ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年4号
特集
物流業の倒産と再建 日本にも再建のプロが育っている

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2002 22 必ずプロに相談しろ ――弁護士にとって倒産案件は、通常の訴訟案件とは かなり仕事の性格が異なるものなのですか。
「ええ、違いますね。
倒産の処理を手掛けると、そ の会社を再建すべきなのか、清算すべきなのか。
再建 するのであれば、どういう風にリストラをしなければ いけないのか。
法律的な問題だけでなく、そうした経 営的、経済的な判断を下していく必要があります」 ――多くの企業は顧問弁護士を抱えています。
彼らに は倒産処理はできないのでしょうか。
「通常の顧問弁護士の仕事は訴訟事件の処理です。
訴訟事件の場合は、月に一度か二度、弁論期日をこ なしていればそれでいい。
しかし倒産の処理でそんな ことをしていたら会社は潰れてしまう。
(倒産という のは)一種の修羅場です。
黙っていれば債権者が会社 にラッシュしてくる。
取引業者は離散してしまう。
こ うした修羅場を取りまとめるのはプロフェッショナル でなければ難しい」 ――倒産した会社を再建すべきか、清算すべきかとい う判断は弁護士よりむしろ経営者こそ一番よく理解し ているのでは。
「あなたは経営者が一番わかっているというけれど、 実際には経営者というのは希望的観測に基づいて動い ていることが多い。
だから経営陣だけで相談していた のでは駄目で、倒産案件のプロの弁護士に相談すべき です。
近頃はやりの『ファイナンシャル・アドバイザ ー』に相談するという手もある。
メリルリンチだとか モルガン・スタンレー、プライスウォーターハウスク ーパースといった会社です。
日本系としては野村企業 情報などがあるし、最近では銀行も事業再編室のよう な部門を設けている。
そうした部署には弁護士ではな い企業再建のプロが育ってきています」 「経営者が希望的観測に基づいて行動すると、結果 として、傷が深くなりニッチもサッチもいかなくなっ てしまう。
そうなる前に処理できれば傷も浅くて済む わけですから、やはりプロに早くアドバイスを求める べきでしょう。
うっかり銀行に相談したことで融資を 引き上げられてしまうなんて事態も考えられなくはな いけれど、早めにリストラを開始することで回避でき る倒産もある。
結果的に潰すとしても、早めに手を打 つ意味は大きい」 経営者が残れる新・会社更生法 ――運輸業界では昨年三月のフットワークの倒産が非 常に大きな出来事でした。
同社の場合、倒産の処理 方法としては会社更生法ではなく、民事再生法が選 択されましたが、その根拠がよく理解できません。
「民事再生法というのは九九年に成立して、二〇〇 〇年に施行された非常に新しい法律です。
今の時代に 合わせてスピーディな処理ができるようになっている。
これに対して会社更生法とは一九五一年にできた法 律で、ある意味で非常に重たい面がある。
それと民事 再生の場合は、ただちに経営者が追放されるわけでは ありませんので比較的入りやすい。
つまり民事再生法 の方が軽便な手続きで、重厚長大ではないため、皆さ んが駆け込む」 「ただし会社更生法も、もっと利用しやすくしよう と現在、改正の途上にあります。
今年中には改正会 社更生法ができて、来年の四月一日から施行というこ とになるでしょう。
これによって会社更正法もかなり 利用しやすくなるはずです。
本来は担保債権者が担保 権を実施できなくなる会社更生法の方が、再建のため の武器は多い。
そのかわり、これまでは経営者の交代 「日本にも再建のプロが育っている」 日本では倒産の後始末を弁護士が担ってきた。
米国のよ うな再建のプロが存在しなかったためだ。
ところが最近では 状況が変わりつつある。
倒産関連の制度の拡充も進められて いる。
斯界の第一人者に、倒産に直面した際の経営者の心 構えなどを聞いた。
獨協大学 高木新二郎教授 Interview 特集 物流業の倒産と再建 23 APRIL 2002 が前提条件になっていた。
今度の改正会社更生法で は、その点も変わります」 「例えば会社更正を申し立てする以前から、まった く新たな経営者を送りこんで再建をしてきたけれども、 駄目だったというようなケース。
こうした会社がやは り会社更正法を使った方がいいと判断した場合には、 そのまま取締役が管財人になれる制度を作ります」 ――法的整理の他にも、倒産には私的整理や清算など といった手法があります。
最終的にどういう処理方法 を選択するのかは、誰がどういう枠組みの中で決める のでしょうか。
「相談を受けた公認会計士や弁護士、さらにそこか ら相談を受けたファイナンシャル・アドバイザーなど と経営者が協議をして、どれにするかを決めます。
し かし、その選択が果たして適切であったかというと、 ご承知のようにいろいろと問題がある。
マイカルのよ うに、途中で民事再生から会社更正に乗り換えないと 再建できないといったケースも出ているわけです」 「(私が座長としてまとめた)『私的整理のガイドラ イン』でいうところの私的整理とは、銀行関係の債権 さえ整理してもらえば再建できるケースです。
