 可変スワール機構(副ポート式) バラツキ低減(排気ガス関連部品及び調整精度) 始動補助装置の改良 酸化触媒 DPF NOX低減触媒 排出ガス規制 西暦 規制 74 S49年 77 S52年 79 S54年 83 S58年 89 H元年 94 短期 97 長期 02 新短期 新長期技術 エンジン本体 燃料噴射系 排 出 ガ ス 対 策 吸排気系 その他 後処理 APRIL 2002 80 FOCUS 石油精製・元売業の合併・提携について 精製・元売G 精製設備 販売 合併・提携の経緯 能力(B/D) 1,227,000 24.7% 23.1% (23.1%) 13.6% (11.4%) 12.0% 16.2% (14.6%) 16.7% 10.2% (10.4%) 11.5% 10.6% (12.9%) 10.4% 18.5% (23.2%) 18.8% 15.2% 3.5% 595,000 830,000 572,200 515,000 932,000 7.8% (4.3%) 296,410 6.0% 4,967,610 100% 100% 757,000 175,000 シェア シェア 日石三菱G ・日石三菱 ・日石三菱精製 ・日本海石油 ・興亜石油 ・東北石油 ・和歌山石油精製 出光興産G ・出光石油 ・沖縄石油精製 ジャパンエナジーG ・ジャパンエナジー ・鹿島石油 ・富士石油 昭和シェル石油G ・昭和シェル石油 ・昭和四日市石油 ・西部石油 ・東亜石油 ・エッソ石油 ・モービル石油 ・キグナス石油 ・南西石油 ・極東石油 エクソンモービルG そ の 他 合  計 コスモ石油 11年10月12日  日石三菱(株)とコスモ石油(株)は、 11年11月1日より、仕入、精製、物流及 び潤滑油の各部門において、業務提携を開 始することを発表 12年5月26日  金融機関等への優先株発行による増資(10 億円→300億円)を発表。
将来の株式公開 も検討。
11年9月30日 (株)ジャパンエナジーと昭和シェル石油 (株)は、物流部門の協働事業化に向けた話 し合いを行っていると発表。
12年3月7日 (株)ジャパンエナジーと昭和シェル石油 (株)は、精製部門の共同事業化に合意。
11年11月30日  米国エクソンとモービルの合併について、 米国独禁当局が実質的に認可。
新会社「エク ソンモービル」が誕生。
12年1月26日  エッソ、ゼネラル、モービル、東燃4社が 共同で6月から組織改編し、精製・物流等を 一体的に運営することを発表。
13年2月28日  東燃ゼネラル石油が7月1日にキグナス石 油精製と合併する旨を発表。
・東燃ゼネラル石油 (元売) (精製) (内訳) (内訳) 81 APRIL 2002 会自動車用燃料専門委員会委員長が 石油業界の見解を表明することになり、 各委員の注目が松村氏に集まった。
松 村氏は「自動車の排出ガスがゼロに近 づくほど後処理技術が高度化し、燃料 の硫黄分を低減する必要があることは 石油業界も理解している。
時期はとも かくとして、限りなくサルファーフリ ーにしていく必要がある」と述べて、 あっさりと硫黄分一〇ppm以下のサ ルファーフリー燃料供給を実施する考 えを表明した。
自動車の排出ガス対策強化を巡って はこれまで、常に自動車業界と石油業 界の軋轢が指摘され、その折衝はタフ なものだったといわれる。
燃料の改質 を求める自動車 側とこれに難色 を示して自動車 側での技術革新 を求める石油側、 という構図だっ た。
それだけに今 回の石油連盟側 の発言は関係者 を驚かせた。
三 月一日の小委員 会でも、自動車 ユーザー代表と して委員に参画 している全日本 トラック協会の 豊田榮次専務理 事が「てっきり石 油連盟は反対す ると思ったが同 調したので驚い た」とコメント。
委員会終了後に は「やりましたねえ」と松村氏の肩を 叩く委員も見られた。
石油業界が変わった、あるいは変わ らざるを得なかった背景には、政府の 規制緩和による自由化の動きがある。
九六年の特定石油製品輸入暫定措置 法(特石法)廃止による石油製品輸入 自由化に始まり、ガソリンスタンドの 出店制限廃止、セルフスタンドの解禁 と規制緩和が進められ、異業種からの参入などにより競争が激化。
九〇年代 後半から精製部門を中心に元売り各社 の合併や提携が進み、ここ数年では世 界的規模での再編が進んでいる。
エク ソンとモービルの合併、BPとアモコ 合併など石油メジャーの再編が進み、 我が国でも日石と三菱が合併するなど 世界規模でのメガコンペティションの 時代に突入している。
民族系と呼ばれる日本の石油会社は、 外資系に比べSSの数も多く、設備の 過剰感が大きい。
一方オイルメジャー をバックに持つ外資系企業は、コスト 競争力で優れ、資本調達力も圧倒的だ。
製品の差別化が困難な石油業界にあっ ては、コスト競争力が生き残りのカギ を握っており、体力勝負となれば民族 系の優位性も薄れる。
財務内容の悪い 民族系元売りには古い体質が温存され ている企業が多く、かけ声だけの合理 化・リストラでは、遠からず利用者か ら愛想を尽かされてしまうだろう。
