ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年4号
特集
物流業の倒産と再建 フットワーク破綻後の365日

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2002 10 グローバル3PLへの転身 昨年三月に約一四〇〇億円の負債を抱えて経営破 綻したフットワークエクスプレスが新たな第一歩を踏 み出そうとしている。
六月一日、同社はオリックス、 セムコープロジスティクス、ワールド・ロジの三社が 設立した受け皿会社である「OSL」に営業を譲渡 する。
一九三八年創業の老舗物流企業は五月三一日 をもってその歴史に幕を閉じ、再建への道を歩み始め る。
現在、フットワークとOSLの間では目前に控えた 営業譲渡に向けて、社員の再雇用についての話し合い などの最終調整が急ピッチで進められている。
昨年三 月末の株主総会で社長に就任して以来、スポンサー 探しと経営の建て直しに追われてきた落合章男社長は 「六月一日に社員や拠点など経営資源がすべてOSL に譲渡されることになった。
ようやくここまで辿り着 いた」と胸を撫で下ろす。
一方、現場側の代表者であるフットワークエクスプ レス労働組合(運輸労連)の益田利幸中央執行委員 長は「もっとスピーディーに再建が進むと思っていた。
この一年間はあっという間のようで、とても長かった 気もする。
破綻以降、ドライバーたちは賃金カットで 苦しい思いをする一方、荷主さんに相当励まされたと 聞いている。
この仕事のやりがいのようなものを再確 認したようだ」と振り返る。
フットワークの暖簾(のれん)を引き継ぐOSLは 今年一月に設立された。
資本金は三五億円。
オリッ クスが二一億円(六〇%)、セムコープが九億円(二 六%)、ワールド・ロジが五億円(一四%)をそれぞ れ出資した。
OSLは現時点ではまだ「フットワーク の営業権の受け皿会社」という位置付けだが、いずれ は社名を変更し、物流企業として本格的な営業活動 を開始する。
近い将来にはネットワーク整備のための 増資も予定しているという。
OSLはグローバル展開する企業のSCM(サプラ イチェーン・マネジメント)を支援するGSCMC ( Global Supply Chain Management Corporation ) という業態を目指している。
シンガポール政府が出資 する半官半民の物流企業で、世界各国に倉庫などの インフラを持つセムコープの国際物流ネットワーク。
アスクル、ファーストリテーリング(ユニクロ)など の業務を通じて蓄積されたワールド・ロジの3PLノ ウハウ。
オリックスの金融サービス。
そして、フット ワークの国内ネットワーク――。
これらの機能をうま く融合させた次世代型のロジスティクスサービスを提 供していく計画だ。
とりわけ、「世界の生産工場」と して急成長を続けている中国と日本を行き来する貨物 にターゲットを絞っていくという。
OSLの出資企業の一社であるワールド・ロジの上 井健次社長は「卸業務や帳合いなどを含めた流通サ ービスの新しいビジネスモデルを作ろうと考えている。
ロジスティクスをベースにしたブリッジビジネスだ。
単 なる物流業者ではなく、卸や商社やサプライヤーとし ての機能も担う。
金融スキーム・プラス・ロジスティ クスというモデルを提供する企業を目指す」と説明す る(本号一四頁インタビュー記事参照)。
収益体質が改善された特積み事業 フットワークから引き継ぐ日本国内での特別積み合 わせ事業(路線事業)でも従来の戦略を改める。
採 算の悪い低いB to C(企業発個人)やC to C(個人 間)貨物には当面は手を出さず、B to B(企業間) 貨物の分野に特化する。
しかも、小口貨物でヤマト運 フットワーク破綻後の365日 昨年3月に経営破綻したフットワークエクスプレスの再建計画が まとまった。
同社は今年6月、オリックスなど3社による共同出資で 設立された「OSL」に吸収され、アジア各国を行き来する貨物をタ ーゲットに3PLサービスを提供する国際物流企業として再出発を切 る。
