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APRIL 2002 48
欠品率は一〇%
「エコスにも物流部はあったが、ノウハウや
戦略といえるものは全く見当たらなかった」。
関東、北関東を中心に食品スーパーを展開す
るエコスの物流部長、西村武英氏が九七年に
入社したときの正直な感想だ。 西村部長は七
〇年から九五年まで、西友で物流を担当して
きたベテラン物流マンだ。 西友では店舗、企
画からセンター運営まで物流管理業務全般を
経験した。 その実績を買われてエコスにやっ
てきた。
個人商店の青果店からスタートした同社は
八四年にたいらやに商号変更し、食品スーパ
ーに業態を転換した。 九二年には味好屋を吸
収合併して店舗数を二〇にまで拡大。 九六年
に株式を店頭公開したときには二四店舗を構
えていた。 西村部長が物流改革のリーダーと
して入社したのはちょうどその頃だった。
入社後の一カ月間、とにかく現場を見て歩
いて、問題点を洗い出す作業に明け暮れた。 そ
こでは目を覆いたくなるような光景に何度も
出くわした。 「エコス
の店舗では開店時間
の午前一〇時を過ぎ
て、すでに来店してい
るお客さんがいるにも
関わらず、通路に棚
入れされる前の商品
が山積みされていたり、
西友から地域スーパーに転身した
ベテラン物流マンのゼロからの改革
関東中心の地域食品スーパー、エコスの物
流改革が進んでいる。 合併を繰り返したこと
で、物流インフラの統合が課題になっていた。
しかし、十分なノウハウを持った物流マンが
社内にはいなかった。 長年、西友で物流管理
に携わってきたベテラン物流マンを採用し、
改革のリーダーに起用した。
エコス
―― 一括物流
エコスの西村武英物流部長
村部長は説明する。 物流EDIの導入
物流改革の本格的な取り組みはグロッサリ
ー(日用雑貨品と加工食品)用一括物流セン
ターの建設から始まった。 すでに当時、同社
はチルド商品向け一括物流センターの稼働を
済ませていたが、グロッサリーについては各店
舗への商品供給をベンダー任せにしていた。 ベ
ンダーと店舗との間にはキチンとした納品ル
ールも決められていなかった。 一日に何回も
納品トラックが店舗にやってきて、商品を納
めていく。 そのたびに店員が荷受け検品に駆
り出される、という非効率な物流体制だった。
これを改め、専用の物流センターを設ける。
そこでベンダーからの商品を荷受けし、検品、
仕分け後、各店舗に一括配送する仕組みを導
入する。 これによって各店舗で行っていた検
品作業をセンターで代替する「ノー検品」や、
店舗への定時一括配送を実現する。 これが経
営トップから与えられたミッションだった。
最初に取り掛かったのはセンターの立地を
決めることだった。 当時、エコスでは埼玉や
東京西部を中心に三八店舗を展開していた。 チ
ルド商品向け一括物流センターが設置されて
いたのは埼玉県の三芳町。 グロッサリー用セ
ンターは所沢に置くことになった。 ただし、セ
ンターは自社で保有しない。 業務委託先であ
る物流業者に施設を用意してもらう。 エコス
は商品の通過金額の数%を物流費として支払
棚に補充されるべき商品がいつまでたっても
棚の上に置かれたままだったりした。 正直い
って呆れた。 少なくとも西友では考えられな
いことだった」と振り返る。
それだけではない。 当時、エコスの店舗で
の商品欠品率は一〇%を超えていた。 もっと
も、それを気にする社員がほとんどいなかった。
本部も西村部長の報告を聞くまで欠品の実態
を把握していなかったくらいだった。 「欠品が
多いことを店舗側では認識していたが、本部
に言ってもムダだと諦めていたようだ」と西
49 APRIL 2002
う。 そんな契約条件で協力してもらえる物流
業者を探した。
こうした条件を受け入れた物流業者に、セ
ンター内でのオペレーションや店舗配送など
の業務はすべて丸投げした。 ただし、オペレ
ーションの細かい部分はすべて自社の物流部
で管理する体制にした。 すべてを丸投げする
と、自社に物流のノウハウが蓄積されないか
らだ。 「自社の社員を委託業者に出向させ、検
品の方法から教育した。 社員の出向は現在も
