ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年8号
ビジネス戦記
外資系荷主のコンペで連戦連勝

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2002 76 EXEテクノロジーズ 津村謙一 社長 米国でスタッフをかき集めて作った即席の 3PL営業部隊は、破竹の勢いでコンペを勝 ち抜いていった。
日本の大手物流企業とは全 く違うアプローチが、日本進出を目論む外資 系企業に高く評価された。
ところが、いざオ ペレーションを実行する段になって、思って もみなかった課題に直面することになった。
3PLはそれほど甘い商売ではなかった。
外資系荷主のタブー 米国でメンバーをかき集めた我が3PL チームは、日本市場進出を図る外資系荷主 企業のコンペで連戦連勝だった。
デル・コ ンピュータ、ギャップに続き、半導体大手 のマイクロン・テクノロジー社を獲得。
同 業のギャップを既に受注していたため、断 念せざるを得なかったが、ゲス(GUES S)やエディ・バウアー(Eddie Bauer ) も話に乗ってきた。
同様にデルのライバル のゲートウェイ二〇〇〇にも高い評価を頂 いた。
我々のような?素人〞集団が、日本の大 手物流業者を向こうに回し、互角以上の戦 いができた理由は、外資系の荷主企業が何 を嫌うのか、どのような対応がタブーなの かを、理解していたことが大きかったと思 う。
彼らが最も忌み嫌うのは、官僚主義的な 対応である。
時間を費やすプロセスや組織 は一切、受け付けてもらえない。
何か依頼 をした時に、担当者が責任を持って、いか に機敏に対応してくれるか。
彼らはそこを 重視する。
実際、オペレーションが始まれ ば、日々発生するオペレーション上の問題 に対して3PL側に速やかに対処してもら わなければ、荷主としてビジネス全体が滞 ってしまうのだから、当然といえば当然の 話だ。
顧客の要請に機敏に対応するには、顧客 と直接、顔を付き合わせている最前線の担 当者へのエンパワーメント(権限移譲)が必要だ。
ところが日本の大手物流企業は、 現場にそれほどの権限を与えていない。
担 当者自身では何も判断できない。
全て会社 に持ち帰り、上司にお伺いを立て、さらに そのまた上司、最後は社長のハンコをもら って、ようやく返事をするというのが常だ。
こうした日本流の対応は一番まずい。
我がチームは徹底的に各メンバーに権限 を与えることにした。
いちいち私に?お伺 い〞を立てる必要はない。
自分で判断して 構わないというルールだ。
これが効いた。
しかも、我がチームは全員、ネイティブス ピーカーレベルのバイリンガル。
意志の疎 通という点でも有利だった。
ちょっとした 【第5回】 外資系荷主のコンペで連戦連勝 77 AUGUST 2002 ニュアンスも問題なく通じる。
しかも即答 できるのだから話が早い。
コスト VS バリュー 素人集団だけに、チームのメンバーが過 去の日本の物流業の悪弊とは全く無縁であ ることも大きかった。
端的に言えば「コス トとバリュー(価値)」の問題である。
長 年、日本で物流の仕事に携わってきたプロ の物流マンは、荷主に提案する場合にも、 常にコストのことが第一にくる。
「これだ けの物量なら入出庫がいくらで、保管料が これくらいで‥‥」と頭の中で計算して、 一才当たり、坪当たりといった単価を弾く 癖がついている。
これに対して、我がチームは荷主に「バ リュー」を提案した。
それが受け入れられ た。
別にキレイごとを言っているわけでは ない。
実際、当社が一連の外資系企業に提 案した単価は他社よりも高かった。
それで も評価され、受注できたのは、それだけ 「バリュー」を評価されたからに他ならな い。
この「コストとバリュー」の問題につい て、私はこれまで何度も口にしてきたが、 いまだによく日本では理解されていないよ うに思う。
「バリューだなどと格好の良い ことを言っても、外資系企業だって最後は 単価で選んでいるのではないか」という疑 念を、日本の物流業者の多くはどうしても ぬぐえないでいるようだ。
しかし、本当にそうではないのだ。
この 連載にも登場する某外資系企業のコンペ担 当者に、コンペのずっと後になって、こん な話を聞いたことがある。
同社のコンペに は我がチームを含めて日本の物流業者十数社が参加した。
ズラリと並んだ提案書を見 くらべて、同社の担当者はまず、値段の高 い二社を外したという。
そして、次に値段 の低い五社を切った。
残る標準クラスの値 段を提案してきた候補者の中からパートナ ーを選んだのだ。
実は他の外資系荷主も皆、同じようにパ ートナーを選んでいる。
安過ぎる値段を提 示してくる候補者は信用してもらえない。
ところが長年、日本の物流業界の常識に浸 かりきってきた?玄人〞には、それが信じ られない。
裏があるのではと勘ぐってしま う。
もちろん、外資系荷主がコストを軽視し ているわけではない。
コストは極めて大事 な要因であり、ローコスト・オペレーショ ンは物流業の必須課題だ。
しかし、そこで検討されるコストとは、 ROIをはじめとした最終的な事業収益性 から評価されるべきものであって、運賃水 準や倉庫料の坪単価などではない。