悪夢の倒産劇から1年。
スポンサー決定までの道のりは決して 平坦なものではなかった。
第1部 特集 物流業の倒産と再建 11 APRIL 2002 輸や佐川急便と直接ぶつかるのを避け、中ロット以上 の貨物の開拓に軸足を置くという。
集配や幹線輸送などの現業部分はOSL傘下に地 域別に設置する七つの作業子会社(社名は未定)が 担う。
現在、子会社を含め約四七〇〇人いるフット ワークの社員のうち、約四〇〇〇人がこの地域作業 会社に再雇用され、日々のオペレーションにあたる。
支店・営業所の管理職の大半はそのまま新会社に移 り、引き続き現場の指揮を執る。
特積みネットワークを形成する全国の支店および営 業所については、今後統廃合が進められる見通しだ。
特に拠点が集中している関東以西では現有の土地、施 設を売却してリース物件に切り替え、規模の小さい拠 点を統合して大型拠点を新設するなどの処置が取られ る。
逆にこれまで手薄だった関東以北では、同業者と の業務提携を進め拠点網を補完する。
もともと、フットワークの特積み事業は極端に収益 性が低いわけではなかった。
経営破綻はバブル期の過 剰な海外投資が主因であるとされ、本業部分である特 積み事業の建て直しは比較的容易に進むのではないか、 との分析もなされていた。
実際、特積み事業では既に単月収支が黒字化して いるという。
関係者によると、フットワークの直近の 決算(二〇〇一年十二月期)は売上高五一二億円に 対し、経常損失(赤字)が四億円だった。
経営破綻 前の二〇〇一年一月〜二月末までの収支は七億円の 赤字だったが、これを残りの一〇カ月で赤字四億円に まで改善した。
今後は雇用形態の見直しで人件費の圧縮がより一 層進む。
加えて、拠点の統廃合にも着手する。
OSL では特積み事業単体でも十分儲けを出せるという手応 えを掴んでいる。
スポンサー探しの誤算 フットワークは一九三八年に東播運輸の社名で創 業し、五一年には日本運送として日本で初めて神戸 〜東京間の直通長距離路線運行を開始した特積み事 業のパイオニアだった。
かつては西濃運輸、福山通 運とともに「路線御三家」と呼ばれ、戦後のトラッ ク運送業界のリーダー的役割を果たしてきた。
八〇 年代には宅配便「フットワーク」や産地直送便「う まいもの便」を開発。
「宅急便」を展開するヤマト運 輸への有力な対抗馬として目された時期もあった。
ところが九〇年に現在の社名に商号変更し、経営 の主導権が創業者である故・大橋實次氏から実子の 大橋渡氏に移ると、徐々に組織の歯車が狂い始めた。
九〇年代に大橋渡氏は海外物流企業やF1チームの 買収など派手な投資を続けた。
その額は四〇〇億円 にも上った。
結局、こうした投資のほとんどがバブル 崩壊で焦げ付き、経営を圧迫。
昨年三月四日、民事再生法の適用を申請し、事実上の倒産に追い込まれ た(二六頁特集第三部記事参照)。
そして、悪夢の倒産劇から一年と三カ月。
フットワ ークはようやく再建に向けてのスタートラインに立つ。
経営破綻からここに辿り着くまでの道のりは平坦では なかった。
最終的にオリックスとスポンサー契約で合 意に達したのは適用申請から約八カ月以上経った昨 年十一月十五日のこと。
過去の再建事例と比較して も、長い時間がかかっている。
その間、スポンサー候 補が現れては消えていく。
その繰り返しだった。
破産 という最悪の事態と常に背中合わせの状態で営業を 続けてきた。
昨年三月四日に民事再生法の適用を申請した時点で、 既に数社がフットワークに対する支援を検討していた。
二〇〇一年三月四日 大阪地裁に民事再生法適用申請(負債 総額約一四〇〇億円) 二〇〇一年三月八日 債権者説明会を開催 二〇〇一年三月一五日 大橋渡社長辞任 二〇〇一年三月三〇日 株主総会開催。
旧経営陣退任。
大橋前社長、粉飾決算を謝罪。
落合章男氏(専務)が新社長に就任 二〇〇一年四月 大橋氏の私財提供で会社側と和解成立 二〇〇一年四月三〇日 大阪地裁、再生手続きの開始決定 二〇〇一年五月二三日 日本政策投資銀行(DBJ)、フットワークに対しDIP ファイナンスとして二〇億円の融資枠を設定。
