ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年7号
特集
物流会社負け組の処方箋 いずれ物流子会社は消えてなくなる

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2002 34 脱・日産で社風が一変 ――バンテックの経営陣が親会社の日産自動車から株 を買い取って一年余りが経過しました。
まず今年三月 期の決算内容から教えてください。
「二〇〇二年三月期は年金債務を一括償却したので、 最終損益は三五億円の赤字です。
ただし、売上高は 七〇七億円で前期比五・四%増。
営業利益は約一九 億円と約倍増しました。
当初の計画よりずっといい数 字でした」 ――MBOの前に予想していたことと、何か違いがあ りましたか。
「これまでの当社は極端なことを言えば日産だけを 見ていればよかった。
黙っていれば仕事が降ってきた ので、お客さんに何ら自分の会社のPRをする必要も なかった。
でも今はそうはいかない。
まず会社の名前 すら誰も知りませんので、PRをしなきゃいけない。
その時に何がセールストークになるのか。
何が得意技 になり得るのか。
その得意技の腕を磨いて、外に持っ ていかなければならない。
やらなければいけない仕事 がすごく増えました。
それらを整理して目標を達成し ていくのは、かなりの力仕事です。
もともと予想はし ていましたが、それ以上に力を必要としました」 ――一年前と会社の空気は変わりましたか? 「全然違いますね。
最近、お客さんから『おたくは 社員がみんな会社の中を走り回っていますね』と言わ れるようになりました。
自分では気が付いていなかっ たので、そう言われて驚いたんですがね。
もう日産に は頼れない。
自分たちで努力しなくては生きていけな いと、皆が自覚している」 「これまでは、カネが余れば親会社に吸い取られる。
人を雇ってくれないかと言われれば、それも断われな い。
その代わり、決算の数字だけは何とかしてもらえ るという会社でした。
だから赤字決算が一回もなかっ た。
しかし親会社からの天下りが、そういう調整ばか りしているのを見れば、どんな従業員だって一生懸命 働こうとは思いません。
だからみんなのんびり歩いて 仕事をしていた。
でも今はそうはいかない」 ――経営層も変わった? 「もちろんです。
同じ人でも全く違う。
当社の経営 層はMBOで皆、株主になった。
これで経営というも のに対する気持ちが驚くほど変わりました。
自分に対 するリターンが違いますからね。
人事報酬制度を変更 したことも影響しています。
同じ部長クラスでも人に よって最大で年収が二七〇万円も違う。
役員となると、 さらに大きく違ってくる」 「従来はポストがイコール収入だった。
やろうが、や るまいが一律。
だから取締役会一つとっても、形を整 えるだけのやる気のないものでした。
そもそも身内の 集まりで話をするだけなら取締役会など全く意味がな い。
やはり経営陣には株を持たせるべきです。
責任を 持って経営をさせなければいつまで経ってもダメです」 ――そもそもバンテックがMBOを実施したのは、日 産のカルロス・ゴーン氏に株式の売却を通告されたか らだと聞いています。
ゴーン流の系列破壊は正しかっ たというお考えですか。
「ゴーンの言っていることは基本的には間違ってい ない。
従来型の系列に安住するのはもちろん良くない。
しかし、既に出来上がっているものを、わざわざ破壊 に導く必要もないと思う。
子会社が良いか悪いかにつ いて、即答はできません。
子会社であっても競争力が あって自立できるのであれば全く構わない。
資本的に つながっているかどうかということは本質的な問題で はありません」 「いずれ物流子会社は消えてなくなる」 日産自動車の物流子会社だったバンテックが系列を離脱して1 年が経過した。
子会社の経営陣が親会社から株式を買収するMBO という手法を使っての独立だった。
バンテックの経営陣は金融機 関から買収資金を集めるとともに、自らも約3億円という身銭を 切った。
これで会社がガラリと変わった。
バンテック奥野信亮社長 Interview 35 JULY 2002 特集 物流子会社 「当社自身、オペレーションの子会社を持っていま すが、今のところ日産のようにキャッシュの面で困っ ているわけではないから、子会社を売るなんていうこ とはしない。
ただし、同じ種類の企業と比べて競争力 があるから子会社を使うのであって、資本的につなが っていようがいまいが、競争力がなくなったら違う会 社に仕事を出す。
その結果、赤字になった子会社はい らないということになる」 「原点は子会社だの系列企業だのということではな く、競争力のない会社は淘汰されるということです。
企業体であるかぎり黒字にしなくてはダメです。
しか も月次決算で黒でないとダメ。
赤字の月が出てくるよ うな会社はいらない」 系列離脱後に日産の仕事が増加 ――年次決算で帳尻が合えばいいのでは。