続いている」という。
西村部長にとって、こうした一括物流セン
ターの立ち上げ業務自体はさほど難しい仕事
とは思えなかった。 西友時代には何度もセン
ターの立ち上げを経験してきた。 店舗分布か
らセンターの立地と規模を決める。 取引ベン
ダー各社とセンターフィーなど納品条件を詰
める。 各店舗への配送時間をスケジュール化
する、といった作業は順調に進んでいった。
ところが今回、かつて経験したことのない
仕事が加わることになった。 物流EDIの導
入である。 当時、物流EDIは小売り業界全
体でも約三〇%しか採用しておらず、特に地
域スーパーで導入している企業はほとんど見
当たらなかった。 前例がないのに思い切って
採用に踏み切ったのは、それだけ物流EDI
がもたらす効果が大きいと判断したからだ。 「恐
らく地域食品スーパーでは当社が最初の導入
ケースだったはず」と西村部長は述懐する。
小売業における物流EDIの目的は、店舗、
1984年9月
1992年3月
1996年10月
1997年6月
1997年7月
1999年6月
1999年9月
2001年11月
2002年3月
4
20
24
24
38
77
85
83
エコスの沿革と物流のあゆみ
(株)たいらやとなる
(株)味好屋を吸収合併
株式を店頭公開
子会社(株)たいらや北関東
が(株)エーリスウエノより
営業権譲渡
(株)ハイマートと合併
商号を(株)エコスに変更
子会社(株)たいらや北関東
が(株)うえのユーマート
(3店舗)を吸収合併
所沢チルドセンター稼働(三芳町)
(株)エーリスウエノの
既存センターを引き継ぐ
(たいらや北関東センター)
所沢グロサリーセンター稼働
(物流EDI採用)
(株)ハイマートの既存センターを
引き継ぐ(4ヵ所)
ハイマート既存センターとたいらや
北関東センターを廃止して新センター
稼働(エコスグループ茨城センター)
年 号 店舗数
沿 革 物流のあゆみ
APRIL 2002 50
物流センターおよび本部、ベンダー間で販売
データや受発注データなどの各種情報を共有
することで、検品レス、情報の重複入力の回
避、各種伝票の削減を実現することにある。 導
入によるコスト削減効果も大きい。 しかし、実
際には「経営の根幹部分につながる情報がラ
イバル企業に漏えいする恐れがある」、「商品
マスターの統一など各プレーヤーとの調整に
時間が掛かる」などを理由にして、なかなか
普及が広がらない現状にある。
これに対して、西村部長のスタンスは明確
だった。 「小売業では重複する作業が行われて
いる。 例えば、物流センター側とベンダーで
同じ伝票を作成していたりする。 明らかに無
駄だ。 そんなことは止めてしまおうという話に
なった」
所沢のグロッサリーセンターでは店舗から
の発注情報をそのままベンダーに流して、店
舗別に仕分けされた状態で商品がセンターに
納品されている。 商品には店別情報やコンテ
ナ内の商品情報が読みとれるSCMラベルが添付されており、それを読みとるかたちで自
動的に商品が仕分けシューターに落ちていく
だけ。
この仕組みによって、ベンダーからの荷受
け検品を省略している。 「センター内はとても
シンプルな構造で、人手もかからない」と西
村部長は満足げだ。
チルド併設の一括物流センター
所沢グロサリーセンターの稼働は九九年六
月だった。 九七年にエコスに入社して約二年
が経過していた。 これでホッと一息つけるは
ず。 そう思っていた矢先に、新たな物流の問
題が浮上した。
九九年九月、エコスは北関東を中心に三六
店舗を展開するハイマートと合併した。 これ
によって、茨城を中心に北関東地区の店舗数
が一気に増え、同時に物流センターの数も五
カ所に分散してしまった。
それに伴い、西村部長には新たに物流拠点
集約という仕事が課せられた。 今度はドライ、
チルド併設型の一括物流センターを茨城県内
に建設すべし、という指示だった。 しかし、「所
沢での経験もあったし、自信はあった」と西
村部長は振り返る。 実際、指令が下ってから
約一〇カ月後の昨年十一月には、茨城センタ
ーの稼働に漕ぎ着けた。
同センターの敷地面積は一万三二二十平方
メートル。 取扱いケース数は一日当たり、グ