富士銀行 (現・みずほ銀行)とともに三億五〇〇〇万円ずつ(計七 億円)を融資 二〇〇一年七月三〇日 監督委員(佐伯照道弁護士)が粉飾決算に関する報告書を 大阪地裁に提出 二〇〇一年八月 スポンサー公募を開始    二〇〇一年一〇月十一日 オリックスに優先的交渉権を与えることで合意 二〇〇一年十一月十五日 オリックスと基本合意書を締結 二〇〇一年十二月二〇日 証券取引等監視委員会、証券取引法違反(虚偽有価証券報 告書提出)容疑で法人および旧経営陣ら六人を告発 二〇〇二年一月三一日 オリックス、セムコープロジスティクス、ワールド・ロジ が設立する新会社に営業譲渡することで合意 二〇〇二年六月一日 受け皿会社OSLへ営業譲渡 フットワークエクスプレスの 民事再生法適用申請以降の動き APRIL 2002 12 国内外の物流企業、運送周辺業務を手掛ける企業、フ ァンドなどだった。
これら企業とは三月四日以前から 水面下で交渉を進めており、フットワークとしては適 用申請直後にいずれかの企業が支援を正式に表明して くれることを強く望んでいた。
先行きの不透明さによ って荷主を失ってしまうこと、下請け物流業者の協力 が取りつけられなくなることなどを回避したかったか らだ。
しかし、期待は叶わなかった。
申立代理人を務めた 福森亮二弁護士は「経営破綻前後はフットワーク自 身にあまりにも不確定な要素が多かった。
事業は期間 損益で赤字を計上していたし、破綻と同時に荷主が 逃げてしまうのではないかという懸念もあった。
資金 繰りのメドもはっきりしていなかった。
こうした問題 もあって、スポンサー候補との話し合いはなかなか深 まっていかなかった」と述懐する。
スポンサーとしての支援要請を受けていた企業は、 フットワークの経営の不透明さに二の足を踏んでいた。
早い段階で支援要請を受けていたというある物流企業 の経営幹部は「決算書を見せられたが、とても信用で きるような内容ではなかった。
後から隠れた負債がど れだけ出てくるのか測りかねて、手を出せなかった」 と打ち明ける。
実際、経営破綻直後には、九二年から九九年までの 八年間にわたって、金融機関からの融資を継続させる 目的で粉飾決算が行われていたことが明らかになった。
粉飾額は約四二四億円。
大橋渡前社長はその事実を認 め、昨年三月末に開かれた株主総会の場で正式に謝罪 した。
この事件は一刻も早くスポンサーを見つけたか ったフットワークにとっては、大きな痛手となった。
ちなみに、この粉飾決算の事実を受けて、証券取引 等監視委員会は昨年十二月二〇日、法人としてのフ ットワークと旧経営陣ら六人を証券取引法違反(虚 偽有価証券報告書提出)の容疑で大阪地検に告発し た。
早晩、大橋前社長らは法の裁きを受けることにな る公算が大きい。
オリックスの登場 メーンバンクであるさくら銀行(現・三井住友銀 行)、さらに富士銀行(現・みずほ銀行)や政府系金 融機関である日本政策投資銀行などから、再建計画 がまとまるまでのつなぎ融資であるDIP(debtor in possession )ファイナンスを受けながら、フットワー クはスポンサー探しを続けた。
だが、状況は好転する どころか、むしろ悪化する一方だった。
「複数の企業から打診はあったが、格安であれば買 収を考えてもいいかなという程度で、必ずしも真剣に 声を掛けてきたわけではなかった。
案内を送っても機 密保持契約を結ぶ段階にまで至るケースは少なかった し、具体的な買収の提案もなかった。
言葉は悪いが、 冷やかし半分で資料を請求していると思われる企業も 少なくなかった」と福森弁護士は当時を振り返る。
結局、条件の折り合う企業を見つけることができず、 昨年八月にはとうとうスポンサーの公募に踏み切った。
スポンサーとして名乗り出る意思のある企業にそれぞ れ買収金額などを提示してもらい、一番条件のいい企 業に支援を要請する、というやり方である。
この入札に参加したのは国内外の物流企業などを 含む数社。
その中から選ばれたのがOSLの筆頭株主 であるオリックスだった。
