ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年5号
keyperson
鎌田正彦 エスビーエス 社長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

1 MAY 2005 KEYPERSON 市場の顔ぶれが変わる ――エスビーエスを始め日本の物流業 界にもベンチャー企業の台頭が目立っ てきました。
「戦後の物流業界で大きくなった会 社といえばヤマト運輸と佐川急便だけ。
後は日本通運、西濃運輸、福山通運 といった形で業界内における位置付け はずっと固定化されていました。
これ には経営者のやる気や能力の問題も もちろんあるけれど、規制の影響もあ った。
物流業界は規制に守られていた ために順位の変動がなかなか起きなか った。
業界内でそれなりの地位にいれ ば、無理をしなくても皆が食べていけ ました」 ――しかし、それも昔の話です。
「今でも保有車両台数が五台程度の すのは非常にしんどい。
それが日本の 物流市場の構造でした」 ――今では中堅だけでなく株式を上場 させている特別積み合わせ事業者、老 舗路線業者の経営も苦しくなってい ます。
路線業自体が時代に合わなく なってきた。
陳腐化したという可能性 は? 「それはあり得ない。
路線業者が儲 かっていないのは業態として陳腐化し たからではなく、努力をしていないだ けでしょう。
路線業というのはトラッ クの荷台をいっぱいにすれば利益が出 るような運賃になっている。
利益が出 ないとすれば密度がないか、あるいは 管理コストが高いから。
ところが老舗 の路線業者には自分たちで積極的に 営業して新規顧客を獲得するという 感覚やアイデアが全くない」 ――それでも生き残っています。
米国 では物流業の規制が緩和された一九 八〇年以降の一〇年間で、業界大手 の顔ぶれが一変しました。
しかし日本 の場合は「物流二法」によって規制 緩和が実施された九〇年以降も、フ ットワークの破綻以外に大手の顔ぶれ や順位に大きな変動がありません。
「経営破綻するまで経営者が引っ張 ってしまうからです。
これまで何もし なくても社長として食べてこられただ けに、その立場に安住したがる。
儲か らないなら同業他社との経営統合や 他社の傘下に入ることを考えるべきな のに、そうした発想になかなかならな い。
その結果、経営破綻して初めて 売りに出て、やっと再編へという動き になる」 ――破綻した後で、身売りとなれば捨 て値になってしまう。
「その通りです」――エスビーエスやハマキョウレック スなどの新興勢力もまだ年商一〇〇 〇億円クラスには達していません。
し ばらく大手の勢力図に変化はなさそう ですか。
「これから変わります。
一つは郵政 公社の民営化です。
このまま郵政が 民営化されて、日通よりも大きい会 社が物流業界に放たれることになれば、 業界に大激震が走る。
郵政は大変な 最も小さな運送会社は管理コストが かからないため存続できる。
苦しいの は売上高で二〇億円から一〇〇億円 ぐらいの中堅規模の会社です。
私自 身もその規模の時代を経験してきたか らよく分かりますが、二〇億円程度の 会社というのは信用力がない。
担保が ないと銀行の融資も得られない。
リー スもきかない。
そのため資金繰りが一 番苦しい」 「中堅ともなれば、荷主には大企業 も増えてくる。
大企業になればなるほ ど、支払いサイトは長くなる。
それに 耐えきれなくなった中堅企業は結局、 大手物流企業の下請けに回って与信 を頼るようになる。
そうなると儲かる のは大手だけで、そこで成長はストッ プしてしまう。
二〇億円程度の会社 を一〇〇億円以上に伸ば 鎌田正彦 エスビーエス 社長 THEME 「 物 流 市 場 も M&A 時 代 に 突 入 し た 」 軽トラックを活用したエリア集配で事業を拡大。
二〇〇三年十 二月にジャスダック上場を果たした。
以降、雪印物流を始め、引 越専業者、WMSベンダー、産業廃棄物業者など、公開益を元手 に矢継ぎ早に物流関連企業の買収を進めている。
近く物流子会社 の大型買収にも乗り出す計画だという。
(聞き手・大矢昌浩) MAY 2005 2 自己資本を持ち、土地も建物も全て 税金でまかない、その上で今のうちに と、膨大な設備投資をしています」 「今後、正式に民営化されれば民間 企業の買収を始め、ドイツポスト以上 に激しい攻勢をかけてくることになる。
そのことを物流業界は全く分かってい ない。
自分たちのマーケットに、あれ だけの巨人が足を踏み出してくること を、おかしいと感じていない。