「いや、毎月黒字がでるような競争力のある強い会 社でないと、生きていても意味がない。
例え一月でも 赤字になったら、それを取り戻すのは大変です。
それ が経営というものです」 ――しかし、現実には赤字決算の企業でも延々と生き 伸びています。
「そうです。
だから本来儲かるはずの企業が儲から ない。
儲かっても他の系列会社を救うために儲けを持 っていかれている。
今や日本はどんな業界も供給過剰 になっています。
運送業界で五万数千社。
建設業界 では五〇万社ですよ。
それでも自民党は赤字企業を潰 すななどという。
外国から『日本は社会主義国だ』と 言われるのも当然です。
日本は公平であり過ぎる。
公 平と公正では意味が違います。
私は仕事をした人は大 金持ちになってもらって結構だと思う。
その代わり競 争力のない会社は店をたたむべきです」 ――MBOの後、日産の仕事はむしろ増えたようです ね。
系列が外れたのだから、仕事を減らされるのが普 通だと思いますが。
「ボリュームとしては増えました。
独立前から当社 は色々な合理化を実施してきましたから、まともに競 争しても負けるはずはないと踏んでいました。
もちろ ん当社にも弱い所はありますが、強いところは資本関 係にかかわらずしっかりと取る。
ただし、仕事のボリ ュームは増えても、大きく値引きさせられているから 売り上げとしては横ばいぐらいです。
昔の値段と比べ て四〇〜五〇億円分は安くなっています」 ――この一年を振り返って、うまくいかなかった部分 はありますか。
「新しい知恵を持った人を採らなければいけない。
新 しい人材を確保しなければいけないのですが、これは 予定通りいきませんね。
簡単には適任者が見つからな い。
日本でも金融機関などでは、人材がかなり流動化 している。
ところが物流業界はまだそこまで動かない。
物流業界はまだまだ日の当たる、人の関心の集まる業 界にはなっていない。
ヤマト運輸ぐらいのネームバリ ューがあれば別でしょうけど、当社のような小さな会 社では、そう簡単に人は採れない」 ――日産の看板が外れたことで、人材を集めにくくな った? 「それは逆ですね。
かつての日産のイメージにしても、 それほど良くはなかったですからね。
(笑)当社が高 望みしているせいかもしれません。
実際、募集をかけ れば数はいくらでも来ます。
しかし、こちらの希望に フィットする人はなかなかいない」 ――先ほどの得意分野を磨くという点について伺いま す。
日産はバンテックの他に、物流子会社として日産 陸送(現・ゼロ)を持っていました。
日産陸送は完成 JULY 2002 36 車輸送がメーンですから、いわば自動車流通の川下の 物流です。
これに対してバンテックは川上の物流がド メインであり、そこが得意分野だという認識ですか。
「質問をはぐらかすようで悪いのですが、物流業者 である以上、もともと輸送と倉庫管理は得意なんです。
しかし当社が目指すのは物流業や運送業ではなく、ロ ジスティクス・プロバイダーです。
ロジスティクスと は日本語で、兵站とか後方支援とかという意味ですよ ね。
つまり顧客企業の『ノン・コアビジネス』は何で もできなければいけない。
従って当社が腕を磨かなけ ればいけないのは倉庫と輸送以外の機能です。
そうし ないとロジスティクス・プロバイダーにはなれない」 部品メーカーの物流子会社を買収 ――例えば部品会社と組立メーカーの間で発生した決 済を代行する。
つまり部品メーカーに変わって組立メ ーカーから代金を回収するという金融機能などは。
「それも一つですが、日本市場ではまだそのニーズ に顧客が気付いていない。
そこで当社も日本ではなく、 海外で子会社にそれをやらせています。
海外の自動車 部品業界では既にそういう方向に動き始めている」 ――組立メーカーへの納品では、ハイテク産業を中心 にVMI(Vender Managed Inventory: ベンダー主 導型在庫管理)倉庫が普及しています。
部品ベンダー によるJIT(ジャスト・イン・タイム)納品用の共 同倉庫ですね。
「それも二年ほど前から、日産との間で実施してい ます」 ――そうやって自動車業界で横展開していく場合に壁 になるのが、部品ベンダーの既存の協力物流業者の問 題です。
多くの場合それは物流子会社で、荷主がバン テックを使うには既存の子会社の仕事を切らなければ ならない。
こうした問題をクリアするには荷主の子会 社を買収するのも一つの選択肢だと思いますが。
「昨年、(米ジョンソンコントロールズオートモーテ ィブシステムズ社の物流子会社の)池田運輸を買収し ました。
他にも小さい会社だったので表には出してい ませんが、もう一つ物流子会社を買収しています。
買 収を検討した会社は既に五つくらいあります」 ――それは全て自動車部品の分野ですか。
「そうです。
あなたがおっしゃったように、当社が自 動車部品のプラットフォームを作ろうとすれば、仕事 がなくなる物流子会社が出てくる。
そのため荷主企業 は当社に買ってくれと話を持ってこられる。
買収を依 頼されれば、当社としても中身を検討します。