物流業のオペレーションノ ウハウを持たないオリックスは当初から物流企業と手 を組んでフットワークを再建していくというスキーム を暖めていた。
昨年一〇月十一日にフットワークから 優先交渉権を与えられたのを受けて、オリックスの具 粉飾決算が明るみになり、フッ トワークのスポンサー探しは難 航した 昨年3月8日に開かれた 債権者説明会 特集 物流業の倒産と再建 13 APRIL 2002 体的なパートナー選びが始まった。
その一つとなったセムコープは、シンガポールをは じめ中国やインドなどのアジア地区を中心に、世界各 国に物流拠点を構えるグローバル企業である。
だが、 日本への進出は遅れていた。
ある金融関係者は「既に 二、三年前から日本国内にネットワークを持つ物流企 業を物色していた。
半官半民の企業ということもあっ て、セムコープには豊富な資金力がある。
手頃な案件 があればすぐにでも紹介してほしい、と頼まれていた」 という。
一方、ノンアセット型3PLを展開していたワール ド・ロジは、セムコープと組むことで国際物流への足 がかりができること、そしてフットワークの国内配送 網を利用できることに魅力を感じた。
最終的に、この二社がオリックスに加わるかたちで、 受け皿会社OSLが設立された。
両社が出資を決意 したのは、フットワークの収益体質の改善が予想以上 に早く進んでいたことも影響している。
前述の通り、 フットワークは経営破綻から数カ月後には単月収支の 黒字化を達成。
貨物量も前年比で八〇〜九〇%の水 準を維持している。
予想されたより落ち込みが少なか ったことが両社の背中を後押しした格好となった。
労使問題にメド 多くのスポンサー候補が不安材料の一つとして挙げ ていた労使問題が解消される方向で進んでいたことも プラスに働いた。
フットワーク労組の益田委員長は 「建交労(旧・運輸一般)との一本化には努力した。
昨年三月の時点で建交労の組合員は九〇人近くいた が、昨年九月の段階でその数は一〇人程度にまで減 った。
現在も四つの労組が存在するが、運輸労連以 外の三労組の組合員数は合計で三〇人弱にすぎない。
ほぼ一本化していると言えるだろう。
スポンサーであ るセムコープによるヒアリングの場でも、労組が四つ あると現場でのオペレーションに問題が生じるのでは ないか、と指摘されたが、私は自信を持っていっさい 支障はないと答えた」と説明する。
こうした紆余曲折を経て、フットワークはようやく 再スタートまでこぎ着けた。
ただし、再建が成功する かどうかは、まだ未知数だ。
OSLの経営展開につい て、野村証券金融研究所の北見聡運輸担当アナリス トは「OSLが狙う中国の物流市場は確かにマーケッ トとしての規模は日本とは比べものにならないくらい 大きい。
だが、既に多くの物流企業が中国に進出して おり、激戦区となっている。
利益を出すのは容易なこ とではない」と指摘する。
営業黒字化を達成した特積み事業でも今後は苦戦 を強いられるだろうという見方が出ている。
B to Bの 中ロット貨物の市場に西濃運輸や福山通運といった 有力企業がひしめいている。
市場では運賃のダンピング競争が依然として続いている。
「フットワークには 採算を取りにくい嵩モノや長尺モノなどのゲテモノと 呼ばれる貨物しか開拓の余地が残されていない。
特積 み事業の有力プレーヤーとしての復活は難しいだろ う」(物流コンサルタント)と危惧されている。
六月一日付けで営業権をOSLに譲渡した以降も フットワーク本体は債権の弁済を進めていかなければ ならない。
OSLから支払われる「のれん代」がその 原資となる。
「OSLの営業成績が計画を上回った場 合には、約束した金額よりも高いのれん代がフットワ ークに支払われる契約になっている。
この契約は四年 後の決算まで続く」と福森弁護士は説明する。
物流 史上最大の負債を抱えて倒産したフットワークの再建 は始まったばかりだ。
フットワーク労組の増田利幸 中央執行委員長

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