企業価 値や事業価値が損なわれないうちに再建できるわけで すから、取引債権者が影響を受けない。
本当はこのや り方が望ましいんです。
市田の例にしても、岩田屋の 例にしても、取引業者はみな自分らの債権は大丈夫と いうことで安心しています。
岩田屋の場合は、さらに 伊勢丹がつくということで余計そうなっています」 ――法的整理をする際の、保全管理人とか更正管財人 はどうやって決まるのでしょう。
「会社更正の保全管理ないし更正管財人(法律家管 財人)は、やはり倒産再建のプロが担います。
法律だ けではなくて、経営的なことを即断即決できる能力を、 ある程度、備えている人でなければ務まりません。
そ ういう人材を日頃から裁判所が把握していて頼むとい う形です」 ――ということは倒産企業の立場では、法的整理を裁 判所に申し立てて、その後にどういう人材が管財人と して送りこまれてくるのか分からないのですか。
「分かりません。
その点が会社更生法の場合は不確 定要素になる。
これに対して民事再生法であれば経営 陣は追い出されませんので、先が読める。
だから安心 してやれるという面はあります。
そういうことから民 事再生に駆け込むケースが多いということはある」 ――しかし、裁判所から任命されてきた弁護士が、い きなり知らない会社の経営の指揮をとり、スポンサー 探しまでするというのは簡単ではありませんね。
「もちろん大変なことです。
ただ保全管理人とか更 正管財人というのは、いわば混乱期を救う役割を負う 人達で、落ち着いたら去っていきます。
その後はファ イナンシャル・アドバイザーや、会社更正のスポンサーと相談して決めればいい。
ですから、特定の業界な どに精通しているのに越したことはないのですが、そ れがすべてではない。
むしろ業務に精通した人材を探 すのも保全管理人の大事な仕事の一つです。
混乱を 鎮めながら、事業の価値を損ねないよう、つなぎの役 目を果たしていくというのが保全管理人です。
その間 に再建への道筋をつけるわけです」 「本当は、弁護士ではなくて再建を手掛けるプロの 経営者がいれば一番いい。
実際、人材の流動性がある アメリカにはそういう人達がたくさんいる。
流通業界 の再建に詳しい人、自動車業界に詳しいプロ経営者 といった人材が豊富にいます。
彼らは巨額の報酬をと る再建のプロです。
まあ、日産のゴーンをプロの再建 屋にしたみたいなものですよ」 APRIL 2002 24 「最近ようやく日本でも、そういう人達が育ってき ました。
政策投資銀行が作った『日本みらいキャピタ ル』などの事業再生ファンドがそうです。
元興銀のプ ライベート・エクイティ部長だとか、メリルリンチの アナリストだとか、四〇代の人達が数人集まって彼ら を核としてスタートした会社です」 「これまでの日本には、こうした再建専門家のよう な人達がいなかったから、僕らのような弁護士がやっ てきたわけです。
自分でいうのもなんだけど(経営の 分かる)?法律バカ〞ではない方の弁護士がね。
ただ、 元々は法律屋ですから、自ずと限界がある。
本来であ れば再建のプロがやった方がいい」 日米で異なる倒産・再建事情 ――アメリカの話が出ましたのでお伺いしたいのです が、「チャプター 11 (米連邦破産法 11 章)」だと敗者復 活がしやすいという話をよく聞きます。
日本の倒産関 連の法律の枠組みとは、だいぶ異なるのでしょうか。
「一般的に米国では敗者復活がしやすいと信じられ ていますが、実際にはそうでもありません。
米国でも 倒産責任のある経営者は、大企業の場合にはほとんど 交代している。
米国では社外重役制度があるため、取 締役も多くは社外の人達です。
僕が先日手掛けた協 栄生命のスポンサーのプルデンシャル生命だって、取 締役には連邦準備銀行のグリーンスパンなどのお歴々 が名を連ねている。
そういう人達に財務内容を開示し て、このままでは経営が危ういということになれば、 彼らが経営者を変えてしまう」 「米国では銀行の役割も違います。
日本の銀行は、こ れまで土地担保の上にあぐらをかいてきて、今になっ て中小企業からどんどん資金を引き上げたりして非難 されている。
結局、担保価値が減ると、担保に頼って いるから与信限度が減ったといって資金を引き上げざ るを得ない。
本来のお金の貸し方とは、その企業の収 益性に着目して、それをモニターしながらやっていく というものです。
土地が下がったとか、上がったとい う話ではない」 「同じ貸すにしても、米国では財務比率をある水準 に保っていなければ駄目だとか、経営はこうなってい なければいけないという基準がある。
これを定期的に 検査をしながらチェックしている。
こういった約束を 守らないで、キャッシュフローが落ちこんでいるのに 有効な対策をとらない、あるいは過大な債務を負担し たというような場合にはデフォルト宣言をする。
日頃 から経営をモニタリングしていて、『おたく危ないん じゃないの』ということを銀行が言う」 「今度のエンロンの件ではボロを出したけど、米国 ではそういった早期発見のシステムが働いているから こそ、早い段階で経営者の交替も起こる。