その意 味でヤマト運輸の姿勢は評価できる。
ヤマトは私と同じ危機感を抱いている と思います」 ――ヤマトとのケンカも、郵政に分が ありそう? 「私も郵政の首脳陣と話をすること がありますが、彼らはそういうレベル では考えていない。
単に宅配貨物だけ でなく一般の商業貨物まで取り込む。
その上で中国を始め海外にも進出す る。
民営化されていない現段階でも、 既に宅配貨物を取り込むために3P L事業まで手掛け始めた。
いずれ敷 地内に印刷工場まで持つことになるで しょう。
正式に民営化された暁には、 空いた土地に倉庫を建てて本格的な 3PL事業にも乗り出すはずです」 「私が郵政の経営者だったら丸の内 を始めとした一等地にあるオフィスは、 どこかに引っ越して建物を賃貸に回す。
それだけでも大変なキャッシュフロー が生まれる。
それこそ何でもできるわ けです。
ポスティング事業を手掛けて いて痛感するのですが、民営化された といっても国がやっていたサービスと なると、顧客の信頼感が違う。
物流 業界は郵政の民営化について、もっと 議論すべきだったと後悔することにな るでしょう」 ――国際インテグレーターによる買収 攻勢は? 「もちろん、それもある。
ただし私 が見る限り、まだ日本の経営者は欧 米流のドラスチックな改革を受け入れ られない。
買収される側には、売却先 は?黒い目〞の経営スタイルでないと ダメという意識が強い。
それでも日本 の物流企業のPBR(株価純資産倍 率)が今のように低いままであれば、 外資系が敵対的買収をかけてくる恐 れは充分ある。
実際、上場している大 手物流企業のPBRは日通やヤマトな どの一部を除いて、ほとんどが一倍を 切っている。
乗っ取り屋の目で見れば、 買収するだけで資産が転がり込む状 態です」 ――しかし、物流企業の株価が解散 価値を割っているのは、それだけ保有 資産に傷がある、含み損があるからで は? 「そんなことはない。
仮にも株式を 公開している企業であれば、含み損は 既に処理しています。
株価が安いのは 資産が傷んでいるからではなく、マー ケットに期待されていないから。
株式 市場は基本的に美人投票です。
皆が キレイだと言う人に票が集まる。
その ためにライブドアや楽天は常に新しい 展開を打ち出して成長ビジョンを掲げ、 それをインベスター・リレーションズ (IR)を通じて投資家に投げかけて いる」 「物流企業はどうか。
毎年ずっと同 じ売上高、同じ利益率、新しい展開 もない。
そんな会社の株を買おうと思 う人はいないから、出来高がない。
自 然と株価は下がる。
結果として解散 価値すら維持できない会社が並んでい る。
こうした会社は外資系企業にいつ TOBをかけられてもおかしくない。
二〇〇億円の純資産を持つ会社が一 〇〇億円で買えるということになれば、 誰も放っておかない」 物流子会社再編が本格化 ――もう一つ、日本の物流業界には物 流子会社が多いという特徴があります。
これも従来から、整理の必要を指摘されていましたが、あまり目立った動 きがない。
「物流子会社の再編は路線業者の再 編よりも先になる。
今年中にもいくつ も現実化します。
当社自身、検討し ている案件があります。
近いうちに発 表できると思います」 ――何が変わったのですか。
「一つには連結会計、そして減損会 計の影響が大きい。
かつては損失を子 800 700 600 500 400 300 200 100 0 12 10 8 6 4 2 0 売上高 経常利益 エスビーエス 企業概要  1987年に関東即配を創業。
運輸業規制の対 象外となっていた軽トラックを活用したエリア 集配業を開始。
首都圏に密度の高いネットワー クを構築した。
88年、社名を総合物流システム に変更。
98年に再びエスビーエスに社名変更。
2003年12月、ジャスダック上場。
2004年6月、 雪印物流を買収。
同8月、ゼロ(旧・日産陸送) の株式の15.78%を取得。
同10月、物流IT ベンダーのビックバン買収。
その後も矢継ぎ早 に物流関連企業の買収を進めている。
162.94 183.7 193.59 451.23 684.16 2001年 12月期 2002年 2003年 2004年 2005年 (見込み) 売上高 経常利益 エスビーエスの業績推移 (連結・億円) KEYPERSON 3 MAY 2005 会社に飛ばすことができた。
それがで きなくなった以上、親会社も負の遺産 は切り捨てるべきだと考えるようにな っている。
もう一つが本業回帰。
例え ば薬品会社であれば、今や欧米との大 競争を生き残るために莫大な研究開発 費を投じなければならなくなっている。