しかし、 内容を見てダメだということもある。
買って良い場合 は買う。
それだけです」 ――これまでは買収の対象も日産系の部品メーカーの 子会社がメーンだったようですが、トヨタやホンダ、 マツダなど日産以外の組立メーカーの物流子会社は買 収対象として検討されていますか。
物流のプラットフ ォームを作る上では有効な選択肢だと思いますが。
「そこはノーコメントです。
確かにこれからの市場で は小さな規模では成り立たない。
規模の拡大が課題だ とは思います。
物流業界でも、ある種のグルーピング が進んでいくでしょう。
力の強いところが残っていく 過程の中で、自動車部品が得意な会社が集まるとい う形で、系列に左右されないグループ化ができること もあり得る。
しかし今の時点で私が積極的にそういう ことを考えて動いているかといったら、それは少し時 期尚早と言わざるを得ない」 ――二〇〇四年度をメドに株式の上場を計画していま すね。
やはりMBOに資金を出した投資家たちにとっ て株式公開は絶対条件なのでしょうか。
おくの・しんすけ 1944年3月5日生まれ、 58歳。
奈良県出身。
66年、慶応大学工学部管 理工学科を卒業。
同年、日産自動車入社。
76 年から4年間、米国日産に。
89年販売促進部 長、94年東日本営業本部副本部長、96年取締 役を経て、99年6月に日産を退社、バンテッ ク社長に就任 PROFILE 特集 物流子会社 「池田運輸のケースでも、親会社のジョンソンコン トロール社が、物流子会社は不要だと判断したために、 当社に売りに出すことになったのでしょう。
やはり日 本企業のマネジメントとは違います」 ――自動車に限らず今は外資がどんどん日本市場に参 入してきています。
物流子会社には大きな影響が出る はずです。
「簡単に言うと、いずれ物流子会社はなくなります。
親会社が物流をコア・ビジネスと考えていない以上、 そうならざるを得ない。
私だってそういう立場になれ ば、そうします」 ――実際、欧米には日本のような物流子会社がほとん ど存在しないようですね。
「ありませんね。
かつての日本の物流子会社という のは、オーナーの小遣い稼ぎという側面がかなりあっ たはずです。
当社だってその例外ではなかったかも知 れない。
やはり儲けるなら本業で儲けるべきです。
ゴ ーンにしても、数億円という報酬を要求しているようですが、その良い悪いは別にして、あの方が普通です」 ――ゴーン氏だけでなく欧米企業のトップは、日本の 常識とは桁違いの報酬を手にしています。
奥野社長も そうした経営を目指すのですか。
「経営スタイルは欧米式かも知れませんが、個人の 懐のことに関しては別ですよ。
もともと日本人はそれ ほどガメツくありません」 ――MBOのような、極めてアングロサクソン的な経 営手法を断行した方にしては浪花節的ですね。
MBO の時の最大の狙いとしても雇用の確保を挙げていた。
「やはり欧米人と日本人では価値観が違いますよ。
一 緒にはならない。
もちろん私だって実際にビジネスの マネジメントをするときは極めてクールでドライです よ。
だから、よく二重人格と言われます(笑)」 37 JULY 2002 「株式の上場というのは目標の一つにはなります。
い ずれにせよ(当社に出資した)ファンド側から見た時 の出口を考えてあげなければならない。
その方法とし て上場がいいのか、それとも当社の価値を上げて、他 の第三者にリセールすればいいのか、といった選択肢 が出てくる。
しかし、リセールとなると当社に、また 別の大株主がつくということになる。
それによって経 営が混乱することもあるかも知れない。
今の段階では やはり上場の方が、これまでの努力が報われやすいと 考えています。
上場で得たキャッシュを出資者に還元 し、残ったお金で次のステップに進みたい」 ――次のステップとは、大型買収ですか。
「それはまだ考えていません。
新株を発行して非常 に高い値がつけば、資本金や準備金に充てることで、 資金的に余裕ができる。
それを買収に充てるというの も、よくある議論ではありますが、私としては、まず は当社の体質強化に使った方がいいという考えです」 「買収というのは、その後が大変です。
買収した企 業のそれまでのマネジメントのやり方を変えて、当社 のスタイルに合わせなければならない。
これにはかな りの労力が必要です。
実際、(昨年買収した)池田運 輸にしても年商五〇億円余りの規模の会社ですが、統 合にはかなり神経を使いました。
幸い一年で黒字化す ることができましたが、簡単な話ではなかった」 外資が子会社を切り捨てる ――池田運輸はもともと日産系部品会社の池田物産 の物流子会社でしたね。
日産は同社の持ち株を一時、 日本発条に売り渡した。
「そうです。
その後で米国の資本(ジョンソンコン トロール社)が入りました」 ――日産のケースもそうですが、外資が入ると、やは り物流子会社の扱いは変わってきますね。

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