それが 分からない限り、3PLなど実現できるは ずがない。
社内に思わぬ落とし穴 こうして富士ロジテックの3PLチーム の営業活動は期待していた以上に順調にス タートした。
しかし、思わぬところに落と し穴があった。
社内である。
いざ国内でオペレーションを開始する段 になって、様々な課題に直面することにな った。
長年、日本の物流業に慣れ親しんで きたスタッフに、「3PLとはこういうも のだ」といくら口で説明しても、なかなか 納得してもらえない。
イメージができない のである。
物流企業が3PLになるというのは、極 めて大きな変化だ。
その影響は当然、オペ レーションにも及ぶ。
3PL用の営業部隊 は何とか急拵えしたものの、実際のオペレ ーションは従来のスタッフがそのまま実行 することになる。
この現業部門の意識改革 が容易ではなかった。
デルのオペレーションを実行する時にも、 それが大きなネックになった。
当時、日本 のパソコン市場におけるデルのシェアは約 三%だった。
これに対してライバルのアッ プルは十二%のシェアを持っていた。
そし てアップルは日本国内に八〇〇〇坪を超え る規模の倉庫を大手物流業者から賃貸し、 そこに大量の在庫を抱え、注文をさばいて いた。
仮にデルがアップルと同じモデルのロジ スティクスを日本で展開したとすれば、シ ェアが約四分の一なのだから、倉庫面積と しても二〇〇〇坪程度を使用することにな るはずだ。
ところが実際に当社がデルに提 供した倉庫スペースは、わずか二〇〇坪に 過ぎなかった。
ただし、デルの二〇〇坪の 倉庫は高速で回転する。
AUGUST 2002 78 それだけにオペレーションの実行には、 それまでの物流業とは違う新しいスキルが 求められる。
その一つが「通電検査」だ。
「ミルスペック(Mil Spec )」に則って、パ ソコンの品質をチェックするという作業で ある。
「ミルスペック」とはペンタゴンが 定めている工業規格で、米国の自動車業界 やハイテク業界に広く普及している。
日本で物流業者の品質検査と言うと全て の製品をチェックする全品検査が常識だが、 ミルスペックは抜き取り検査だ。
例えば最 初は一〇〇個のうち一〇個を抜き取って検 査する。
一定回数それで不良品が出なけれ ば、抜き取り個数を減らしていく。
それで も不良品がなければ、さらに減らす。
その うち一つ不良品が出たら、今度は一〇個に 増やす、といった具合に、過去の実績から 編み出された法則に従って検査方法をコン トロールする。
抜き取り検査であるから当然、全品検査 に比べて手間とコストがかからない。
しか し、全品を検査したときよりも精度は高く なる。
全品を人手でチェックするとなれば、 品質チェック作業自体に一定の割合でミス が生じる。
それとミルスペックによる検査 方法を比較すると、最終的な精度はミルス ペックに軍配が上がるというわけだ。
「何だ。
たった二〇〇坪か!」 返品に関してもノウハウがある。
デルの 場合は、受注生産であるから理論上は倉庫 に完成品在庫はないはずだ。
ところが実際 には三%程度の在庫があった。
返品在庫で ある。
そのうちの大半は顧客の勘違いや注 文ミスによるもので、品質に問題があるわ けではない。
返品されたものでも大部分は 良品かつ新品であり、部材として改めて活 用できわけだ。
しかし、返品されたものを廃棄するのか、 もしくは分解して補修用の部材として活用 するのか、はたまた修理に出すのかを選り 分けていく、いわゆる「BOM(Bill Of Material 」と呼ばれる処理には、かなりの レベルの製品知識が必要だ。
そして、こう した返品の処理は、既存の物流業者が最も 嫌がる仕事の一つだ。
しかし、それを3P Lが提供するからこそ意味がある。
私に言わせれば、アップルの大規模倉庫 に必要なのは物流サービスだが、デルはサ プライチェーンサービスを求めていた。
そ こに我々の提案する3PLのバリューがあ った。
少なくとも3PLの営業部隊はそう 考えていた。
しかし、現業部門はそうは受け取らない。
「何だ。
たった二〇〇坪か。
大騒ぎしたわ りに、いくらにもならないじゃないか。
も っと一〇〇〇坪、二〇〇〇坪、使う荷主を 捜してこい」となってしまう。
物流企業が3PLに生まれ変わるには営 業部門だけが変わってもダメだ。
現場を含 めて、社内の全てのスタッフがコストから バリューに意識を切り替える必要がある。
そうしない限り3PLなど実現できないこ とを痛感させられたのだった。
PROFILE つむら・けんいち1946年、静 岡県生まれ。
71年、早稲田大学 政治経済学部卒。
同年、鈴与入 社。
79年、鈴与アメリカ副社長 就任。
フォワーディング業務、3 PL業務を展開。
84年、米シカ ゴにKRI社を設立し、社長に就任。
自動車ビック3、IBM、コンパッ クといった有力企業とのビジネ スを経験。
92年、富士ロジテッ クアメリカ社長に就任。
98年、 イーエックスイーテクノロジー ズの社長に就任。
現在に至る

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