グループ会社の投資に資金を回す余裕 はない。
連結経営になった以上、子会 社自身が負債を増やすことにも目をつ ぶることはできない。
結局、資本関係 を切って、独り立ちさせるしかない」 ――しかし、そうした事情は九〇年代 の末に日本の大手企業が軒並み赤字 に陥った時にも同じだったはず。
それ でも子会社を切る親会社はいなかった。
当時と比べれば、むしろ今のほうが親 会社の懐にも余裕がある。
「それだけ日本企業の競争がグロー バルになってきたということだと思い ます。
九〇年代までは基本的に国内企 業との競争だった。
それが二〇〇〇年 以降、本当の意味でグローバルスタン ダードを要求されるような環境になっ てきた。
従来の経営のスピードではも はや間に合わなくなってきた」 ――そうなると日本の物流市場を変え ていくのは郵政と国際インテグレ ーターですか。
「そして三つ目が我々のような新興 企業です。
当社は株式市場に対して五 年で年商二〇〇〇億円に成長すると 説明しています。
もともと私が上場を 目指したのも、株式公開で得た資金を、 買収に充てようと考えたからでした。
実際、雪印物流やダック引越センター の買収、ゼロとの提携などに使ってき ました」 「そして上場して信用力が出来たこ とで、今では必要な資金を銀行から有 利な条件で調達できるようになりまし た。
良い案件があれば、いつでも買収 できる環境になっている。
上場を本当 に意識したのは九〇年代の後半でした が、当時描いたシナリオ通りにこれま で展開してきました」 ――今後、買収の対象となるのは、ど のような会社ですか。
「当社の間尺に合うのならどんな会 社でも構わない。
当社は何でもできる 物流会社、総合物流企業を目指して います。
ハガキから戦車まで運べる。
海外もやる。
コンサルティングもやる。
そうした機能別の会社をホールディン グカンパニーの下に統合するというビ ジョンです」 ――「総合物流企業」というビジョン には手垢のついた印象を受けます。
バ ブル時代には大手特積み業者が軒 並み総合物流を看板に掲げていました が、結局、総花的になって失敗しまし た。
その後、「選択と集中」にトレン ドは移りました。
「確かに特積み業者は総合物流を目 指すといって事業分野を拡大し、結果 として大企業病に陥ってしまった。
決 済一つに一カ月もかけているようでは 事業は動かない。
その姿を見てきたの で、私は一つひとつの組織は大きくし ないほうがいい、スピーディに経営す るために、権限を移譲した連邦経営に しようと考えたんです」「また一口に物流と言っても、そこ には人材ビジネスや金融ビジネスなど 様々なサービスが派生してくる。
それ を一つひとつホールディングカンパニ ーの下に加えていくことで、当社は総 合的なサービスカンパニーになれる。
それを実現する上で、現時点では物流 企業を買収するのが一番の近道だと考 えている。
その意味で物流は一つの切 り口に過ぎません」 ファンドに経営はできない ――それでもエスビーエスの事業のベ ースとなっているのは、今も首都圏に 特化した密度の高い集配網です。
「もちろん今でも当社のドメインは首 都圏の集配網です。
それを今後は他に 地域にも展開していく。
ただし ヤマトや佐川のようなモデルはとらな い。
今から当社が宅配便の全国インフ ラの整備に乗り出しても勝ち目はない。
全国翌日配送ではなく、エリア内で動 くB to Bの小口貨物を対象にします」 ――今後、エスビーエス自身がライブ ドアのような敵対的な買収をしかける 可能性は。
「そのつもりはありません。
敵対的に 買収して会社に乗り込んでいって、言 うことを聞けといっても人は動かない。
よほど小さい会社で器だけ買えばいい という場合や、逆に日通やヤマトクラ スのような組織が出来上がっている会 社であればTOBも成り立つかも知れ ない。
中堅クラスでは難しい」 「実際、これまで当社が買収したの は先方から要請を受けた会社ばかりで す。
当社のほうから売ってくれといっ て乗り込んでいったケースはない。
自 分としてはホリエモンとは逆。
それこ そ?白馬の騎士〞のつもりです。
しか も我々は物流のプロ。
その会社がどん な状態にあるのか、どうやったら儲かるのか、現場を見れば分かる。
問題を 見つけて解決する力があります。
そう した力のないまま、財務諸表だけを見 て判断しても買収は失敗する。
だから 投資ファンドの買収は上手くいかない んです」

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