特に大企 業の場合は、チャプター 11 の申し立て前後に九〇%以 上の経営者が変わっています。
企業の敗者復活という 意味では確かに米国はやりやすいけれど、経営者が残 れるかといえば必ずしもそうではありません」 ――日本と米国では、企業の経営危機を早期発見する 仕組みが違うということですね。
「先ほども言ったように、日本の場合は経営者が希 望的観測でやるから発見が遅れる。
例えば、米国でチ ャプター 11 を申し立てたシンガーミシンという会社は、 その二年前に経営者を替えてリストラに取り組んでき た。
そのうえで最終的に撤収コストのかからないチャ プター 11 を選んだ。
そうやって生き残っている会社が あるわけです」 「米国では、早期に発見して、早期に手当して、い ろいろな再建策をプロと相談しながら進めている。
と 特集 物流業の倒産と再建 25 APRIL 2002 ころが日本の長谷工や大京などのケースでは、三月 の年度末を控えて、金融庁から早く不良債権を処理 しなさい、処理しなさいと言われて、ようやく重たい 腰を上げた。
それで慌ててやるから余裕がないわけ です」 ――フットワークの倒産では、同社の正社員の労働債 権は保全されるのに、下請け企業の労働債権はまった く保護されない。
納得できないという見方があります。
「それは建設業の倒産でも常に問題になる話です。
と くに建設業では下請けの下請けのそのまた下なんて会 社になると?人夫出し〞みたいなものでね。
労働者に 渡す人件費にプラスアルファして親方が作業費をもら い、そこからピンハネして労働者に分けるという構図 になっている。
その労働者の人件費が保護されないの は問題ではないか、という話です」 「ただし、(人夫出しをしている親方が)儲かっている ときは経営者で、損したときには労働者の顔をするの は、ちょっと虫が良すぎるという話もある。
リスクを とるのが経営者だろうということですよ。
僕は建設業 の倒産を処理するたびに、そう言ってきました。
ただ 立場の差が微妙になってくるため、ちょうど狭間にい る人達が気の毒であることは間違いない」 連鎖倒産を防ぐ ――今後も下請け業者の人件費が労働債権として保護 されることにはならないのでしょうか。
「その辺は実態に即して対応すべきでしょうね。
例 えば、さきほどの?人夫出し〞をしている建設業の親 方の話でいくと、ピンハネする分は駄目でも、実際に 人夫に支払っている分については実質的に労働債権だ から、労働債権として扱うという処理もできないわけ ではないと思う。
中小企業の債権は、会社更正法でも 特例として扱っていいことになっています。
民事再生 でもある程度は、そうなっている。
あくまでも実態に 即して判断するということです」 ――取引先の倒産に直面した企業は、どういう態度で 対処するのが望ましいのでしょうか。
「下請けなどについては、(売掛金は)一般債権にな ってしまいます。
金融機関のように再建を左右する力 もない。
結局は成り行きをみて、大口債権者にいろい ろとやってもらうしか方法はありません。
理想を言え ば、連鎖倒産を防ぐのも経営ですから、日頃からそう いうことを覚悟して一社依存の体制にならないように することが大切でしょう」 「だけど、例えばね、手形で取引をしていて、サイ トが四カ月だとすると、ひっかかるのは売掛金の一カ 月分と合わせて五カ月分です。
ところが倒産企業が再 建計画を進めるときに引き続き下請けとして使っても らえれば、あとは現金取引か、それに近い状態にな る」「五カ月分の債権だけを棚上げしたと思えば、少な くても再建手続きをしている間は、仕事量に応じて自 分の方もリストラをするなどすれば、何とか回してい くことができる。
旧債については、関連倒産防止のた めのいろいろな制度がありますから、それで手当する ことで一応、連鎖倒産は防げる。
ただし再建できたと しても、五カ月分の債務のうち返ってくるのは五%な のか、一〇%なのかわかりません。
いずれにしても、 残りの九割については、儲けをカットして諦めるしか ありません」 ――経営者はそうしたリスクも覚悟の上で会社の舵取 りにあたれということですね。
「そりゃ、そうですよ。
儲かっているときだけが経営 ではありません。
損するのも経営ですからね」 たかぎ・しんじろう1935年生まれ、63年弁護士登録、87年法政大 学兼任講師、88年判事任官・東京高等裁判所判事、89年東京地方裁 判所判事(部統括)、95年山形地方・家庭裁判所長、97年新潟地方裁 判所長、98年東京高等裁判所部統括判事、2000年3月判事依願退官、 2000年4月獨協大学法学部教授、弁護士活動も再開し現在に至る。
最 近では全銀協や経団連がまとめた「私的整理のガイドライン」研究会座 長、「企業更正研究会」座長を歴任、2001年には協栄生命の更正管財 人を務めた。
『アメリカ連邦倒産法』(商事法務研究会)、『破算和議の基 礎知識』(青林書院)、『倒産法の改正と運用』(商事法務研究会)、『随 想・弁護士任官裁判官』(商事法務研究会)など著書多数 PROFILE

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