ロッサリーで一万二〇〇〇ケ
ース、チルドは四六〇〇ケー
スとなっている。 配送エリア
は北関東を中心に五五店舗、
二四時間稼働のセンターだ。
物流EDIなど所沢グロサリ
ーセンターとほぼ同じ機能を
有している。
同センターの特色の一つに、
回収物流がある。 トラックの
センターへの戻り便を利用し
て、店舗から発泡スチロール、
ダンボール、牛乳パックを回収してくる。 発
泡スチロールは、専用の大型機械で電気分解
して圧縮し、板状にすることで減容リサイク
ルされ、専門業者に有償で引き取られる。 ダ
ンボールと牛乳パックも回収したあと、古紙
業者に引き取ってもらう。
従来、各店舗で処理していたこうしたリサ
発泡スチロール圧縮機
エコスの物流センター(TC)概要
所沢チルドセンター
所沢グロサリーセンター
茨城センター
埼玉県三芳町
埼玉県所沢市
茨城県岩瀬町
400坪
1,000坪
1,450坪
9,287
9,980
19,870
30
30
53
東京・千葉・埼玉
東京・千葉・埼玉
茨城・栃木・群馬・福島・千葉
(単位:百万円)
センター名
所在地 建物面積 扱い高
店舗数 配送エリア
茨城センター外観
イクル品を、センターで一括して扱うことで
コスト削減効果もある。 エコロジー、エコノ
ミーを意識した、エコスという社名からも分
かるように、「自分の会社で出たものは自分の
所で処理しろということ。 世の中の流れだ」と
西村氏は考えている。 今後、この回収物流は
所沢グロサリーセンターにも導入する計画で、
その受け皿として同センター内に、エコスリ
サイクルセンターを設置する予定だ。
現在、実験的に店舗で生ゴミを堆肥化する
試みも行っている。 魚や野菜など日々、大量
に出る生ゴミを機械を使って堆肥にし、リサ
イクルする。 これも環境を考えた施策の一環
で、「堆肥にしたとしても売り物にはならない。
将来は農協などとタイアップして、筑波山か
どこかで米でも作ろうかと話している」と冗
談交じりに話す。
センターで利用されているカゴ車にも工夫
を凝らした。 茨城センターのカゴ車は、他の
物流センターで見られるものよりも、背丈が
低く設計してある。 そうすることによって、女性でも運びやすい容量になること、そして視
界が開け、他のカゴ車や人との接触を防ぐこ
とができる。 見落としやすい、小さなポイント
かもしれないが、これも作業の効率化に結び
ついている。
西村部長が九七年に中途入社して五年。 現
在では、欠品率も〇・五%以下にまで下がっ
た。 エコスの物流は以前と比べ、格段にレベ
ルアップしている。 しかし、残された課題も
少なくない。
エコスの売上の五〇%は、青果、鮮魚、精
肉の生鮮三品で占められている。 茨城や東京
など一部のセンターで鮮魚の運送などを扱っ
ているが、基本的には店舗が直接、卸から納
品するという市場物流が主流となっている。 「こ
れからは仲買まで巻き込んで、受発注システ
ムの改善から始める必要がある」と西村部長
は認識している。
惣菜に関してもインストアーパックか、パ
ックセンターかという議論が今、社内で持ち
上がっている。 現在は各店舗で加工している
惣菜を、パックセンターを導入して、品物に
よってはセンターで加工することによって合
理化しようというアイデアだ。 さらに二〇〇
二年度中には、所沢チルドセンターを改造、改
善し、所沢グロサリーセンター、茨城センタ
ー同様、EDIシステムを導入する計画だ。
エコスの現在の店舗数は八三。 昨年二月期
の連結売上高は八四四億一二〇〇万円。 経常
利益は八億三〇〇万円だった。 将来は売り上
げ一兆円の達成を目標としており、今後も企
業合併を積極的に行う方針だという。 イトー
ヨーカー堂やイオンなどの国内GMS、さら
にはウォルマートといった有力流通外資への
対抗策として経営規模の拡大を追求する、と
いう戦略を明確に打ち出している。 しかし「年
商一兆円を目指す企業としては、まだまだ物
流管理のレベルが低い」と西村部長は厳しく
自己評価を下している。
(夏川朋子)
51 APRIL 2002
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