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 500ppm (0.05wt%) 350ppm (0.035wt%) 首都圏を中心に 部分供給開始 一部で段階的に導入 15ppm 出典:総合エネルギー調査会石油分科会石油製品品質小委員会資料より作成 50ppm (0.005wt%) 10ppm (0.001wt%) 日本 米国 欧州 (49州)  加州 日・米・欧の軽油中に含まれる硫黄分の現状と見通し 低硫黄軽油の優遇税制 国名 イギリス 硫黄分 50ppm以下 2000年:557億円 1988年:207億円 国内産及び輸入品 スウェーデン ドイツ 優遇税制対象軽油 優遇税額 対象範囲 優遇税額率の根拠 税収の減少規模 2000年時点 約5円/リットル 生産・流通コスト等の増 加コストを補完するため と言われているが特定根 拠は未公表 硫黄分 50ppm以下 (2001年11月1日〜 2002年12月31日) 硫黄分 10ppm以下 (2003年1月1日〜 約1.56円/リットル (2001年11月1日〜 2002年12月31日) 約1.56円/リットル (2003年1月1日〜 コスト差の根拠は、硫黄 分を50ppm、10ppm にするために必要な石油 会社の平均増加コストが 1.56円/リットルから 国内産及び輸入品 国内産及び輸入品 硫黄分 最大50ppm 硫黄分 最大10ppm 2000年時点 約3.8円/リットル 約6.8円/リットル コスト差の根拠は、石油 会社の増加精製コストの 平均値 APRIL 2002 82 一日の石油製品品質小委員会で は、「市場の力を最大限に引き出す ためには、業界と業界の調整ではな く、ブランド力を持って販売できる ような優秀なプレーヤーが出てくる ことが重要だ。
優秀なプレーヤーが 出てくれば業界全体の国際競争力も 強くなるだろう。
政府は、そのよう なプレーヤーが育つインセンティブ を考えるべきだ」(橘川武郎東大社 会科学研究所教授)といった指摘も あった。
石油業界はまだまだ甘い、 というわけだ。
資源エネルギー庁の 村田光司石油精製備蓄課長も「自 動車、石油両業界とも、国際競争力 を確保して発展していく。
政府とし ては、国民に評価されることを念頭 に置き対応したい」と市場原理の徹 底によりユーザーである国民が評価 するようなエネルギー政策を進めて いく考えを示している。
いずれにせよ、自動車と燃料を使 う側としては「良い車と良い燃料を 早く市場に出してくれることを期待 している」(全ト協の豊田専務理事) ということに尽きる。
もちろん安い 価格で、ということになるが、目的 はきれいな空気、きれいな地球を取 り戻すためであり、企業努力によっ ても吸収しきれないコストは政府が 支援策を講じるべきだろう。
(松本清志) FOCUS ディーゼル重量トラック・バスの排出ガス規制値の国際比較 ※各国・地域で最も重量が大きい区分の規制値を比較 日本(車両総重量3.5トン超) 単位:g/kwh 窒素酸化物 NOX 炭化水素 HC 非メタン 炭化水素 NMHC 一酸化炭素 CO 粒子状物質 PM 長期規制(1997,98,99) 新短期規制(2003,04) 新長期規制(2005) 4.50 3.38 2.0 2.90 0.87 ― ― ― 0.17 7.40 2.22 2.22 0.25 0.18 0.027 欧州(車両総重量3.5トン超) EURO2(1995) EURO3 (2000) EURO4 (2005) EURO5 (2008) EEV 過渡モード 定常モード 過渡モード 定常モード 過渡モード 定常モード 過渡モード 定常モード 7.0 5.0 (5.0) 3.5 (3.5) 2.0 (2.0) 2.0 (2.0) 1.1 ― (0.66) ― (0.46) ― (0.46) ― (0.25) ― 0.78 ― 0.55 ― 0.55 ― 0.40 ― 4.0 5.45 (2.1) 4.0 (1.5) 4.0 (1.5) 3.0 (1.5) 0.15 0.16 (0.10) 0.03 (0.02) 0.03 (0.02) 0.02 (0.02) 米連邦(車両総重量3.86トン超) 1998年基準 2004年基準 2007年基準 5.364 0.268 0.188 1.743 20.786 20.786 0.134 0.134 20.786 0.013 ― メーカーは規制物質を?、?から選択 ? NOX+NMHC 3.218 ? NOX+NMHC 3.353   かつ NMHC 0.617 ・車両総重量(日本)=空車状態の車両重量+最大積載量+乗車定員×55kg ※一人当たりの体重等、細部の規定は欧米と若干異なる ・新長期目標(2005)からは車両区分を車両総重量2.5t超から車両総重量3.5t超に変更 ・非メタン炭化水素とは、炭化水素からメタンを除いたもの ・欧州EURO3:全車種とも、定常モード(ESC)で規制。
窒素酸化物還元触媒、DPF等の将来技術については、ESCと過渡モ ード(ETC)の両方で規制 ・欧州EURO5以降:現時点ではモード、規制値とも暫定値 ・欧州EEV:Enhanced Environmentally Friendly Vehiclesの略。
EEV規制値は、大気汚染が特に悪い都市等の地域問題解決の ため、メンバー各国が政策的使用するための値。
(例:都市への乗り入れ制限を設ける際の基準として使用)暫定値

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